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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
一章(転生・学園入学編)

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第二十三話 最強の陰陽師、幸運を喜ぶ


「さて、あとは(みずち)を回収して終わり……って、あ、おい!」


 ガレオスを食わせた蛟が、空中で暴れ出した。

 食中毒!? いや違う。

 あいつ、逃げようとしていやがる。


「くそ……このっ……大人しく戻れっ!」


 式神を何体も飛ばし、無理矢理押さえつける。

 扉を開き、なんとか巨体を位相へと押し戻すと、ぼくはようやく息をついた。


「セイカさまっ」


 近くの樹から、白く細長い狐姿のユキがたたっと駆けてくる。

 頭に登るのを待ってからぼくは言う。


「悪かったなユキ。もしかして、入れ替える時に置いていかれたか?」

「それは大丈夫でしたが、ユキはお役に立てなさそうでしたので隠れておりました」

「すっかり忘れてたよ。先に言っておけばよかったな」

「ユキも管ですので、その程度のことはなんの問題もございません。それより、よろしかったのですか?」


 ユキは心配そうに言う。


「あの程度の相手に、貴重な身代(みのしろ)のヒトガタを三枚も使ってしまって」

「元々動作確認のために三、四回死ぬつもりだったから予定通りだよ」

「そうでございましたか。それで、術の具合はいかがでしたか?」

「最高だね。ここまでとは思わなかった。やっぱり乳歯とは言え、媒体に歯を丸ごと一本使えると違うな」


 傷病をヒトガタに移し替える身代の術は、対象の体の一部が必要になる。

 普通は髪の毛とかを使うのだが、今回ぼくは、抜けた乳歯一本分の粉末をヒトガタに練り込んでみたのだ。

 前世でも親知らずを使って同じことをしたが、ケチって何枚にも分けたせいかここまで劇的に蘇生することはなかった。


「実験でも何枚か消費したけど、まだ十枚以上あるから大丈夫だよ。これからはそう簡単に死ぬつもりはないしね。ただ……それ以外のヒトガタは、だいぶ無駄にしちゃったな」


 止血に使ったり打ち落とされたり……いったいいくら分損してしまっただろう。

 まさか学園で紙の自作はできないから、これからヒトガタの素材は買うしかないってのに……。


 溜息をつくぼくを見て、ユキが言う。


「死ぬのはちゃんとした機会にして、最初から(みずち)……いえ、牛鬼か六尾あたりにでも任せておけば十分だったのでは?」

「いやぁ、転生してからこんな機会は初めてだったからさ。自分で戦いたかったんだよ」

「はぁ。楽しかったですか?」

「まあね。いくつか術も試せたし。でも、やっぱりだいぶなまってるな。それに……まさか、蛟ごときに反抗されるとは」


 実はちょっとショックだった。


 でも、無理もないか。

 前世に比べ、ぼくはたしかに弱くなっている。


 ヒトガタのストックは全盛期の十分の一もないし、封印している妖だってそう。

 切り札だった鬼神スクナは倒され、雷龍や氷龍といった天候すら操る上位龍も、軒並みあの子に奪われてしまった。


 なんと蛟が今の最高戦力だ。悲しすぎる。


 唯一呪力の巡りだけはいいが、体もまだできあがってないし、いろいろ物足りないのはたしかだ。

 最強でなくていいけど、せめて前世の強さには戻りたい。じゃないとどうも不安だ。

 もっとがんばろう。


 ユキが言う。


「たしかに今日のセイカさまは、ユキが呼ばれてから一番楽しそうでございました。それならばよかったです!」

「……」

「セイカさま?」


 よくよく思い出してみると。

 ちょっとぼく……テンション上がりすぎてたな。


 なんか、だいぶ恥ずかしいこと言ってた気がする……。


「……ユキ。今日のことは、誰にも言うんじゃないぞ」

「……? はい、もちろんでございます」


 ユキは続けて言う。


「そうだ、セイカさまは歌も詠まれたのですね。すてきです! 昔詠まれた恋歌とか、ユキは聴きたく思います!」

「やめてくれ……」



****



 講堂へと戻ると、中からざわめきが聞こえてきた。


 人は未だ多いものの、パニックの治まった出入り口から中に入り、ほどなくイーファの姿を見つける。


「あっ、セイカくん! どこ行ってたの?」

「ちょっとね。大丈夫だった?」

「う、うん。セイカくんの言ってたとおり、デーモンはみんな倒されたよ。怪我人は出たけど……」


 ぼくは会場の様子を見る。


 三体のレッサーデーモンが、灯りの下に倒れ伏していた。


 死骸は焼け焦げていたり、明らかに人が持てない巨大な剣に貫かれていたりする。

 戦いは、つい先ほどまで続いていたようだった。


 ガレオスを倒してこいつらがどうなるか心配だったが、自爆とかしなくてよかった。

 怪我人は仕方ないだろう。

 いくら雑魚でも、不意を突かれれば完璧な対応は難しいからね。


 ふと、デーモンの死骸の一つ。その上に立つ、赤い髪の少女が目に入った。

 返り血を浴び、死骸に剣を突き立てたまま肩を上下させるその姿を、生徒達が遠巻きに見ている。

 それらは畏怖のまなざしだった。

 まさか……、


「アミュさん……デーモンを一体、倒したんだよ。一人で……」


 イーファの声も、微かに震えている。


 なるほど。

 どうりで見覚えのある景色だと思った。


 あれは、前世のぼくだ。


 勇者か……いいね。

 ぼくは笑いそうになる口元を隠す。


「イーファ。ぼく、先に寮に戻ってるね」

「えっ、セイカくん?」


 踵を返す。


 明るい会場を離れ、暗い廊下を歩いて行く。


「セイカさま……?」


 不安そうなユキの声にも、今は答える気が起きない。


 ぼくが魔法学園に来たのは人を探すためだ。

 多くの才能が集うここなら、ひょっとしたらいるんじゃないかと思った。

 でもまさか。

 まさかこんなに早く、見つけられるなんて。


 最強になりうる者を。


「……ユキ。今生のぼくは、ずいぶん運に恵まれているみたいだ」


 世界はその実、暴力で動いている。

 ガレオスの言っていたことは、そう的外れでもない。


 だが、狡兎死せば走狗煮られ、出る杭は打たれるように。

 自分が強くなっても、最後には周りに引きずり倒され、押し潰される。

 それは前世で、ぼくが身をもって知った。


 だから必要だった。

 ぼくの代わりに、最強になってくれる者が。


 ぼくと繋がりのあった役人どもが、朝廷ででかい顔をしていられたように。

 最強の傘の下こそが、きっと一番利益を得られる。


 イーファでは力不足だった。

 だけど、勇者なら申し分ないはずだ。


 彼女の仲間になろう。信頼される仲間に。

 最後には、彼女も押し潰されるかもしれない。

 だけどぼく自身は――――今度は、それを悲しむだけで済む。


 今度こそ、ぼくは幸せになれるんだ。


 口元の笑みを抑える。

 もしかしたらまた魔族が襲ってくるかもしれないけど、大丈夫だよ。アミュ。


 魔王とかいうのを倒してでも、

 ぼくが君を最強にしてあげるからね。

一章、終わりです。

次、二章です。

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