幕間 コーデル試験官、学園内演習場にて
試験官のコーデルは、丸眼鏡を直しながら一息ついた。
日暮れ前。試験場にはもう誰もいない。
今年の入学試験は大変だった。
「お疲れ様です、コーデル先生」
「ああ。お疲れ様です、カレン先生」
女性教員に挨拶を返す。
「どうでした、今年は?」
訊かれたコーデルは、丸眼鏡をくいと上げながら答える。
「アクシデントばかりで大変でしたよ。見ての通り、僕の担当していた試験場は使えなくなってしまいましたしね」
試験場を覆う氷は、未だ融けていなかった。
そのせいで周囲は肌寒い。
「ランプローグ家の子息ですか。たしか三属性を使ったんでしたね」
「ええ。しかも従者の方も規格外で。火と風の二属性ですが、的を融かすわ吹き飛ばすわ……。耐属性の魔法陣、壊れてたんでしょうかねぇ」
少なくともコーデルが赴任してからの三年間で、こんなことは初めてだった。
「いや、それは結構なことなんですがね。問題は子息の方の採点でして」
「あの土と水の魔法ですね。正体はわかりましたか?」
「それがまったく。だからどう点をつけたものか……」
実技試験は、型どおりの魔法をどれだけ正確に発動できるかが採点基準となっている。
聞いたこともない魔法を使われることなど初めから想定外だった。
「残念ですが、満点をあげられるのは火属性だけになりそうです」
「ふふ。実は私、受付もしていたんですが……あの二人の魔力量、聞いてました?」
「いえ。どれほどすごかったんです?」
「それが全然。従者のイーファさんは、魔法が使えるか微妙なくらい。主人のセイカ君に至ってはゼロですよ。いわゆる、魔力なしです」
「ありえない……ですが、もう何を聞いても驚かないですよ。なにせ、」
コーデルは言う。
「その二人以上の逸材が、今年はいたって言うんですからね」
「私の担当したアミュさんですね。ええ、おそらく創立以来初でしょう――――全ての属性の的を破壊した受験者は」
女性教官は笑って言う。
「ひょっとして、彼女は勇者かもしれませんよ」
「勇者? ってあの昔話の?」
「ええ。魔王が復活するとき、人の国から生まれるとされる、伝説の」
「カレン先生、お子さんいましたっけ?」
「独り身で悪かったですね。子供に話して聞かせてるわけじゃないですよ。私が好きなだけです、個人的にね」
「今では事実かどうかも疑問視されている話ですが……でも、そうですね」
コーデルは丸眼鏡をくいと上げる。
「もしそうなら、おもしろいですね」
「ええ……おもしろいです」





