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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
三章(帝都トーナメント編)

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第九話 最強の陰陽師、三回戦に臨む


 邪視使いのカイルは、二回戦も同じように勝利した。

 相手は屈強な剣士だったが、邪眼の前には為す術なかったようだ。

 再び転がった死体に、観客席の一部は大いに沸いていた。


 カイルの方は予想の範囲内だったが、レイナスは少し違った。

 一回戦で土と風の魔法を見せていた若き騎士は、二回戦ではなんと火と水の魔法を使い、またまた鮮やかに勝利を収めたのだ。

 四属性を使える魔術師はかなり珍しいようで、その涼しげな顔立ちも相まって人々の話題を一気にさらっていた。オッズも一番人気だ。


 そんな流れで第二回戦が一通り終了し、ぼくの三回戦。


『セイカ・ランプローグ選手の登場です! セイカ選手、どうやら同じ学年の女子生徒が応援に来てくれているようですね。うらやましい限りです!』


「おい」


 観客席の一部からブーイングが沸き上がる。余計な事言うな。


『さて、キーディー選手の死獣を相手にどのような戦いを見せてくれるのでしょうか!!』


 ぼくは対戦相手を見る。


 正面に立つのは、白い髪の女だった。

 年齢がわかりにくく、少女にも老女にも見える。


 ただ、そんなことはどうでもよかった。

 ぼくはキーディーとかいう魔術師に、ずっと思っていたことを告げる。


「それさぁ、ずるくないか?」


 女魔術師を守るように散開しているのは、黒い毛並みを持つ狼の群れだった。

 ただし、ところどころ肉は腐り、骨が見えている個体もいる。


 女がにやりと笑い、しわがれた声で答える。


「ひぇっひぇ。なにがずるいさね」

調教師(テイマー)召喚士(サモナー)は出場禁止のはずだろ」

「ひぇっひぇっひぇっひぇあたしゃ死霊術士さ! 使役するのもモンスターじゃなく獣の死骸。どこに文句があるってんだい」


 と、女がのたまう。


 いや、死骸に入れる霊魂はモンスターと大して変わらないだろ。

 呼び方の問題じゃないか? 納得いかない……。


『キーディー選手はこれまで、死獣を用いた数の差で試合を制してきています。未だ底を見せないセイカ選手ですが、多勢に対抗する手段はあるのでしょうか? その点が勝敗の決め手となりそうです』


「ひぇっひぇ。戦いは数さ」


 死霊術士の女は笑う。


「剣士も魔術師も関係ない。多こそが個の天敵さね。どんな冒険者だって、一人ではダンジョンに潜れない」

「……」

「獣の群れに襲われ、生き残る自信があんたにはあるかい?」


 いや、言いたいことはわかるんだけど……。


『それでは――――試合開始です!!』


 司会の声と共に、笛が鳴った。


「行きなッ、死狼どもッ!」


 扇状に広がった黒い死骸の狼たちが駆け出し、こちらに迫る。

 ぼくは腕を組んだまま呟く。


「やっぱりそれ、ナシでしょ。とりあえず大人しくしてくれ」

《土水の相――――混凝土(こんぎょうど)の術》


 ヒトガタから吐き出された灰色の泥の波濤が、狼の群れを飲み込んだ。


「ひぇ?」


 泥はそのままキーディーをも飲み込み、押し流していく。

 そして、完全に固まった。


『おっとこれはーッ!? セイカ選手の……これは土か水の魔法でしょうか!? 泥がキーディー選手と死獣に襲いかかりましたぁ! ギリギリ場外ではないようですが……泥が岩のように固まっています! キーディー選手、死獣共々動けない!』


「な、なんだいこりゃぁッ!?」


 固まった泥の上から片腕と頭だけを出して、キーディーが喚く。

 ぼくは周囲で狼がもがく中、泥の上を歩いて女術士の前に立つ。


「アストラル系のモンスターがいるのに、霊魂はモンスターじゃないってその理屈はないだろ。それはそうと、これって戦闘不能だよね?」

「ぐっ……」


『ここで笛が鳴りましたぁーッ! 名門伯爵家の神童は強かった! セイカ・ランプローグ選手、準決勝進出です!!』


 ぼくが踵を返して歩き出すと、キーディーがあわてたようにもがき出す。


「こ、こらっ! まさかこのままほっとく気じゃないだろうね!?」

「心配しなくても出してあげるよ」


 ぼくは泥から降りると、内部に埋め込んでいた数枚のヒトガタに呪力を込める。

 その瞬間、泥の各所に亀裂が入り、全体が砕け散った。

 ステージの端っこでもがいていた女術士は、その拍子にステージから転げ落ちる。

 ここからじゃ見えないけど、狼が動いているから頭を打ったりはしていないかな。


 やれやれ。



****



「変わった術でございますね。ユキは初めて見ました。セイカさまならば、あのような岩に変わる泥も生み出せるのですね」


 ユキの言葉に、ぼくは苦笑する。


「いや。あれは元々人の技術者が発明した建築材料だよ。ぼくはそれを術で再現しただけだ」


 別に陰陽術を使わなくても、水に火山灰や石灰岩を適量混ぜることであの泥は作れる。時間と共に硬化する人工の岩だ。

 かつてローマで巨大な円形闘技場や公衆浴場を作るのに使われたというこの技術を、ぼくはイスラムの技術者から聞いて知っていた。速乾性を高めるために成分は多少いじっているが、基本はそのままだ。


 千年の時を耐えるほど強靱な素材だが、内側からの圧力には弱い。内部にヒトガタを仕込んで衝撃を加えてやれば、壊すのも簡単というわけ。


「セイカさまはなんでも知っておられますねぇ。大工仕事を好き好んで学ぶ術士など、セイカさまくらいではないでしょうか」

「勉強するのは嫌いじゃなかったからね」


 世の中、意外なことが役に立つもんだ。

※混凝土の術

大量の生コンクリートによって相手を固める術。ベースとなっているのはケイ酸ポリマーが主体のいわゆる古代コンクリートだが、硬化を速めるために成分は調整されている。古代ローマで全盛を誇った古代コンクリートの技術は、現実にはローマ帝国の滅びと共にそのすべてが失われたが、作中ではセイカの転生前の時代、イスラム文化圏にのみ細々と伝えられていた。

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