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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
十章(母の記憶編)

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第十七話 最強の陰陽師、聞き込む


 里では、およそ半月が経過していた。

 神殿に戻った時、窓の外では雪がちらついていた。



****



「おかえり、セイカ! 無事でよかった~。寒くなってきてたから心配してたんだ。お腹空いてるでしょ? すぐごはんにするから!」


 半月ぶりに帰ってきたぼくを、メローザは相変わらず明るく迎えてくれた。


 食事の席はいつものようにやや気が重かったが、これまでよりも気まずさは感じなかった。

 アミュたちが、会話の間をうまく持たせてくれていたためだ。それにメローザ本人も、あまりぼくに話を向けてこなくなった気がする。

 イーファが言っていたように、気を回してくれているのだろう。あるいはメローザに対しても、ぼくとの距離感について伝えてくれていたのかもしれない。


 ありがたさよりも、申し訳なさの方が、少しだけ勝った。


「あ、そうだ。あんたに伝えておかなきゃいけないことがあったのよ」


 食事中、唐突にアミュが言った。

 ぼくは訊ねる。


「なんだ?」

「あー……今じゃなくてもいいかしら」


 言いよどむアミュに、ぼくは食事の手を止めて言う。


「明日は、この集落の者に話を聞きに行くつもりなんだ。早ければ明後日にはまた山へ向かう。大事なことなら、忘れないうちに話してくれないか」

「うーん……それもそうね」


 アミュは気を取り直したようにそう言った。

 どうしても今話せない話題というわけでもないらしい。


「あんたから預かってた呪符だけど……たぶん効かなくなってきてる」

「……どういうことだ?」


 眉をひそめて訊ねると、アミュは説明する。


「一日一回確認して、破れてたら貼り替えるって話だったでしょ?」

「ああ」


 それを見越して、呪符は余分に渡していた。

 ただ実際のところ、あの呪符が破られることはそうないと思っていたのだが……。


「まさか、残りが心許なくなってきたのか?」

「というか、ないわ」

「……は?」

「ゼロよ。今日で全部なくなったの。あんたが戻ってこなかったらどうしようかと思ってたところ」

「……」


 それは、ぼくに少々の驚愕をもたらした。

 あの呪符は、元々気休めのようなものだ。(まじな)いを防ぐのではなく、弱める程度の効果しかない。だからこそ逆に、破壊には強いはずだったのだが。

 アミュは続けて言う。


「最初はそうでもなかったんだけど、朝見たとき、だんだん破れてることが多くなってきたのよ。今だともう半日くらいしか持たないんじゃないかしら。それにあんたが山に行っている間、眠っちゃう人も増えたわ。霧もなんだか濃くなってる気がする。たぶん、異変の力が強くなってきていて……あの呪符だともう、あんまり効果がないんじゃないかと思うんだけど」

「……」


 ぼくは思わず沈黙してしまった。

 異変の影響が増している? あの呪符を一日足らずで破るほどに?

 だとすれば……原因はなんだ?


「……わかった。ひとまず、新しい呪符を預けておく。明日までには用意するから、もうしばらくの間、ここを頼む」


 今は、そんな場当たり的な対処法しか思い浮かばなかった。

 ただ、それほど大きな問題でもない。

 異変さえ鎮められれば、すべてが解決するのだから。



****



 翌日、ぼくは区長のエイダンフとセゼルテに、話を聞きに行った。

 山で見た何者かの記憶について、確認したいことがあったからだ。

 だが。


「かつてこの地を治めていた、人間の国じゃと?」


 エイダンフが、思い切り眉をひそめて言った。


「知らん。聞いたこともないわい」

「……私もわからないわ。母からも、そんな話は聞いたことがありませんでした」


 セゼルテもまた、困惑気味に否定する。


「この忌まわしい地には、魔族はもちろん人間も住んでいなかったと聞いていたわ。その国は、どのくらい前に存在したものなの?」

「それは……なんとも……」


 ぼくは口ごもる。

 むしろこちらが聞きたいくらいだった。


 山で夢の中に垣間見た、人間の国。

 赤みがかった肌の人々が住む、女王の治める都市国家。わかる特徴としてはそれくらいだ。あとは、いくつかの地名くらいか。


 ぼくは少し考え、訊ねる。


「この周辺で、城壁や砦の跡が見つかったことはありませんか?」


 エイダンフとセゼルテは一瞬視線を交わした後、そろって首を横に振る。


「では、クイロウやヘディヘイという地名に聞き覚えは?」


 答えは同じだった。

 ぼくはさらに訊ねる。


「それなら……赤みがかった肌を持つ人間に、出会ったことはありませんか?」

「……さあのう」


 エイダンフが背もたれに体重を預けながら言う。


「会ったことがある気もするが、ない気もする。儂らに人間の細かな違いなど判別できん。人間のことならば、人間の国で暮らしている者の方が詳しいのではないか?」

「……」


 そのとおりだった。

 だがぼく自身、あのような人種は見たことがない。


 見かねたように、セゼルテが言う。


「この集落には、私より長く生きている者もいるわ。もしかしたら、何か知っているかもしれません。よければ、私が話を繋ぎましょうか?」

「それは……ぜひ、お願いします」


 その後ぼくは、セゼルテの伝手(つて)を使い、老年の森人(エルフ)のもとを回った。

 だが……夢で見た人間の国を知る者は、一人もいなかった。

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