第三話 最強の陰陽師、再会する
春になるまでは、帝都でゆっくりできる。
皇帝が何か仕掛けてこない限り、そうなるものだと思っていたのだが――――ぼくらのそんな期待は、四半月も経たないうちに裏切られることになった。
「しばらくぶりだねぇ、ランプローグの」
フィオナの住む、離れの一室にて。
ぼくの目の前に座っていたのは、帝立ロドネア魔法学園の長である矮人の老女だった。
「おや……少し見ないうちに顔つきが変わったようだ。若者の成長は早いね」
にやりと口元に笑みを浮かべ、学園長が言う。
この矮人の老女とは、およそ一年半ぶりの再会だった。
ぼくは表情を固くする。
「……お久しぶりです、先生。学園を去った元生徒に、今日はどういった用向きで?」
「まあそう身構えなさんな」
まるで見透かしたように、学園長は言う。
「去り際の無礼を、別に気にしちゃあいないよ。若者なんて皆あんなものさ」
ばつが悪いぼくは、思わず顔をしかめる。
この矮人の老女と最後に話したのは、アミュが攫われた明くる日の学園長室だった。
たしかぼくは、ずいぶんなことを言うだけ言って、そのまま蛟で学園を飛び出してしまっていた気がする。
あの時はアミュのことがあって頭に血が上っていたとはいえ、あれはほとんど八つ当たりのようなものだ。
しかもその後、イーファとメイベルに事情を説明してくれたり、ぼくらの身分も休学中という扱いにしてくれたりと、いろいろ便宜を図ってくれていたらしい。
そういった負い目もあり、正直顔を合わせにくかった。
ただ……その一方で。
ぼくが身構えるのには別の理由もあった。
今この時に、学園長がぼくのもとを訪れた目的がわからない。
帝都での用事ついでに、かつての教え子の顔を見に来た……などという平和な目的ではないだろう。
アミュたちを置いて、ぼくだけに面会を求めるのは妙だった。
「立ち話では落ち着かないでしょう。セイカ様も、どうぞ座ってください」
学園長をぼくに引き合わせたフィオナが、そう言って促す。
学園長が来訪した目的を、ぼくはフィオナから聞いていなかった。
彼女にとっても急な話で、かつ未来視でも細かな事情は把握できていないらしい。
ぼくは言われるがまま、応接室の長椅子に腰を下ろす。
学園長が、皮肉げな笑みで切り出した。
「お前さんたちもまあ、数奇な運命をたどるものだねぇ」
「……」
「アタシも学園に関わって長いが、お前さんたちのような生徒は初めてだったよ。才ある奴隷に、元傭兵。そして勇者と――――魔族領を逃げ出した魔王とはね」
ぼくはわずかに目を細める。
魔王の秘密を、この矮人の老女は知っているらしかった。
状況からするに、フィオナが伝えていたのだろうが……。
学園長は口の端を上げて続ける。
「とはいえ、教え子であることに変わりはない。元気そうでなによりだよ。学園に戻ってこないのは残念だが、お前さんたちにとってあそこはもう窮屈だろう」
「……今日は、かつての教え子の顔を見に来ただけですか? 先生」
「それもあるがね。まあ違う。お前さんにとって、これがいい報せになるかはわからないが……」
思わず眉をひそめるぼくにかまわず、学園長は話し続ける。
「アタシは独立領の生まれでね。矮人も森人も、未だに少なくない数が魔族領に残っているが、何の因果かあんな場所に生まれついちまった。アタシにとっちゃ、なんだかいつもピリピリしている嫌な場所だったね。あそこに生まれる子供はみな、親から武器の扱いか攻撃魔法を習う……ま、それが普通じゃないと知ったのは帝国に来てからだったが」
学園長が言っているのは、森人と矮人の独立領のことだろう。
前回の大戦の折、人間と戦うことを拒否した森人と矮人が共に魔王軍から離反し、魔族領と帝国領の境界にある一部地域に流入して独立を宣言した。
現在その場所は魔族と人間との緩衝地帯として機能しており、森人と矮人は両者の交流を仲介する貴重な存在だ。
独立領を巡った争いなどは、これまで帝国領側でも魔族領側でも起きたことがないとされている。
だが……場所が場所だけに、少なくない数の小競り合いがあったことだろう。
子供に戦う術を学ばせるというのは、そういうことだ。
「今では戻ろうとも思わない場所だがね。しかし故郷は故郷だ。向こうの同胞らにも多少の伝手がある。そこな姫さんも、それを期待してアタシなんかに話を持ってきたんだろう。もっとも、どれほど期待していたかはわからないがね」
急に話を向けられたフィオナが、わずかに顔を険しくする。
どうやら、ぼくの知らないやり取りがこの二人の間でなされていたようだ。
だが、肝心の話が一向に見えてこない。
「……そろそろ、本題に入ってほしいんですが」
ぼくが言うと、学園長が口の端を吊り上げる。
「おっと、すまなかったね。歳を取ると話が長くなって困る。では結論から言おうか、ランプローグの」
学園長が、ぼくを見据えて告げる。
「お前さんの母親が見つかった」





