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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
四章(アスティリアのドラゴン編)

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第八話 最強の陰陽師、ドラゴンを墜とす


 入山して、二日目の朝。

 ぼくは、目的地である山頂にたどり着いていた。


 傾斜の緩い、ひらけた場所だ。

 山道はずっと森だったのに、この辺りだけは不自然に木がなく、代わりにゴツゴツした岩がいくつも転がっている。


 炭化した幹がそこかしこに見られることから、ドラゴンが木を焼き払い、なぎ倒して、岩石を運んだことは明らかだった。


 そうして作られた住処(すみか)の主が、今ぼくの目の前で首をもたげた。

 厳めしい鱗の奥にある眼光。

 それに射すくめられながら、ぼくは笑った。


「やあ」


 巨大なドラゴンへ朗らかに挨拶する。


 やはり、でかい。

 尻尾までで十丈(※約三十メートル)は余裕で超えているだろう。頭の大きさだけでぼくの身長以上だ。


 先ほどまで岩石の積み上げられた巣の上で眠っていたドラゴンは、明らかに敵を見るような目でぼくを睨んだ。


「グルルルゥゥォォオオオ――――ッッッ!!」


 突然、ドラゴンが吠えた。

 牙の並ぶ(あぎと)が大きく開かれ、仄赤い光がちらつき始める。


 次の瞬間、炎の息吹(ブレス)が吐き出された。


 ぼく一人など余裕で飲み込んでしまうほどの火炎が、山頂に熱と光の道を作り出す。


「――――まあ、結界で効かないわけだけど」


 炎の中から無傷で現れるぼくを見て、ドラゴンはいらだったように何度も息吹(ブレス)を吐きかける。

 しかし当たり前ながら、何度やっても同じことだ。


「……お?」


 その時、ドラゴンが急に翼を広げた。

 微かな力の流れ。何か魔法が使われたらしく、ゆったりとした翼の羽ばたきと共に巨体が宙に浮いていく。猛烈な吹き下ろしの風に、ぼくは思わず顔をしかめる。


 普通ならあんな巨体が飛べるわけない。

 だが、空気の密度が濃いと離陸も楽になる。どうやら上位龍のように気圧を操れるようだ。暴風雨を引き起こすアレよりかは、だいぶ規模が小さいが。


 山の上空へと飛び立ったドラゴンを見て、ぼくは首をかしげる。

 どうする気だろ。まさか逃げるわけじゃないだろうけど……。


 と、その時、ドラゴンが空中で旋回した。

 ぼくをまっすぐに見据えたまま急降下してくる。

 今回は初めて遭遇した時とは違い、威圧で済ます気はないみたいだ。


 巨体が間近に迫る。

 開かれたその太い爪に捕らえられる瞬間――――ぼくは、近くの式と位置を入れ替えた。

 ドラゴンの爪の間を、ヒトガタがひらひらとすり抜ける。

 ぼくを掴み損なった脚は代わりに近くの巨岩にぶつかって、上半分を粉砕していた。

 いやぁ怖い怖い。


 空振りしたことが不思議そうなドラゴンは、空中で再びその巨躯を旋回させる。

 そろそろ真面目にやるか。


 ぼくはドラゴンの真上に飛ばしていたヒトガタの扉を開く。


《召命――――児啼爺(こなきぢぢ)


 空間の歪みから現れたのは、老爺の顔をした赤ん坊だった。

 醜悪な姿をしたその(あやかし)は、そのまま飛行するドラゴンの背にしがみつき、皺だらけの顔を歪ませてむずがる。

 そして、大声で泣き始めた。


「ふんぎゃぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!」


 その瞬間――――ドラゴンの体が、空中でがくっと沈んだ。

 ドラゴンは焦ったように何度も翼を羽ばたかせるも、赤ん坊の泣き声が響く度に高度が落ちていく。


「ああああぁあぁっんんぁぁぁあああ゛あ゛あ゛!!」


 一際大きな泣き声が上がり――――ドラゴンは山頂に墜落した。

 激しい衝撃により、児啼爺(こなきぢぢ)がドラゴンの背から転げ落ちる。


「あっ……」

「ふぎっ!!」


 顔面から地面にめり込んだ妖は……潰された蛙のような声を上げて動かなくなった。


 ……ちょっとかわいそうなことしたな。

 あいつ、別に神通力で相手に取り付くわけじゃなくて、ただ握力でしがみついてるだけだからな。

 さすがに飛んでいるドラゴンの相手をさせるのは酷だったか。


 しかしながら、よくやってくれた。

 児啼爺(こなきぢぢ)は、山中で赤子を装って泣き、哀れに思い背負った人間を押し潰してしまうという妖だ。

 泣く度に重くなり、その重量は最大で背負った者の体重の十倍ほどにまでなる。

 あのドラゴン相手なら……下手したら五万貫(※約百九十トン)くらいにはなっていたかもしれない。


 児啼爺(こなきぢぢ)を位相に戻していると、重しのとれたドラゴンが再び翼を広げようとした。

 そこに、ぼくはヒトガタを向ける。


「ダメダメ。大人しくしてろ」

《土の相――――火浣網(かかんもう)の術》


 白い太縄で編まれた投網が、ドラゴンの上に覆い被さった。


 抵抗するドラゴンが激しく暴れ、四方八方に息吹(ブレス)を吐き出す。

 だが白い投網は、ちぎれることもなければ焼き切れもしない。


 ユキが恐る恐る顔を出して言う。


「……ずいぶん頑丈な網でございますね」

「石綿を編んだ縄でできてるからな」


 石綿は非常に強靱な素材で、熱にも強い。

 火にさらされたところで、汚れが燃えてきれいになるだけだ。


 やがて、さすがに疲れたのか、ドラゴンが暴れるのをやめた。

 とはいえまだぼくを睨んでいるし、微妙に唸り声を上げてはいるが。


「妖など使わず、最初からこの投網(とあみ)の術で捕まえてしまえばよかったのでは?」

「空中でいきなり翼が使えなくなったら危ないだろ」

「……珍しいですね、物の怪にご容赦なさるなど」

「そうか? まあ今回は、ぼくの方が招かれざる客だからな」


 それに、勝手に倒してしまうわけにもいかない。


 ユキは調子に乗ったような声音で言う。


「ふん。しかしながら、こちらの世界の物の怪は弱いですねぇ」

「あー、でも、こいつはたぶん普通の龍くらいは強いぞ」

「あっ……そうでございますか」


 ユキが伸ばしていた首を引っ込めた。


 ぼくは歩き出す。


「さて、まずはこいつの巣から調べてみるか」


 岩を集めた寝床に近づいていくと、ドラゴンが吠えて暴れ出した。それを無視し、ぼくは岩山に足をかける。

 そうして、巣を覗き込んだ。


 思わず目を(みは)る。

 薄く砂の敷かれたそこには――――淡い黄色をした、一抱えほどもある楕円形の球体が一つ鎮座していた。


 首を伸ばしたユキが呟く。


「セイカさま、これはまさか……」


 軽く、その球体の表面に触れる。

 滑らかだ。重量感があり、かなり硬そうだが……間違いない。


「――――卵だ」

※火浣網の術

石綿で作られた網で対象を捕獲する術。石綿(クリソタイル)の引っ張り強度は30,000kg/m^2。これはピアノ線以上であり、撚り合わせた縄の強度は理論上炭素鋼製ワイヤーを超える。さらには柔軟性、耐薬品性、耐摩耗性に富み、耐熱性ともなると分解温度がピアノ線のそれをはるかに超える450~700℃、溶解点は1,521℃を誇る。

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