表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
四章(アスティリアのドラゴン編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/238

幕間 イーファ、プロトアスタ首長公邸にて①


 ドラゴンの棲む山へおもむくセイカを見送った後。

 イーファは一人、滞在する部屋への道を戻っていた。


 手持ち無沙汰な気持ちになる。

 自然と、溜息が漏れた。


 アスティリアへ一緒に行けると決まった時は、これで少しは従者としての仕事ができると、セイカの役に立てると思っていた。

 だけど現実には、ただ足手まといになっているだけだった。


 そんなことを思いながら、あてがわれた部屋の扉を開ける。

 室内には、先客がいた。


「ん、戻ったか」


 イーファは目をしばたたかせる。

 そこにいたのは、学園でセシリオ王子のそばに控えていた、亜人の女性だった。


 透き通るような白い肌に、尖った耳。

 それが森人(エルフ)という種族の特徴であることは、イーファも知っていた。


 不思議と、怖くはなかった。

 好きだったおとぎ話にも出てくる、神聖な種族という印象があったせいかもしれない。


 ただ。

 今の状況は若干、わけがわからない。


「え、あの……なにかご用ですか?」

「お前とは一度二人きりで話したかった。まあ座れ」


 森人(エルフ)の女性――――たしかリゼと呼ばれていた――――は、まるで部屋の主であるかのようにそう促した。

 仕方なく、イーファはそばにあった椅子に腰掛ける。


 リゼは自分は座ろうとせずに、部屋を歩き回りながら話し出す。


「プロトアスタはいいところだろう」

「は、はあ……」

「街には歴史があり、住民は善き人々で、そして何より土地の魔力にあふれている。古来から我が森人(エルフ)の種族がアスティリアと深く交流していたのも、あのドラゴンがこの街を長く見守ってきたのも、すべてはこの豊かな魔力のためだ」

「そ、そうなんですか……わたしは、魔力とかよくわからないですけど……」

「いや、わかるだろう」


 森人(エルフ)は、その翠の双眸をまっすぐイーファに向ける。


「これほど精霊がいるんだ。それくらいはお前も察していたはずだ」

「ええっ、せっ……あ、いえその、なんのことか……」

「誤魔化す必要はない」


 そう言うとリゼは、手を掲げ、宙を泳いでいた青い魚――――水属性の精霊を細い指でつまむ。


「この地に精霊は多いが、特にこの、青の子らがここまで満ちている都市も珍しい。背後に山がそびえ、周辺の水源に事欠かないためだろう。そのせいか、この街で生まれる子には水属性の適性を持つ者が少なくない」


 リゼが指を離すと、青い魚はあわてたように泳ぎ去って行く。

 思わずそれを目で追っていたイーファは、リゼの視線に気づくとはっとしてうつむいた。


 それから、恐る恐る森人(エルフ)を見上げる。


「……どうして、わたしがその、見えるって……」

「そう思わない方がどうかしている。魔石や魔道具でそれほどの精霊を集めている者が、それを意図していないなどと誰が思うだろう。学園の食堂でお前を見た時、私は驚いたぞ。そしてすぐに思い至った。この娘は、我らの末裔(まつえい)なのだと」

「ま、末裔、って……」


 イーファは、戸惑った声を上げる。


「子孫、ってことですよね? わ、わたしが……?」

「そうだ。今ではもう知る人間も少なくなったが、我ら森人(エルフ)の魔法は、他の種族やモンスターの使う魔法とは大きく異なる」


 リゼはイーファを見下ろしながら続ける。


「魔力で精霊を(まと)い、精霊に呼びかけることで神秘の事象を引き起こす。精霊と交流する力こそが、森人(エルフ)の権能なのだ。学園では、集めた精霊に呼びかけて魔法を使っているのだろう? お前の魔法は、まさしく森人(エルフ)の魔法だ」

「で……でも」


 イーファが困惑したように言う。


「……わたしは、普通の人間です。あなたほどの魔力だって、持っていません」


 初めて見た時から、リゼの周りには色とりどりの膨大な精霊が渦巻いていた。

 きっと、相当な魔力を持っているのだろう。

 言われたリゼは、ふっと笑って答える。


「私を基準にするな。これでも腕には覚えがある方だ。まあ確かに、お前にはほとんど魔力が見受けられない。そのうえ、種族的な特徴も薄い。だがその程度はささいな問題なのだ……両親のうち、金髪はどちらだ?」

「え、えっと、母です……」

「ならば母方の遠い祖先に森人(エルフ)がいたのだろう」

「で、でも……」

「魔力量は種族の中でも多寡がある。容貌の特徴も、人間の血が濃くなれば消える。だが、その精霊を見る目は別だ。それは紛れもない我らが同胞の証……お前の母親には見えていたか? 見えていなかったのなら、お前は特別な先祖返りだ。よかったな」

「……」


 イーファは呆然としていた。

 自分の力のルーツが、まさかこんなところで判明するなんて思ってもみなかった。

 自分が、かつておとぎ話で読んだ神聖な種族の子孫だということも。


 言葉のないイーファに、リゼは落ち着いた口調で語りかける。


「これも精霊の巡り合わせだ。思わぬところで同胞に出会えたことは私もうれしい。だが……同時に、哀れにも思う。奴隷身分だ、これまで大変な苦労があったことだろう」

「そ、そんなこと……」

「実を言えば、今日は我らが若様に代わり、私がお前を説得に来たのだ」


 森人(エルフ)が微笑を浮かべて告げる。


「アスティリアの後宮(ハレム)に来い、イーファ」

「えっ……」

「あそこはなかなかおもしろい場所だぞ。かつて在籍していた私が保証しよう。我らが若様はまだ青臭いゆえやや頼りないが、悪い男ではない。お前を今の主人から救い出す甲斐性くらいは見せてくれるだろう。まあもっとも、だからといって無理に妃となる必要も……」

「あ、あのっ、すみません!」


 イーファがあわてて遮った。

 それから、視線を逸らしつつ言う。


「お、お気持ちは、うれしいです。でも……わたしはやっぱり、後宮には入りません」


 元より、イーファにその気はなかった。

 セイカに言われても、自分がそこにいるイメージは湧かない。


「それに……今だって、わたしは十分幸せです。学園は楽しいですし、セイカくんもやさしいです。だから、今以上の生活なんて望みません」

「……何を言っているんだ?」

「えっ」


 イーファは、リゼの顔を見た。

 思わず困惑する。

 そこには、理解不能といった表情が浮かんでいたからだ。


「お前は……あの少年の奴隷のままでいいというのか?」

「え、あの……」

「私がお前を後宮に誘ったのは、何も出世や王妃になる道が開かれるからではない。若があの少年からお前を買うというのならば、それはお前にとっても願ってもないことだろうと思ったからだ。無論、若は気づいていなかっただろうが……」

「ま、待ってください。何の話をしているんですか? セ、セイカくんを悪く言っているのなら、わたしだって怒りますよ!」

「……お前も、気づいているはずだ」


 リゼは、微かに緊張の滲んだ声で言った。


「あの少年は化け物だぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作公開中!
少年辺境伯が「婚約」を頭脳で拒絶――
シリアス×笑い×政略バトルが好きな方に。

『冷血貴族の婚約拒絶録 ~オレは絶対に、結婚などしない~』





ツイッター作者Twitter

新装版1~8巻が発売中!

表紙絵

コミカライズ1巻はこちら

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ