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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
九章(死者と帝国編)

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第二十一話 最強の陰陽師、見守る


「ずいぶん掘れたわねー」


 アミュとともに墓穴を掘り始めて、数刻後。

 地面には、かなり広大な穴が開いていた。

 昨日女騎士が隕石を落とした跡も、ほとんどわからなくなっている。それを内包する範囲をすべて掘り返してしまったからだ。


 穴の縁には、土の山が積み上がっていた。

 ぼくも気功術で人よりはるかに力があるが、それでもアミュの底なしの体力がなければ、たった二人でここまでは掘れなかっただろう。


 アミュは満足げに言う。


「これなら、全員入るんじゃないかしら!」

「ギリギリ入りはするだろうけど……」


 ぼくはわずかに渋面を作って言う。


「深さが全然足りないぞ。埋葬なら今の三倍、いや四倍は欲しい」

「む、無理ー!」


 アミュがばったーん、と地面に仰向けに倒れた。

 手を額にかざし、空を見上げながら言う。


「甘く見てたわ……穴を掘るのって、こんなに大変なのね」

「そりゃ二、三千人分の墓穴だからな……。二人でこれだけ掘れただけでも快挙だぞ」


 ぼくは笑みとともに言う。


「あとはぼくがなんとかするよ」

「え?」

「ここから深くするだけなら、そんなに大変でもない……って、どうした?」


 アミュは仰向けのままなんとも言えない、ばつの悪そうな顔でぼくを見つめていた。


「またあんたの世話になるのね……あたしが勝手に始めたことなのに。きっと最初から、あんた一人で掘った方が簡単だったんでしょ」


 ぼくは少し笑って答える。


「何もないところからうまく穴を掘るのは、実はぼくでもけっこう大変なんだ。いろいろ工夫しないといけないから……。大変じゃなくなったのは、手作業でここまで掘れたからだよ」

「変な慰めは要らないわよ」

「いや本当だって」

「はーあ」


 アミュが盛大に溜息をつく。


「あたしほんと、一人じゃなんにもできないわねー……。なんでもできるほど強くないことくらい、わかってたはずなのに」

「なんだかずいぶん弱気になったな。帝都ではあんなに張り切ってたのに」

「ううん……あたし、どうかしてたわよね」


 アミュがばつの悪そうな顔になって言う。


「皇帝陛下にいろいろ言われてから、なんか、この国のためにがんばらなきゃーって気になっちゃって……。依頼を断る気なんて、全然起きなかったのよね。本当に一人でも、ここに向かってたかも」

「……」


 思い返せば……皇帝の話術は確かに巧みだった。

 かなり警戒していたはずのぼく自身も、気づいたら話に聞き入っている瞬間があった。

 加えて皇帝は、ほとんどアミュに向けて喋っていた。謁見の間の雰囲気と併せ、この子が飲まれてしまっても不思議はなかっただろう。


「……まあ、仕方ないさ」


 ぼくは、仰向けに倒れているアミュに手を差し伸べる。


「これからのことを考えよう。とりあえずそこ、どいてくれ。穴を掘るのに、少し派手な方法を使うから」

「はぁい」


 アミュがぼくの手を取り、立ち上がった。

 その時。


「うわ、なんですかこれ」


 少年の声が響く。

 見ると、聖騎士レンがぼくたちの掘った穴を見下ろし、呆れたような表情を浮かべていた。


「おろかな人間二人で、妙なことでも始めるつもりですか?」

「妙なことなんかじゃないわよ」


 アミュが少年森人(エルフ)を睨んで言う。


「ただこの人たちを埋めてあげるだけ。悪い?」

「はい? 埋める?」


 レンは心底呆れたとでも言うように、首を横に振った。


「人間はおろかなものだと知っていたつもりではありましたが、まさかここまでとは……」


 そして、アミュに蔑むような視線を向けて言う。


「許すわけないでしょう、そんなこと」

「はあ?」


 アミュが憤り混じりに言い返す。


「なんであんたにそんなこと言われなきゃならないのよ」

「ボクでなくとも同じことを言いますよ。これだけ大量の死体を、それも死霊兵だったものを埋葬するだなんて……何かあったらどうするんです」

「なにかってなによ」

「土地の汚染や疫病の発生。敵の死霊術士が、死体にまだ何かを仕込んでいる可能性だってあります。そのまま埋めるなんて危険すぎる」

「……それは全部、対策できることだ」


 ぼくも口を挟む。


「土の汚染や疫病は、深くに埋めれば問題ない。死体に何か仕込まれていたとしても、ぼくが事前にすべて消せる」

「いや……その労力を使って、燃やす方が早くないですか?」


 レンが半笑いをぼくに向ける。


「おろかな人間たちの中でも、あなたはまだマシな方だと思っていたんですけどね。セイカ・ランプローグ」

「……」

「あんたいい加減にしなさいよ。ここの人たちをどうするか、なんであんたに命令されなきゃいけないわけ?」

「責任を取れるんですか?」


 レンが笑みを消して言った。

 アミュが困惑したような表情を浮かべる。


「え……?」

「死体を埋めて、何かあったときに責任を取れるのかと訊いているんです」


 レンは真顔のまま続ける。


「水害が起こったり、獣に掘り返されたりして、死体が出てきてしまったら? そのせいで疫病が発生したら? あるいは、消しきれずに残っていた死霊術士の魔法が動き出したら? どうするというんです」

「だ……だから、そうならないようにするんじゃない!」

「ボクが訊いているのは事前の対策ではありません。万が一何かが起こってしまった際の、対処のことです」

「……」

「数日後にはここを去るあなた方は、この街がこの後どうなろうと知ったことではないでしょう。ですがここに住むおろかな人間たちは、これからも住み続けなければならない。あなた方の勝手によって住民が損害を被ったとき、彼らにどんな補償ができるのかと訊いているんです」

「……」


 アミュは答えられない。

 それも当然だった。

 人々の暮らしに、自分は責任を持つことができない。それはつい先ほど、アミュ自身が言ったことだったからだ。


「姫様ならば、責任を取れます」


 レンが言う。


「その手腕と財力によって、姫様は自らの下した決断の責任を取ることができる。そこがあなた方と違うところです。姫様にこの場を任されているボクは、そのような事態にならないよう、自らの才覚をもって最善を尽くさなければならない……。ボクとあなた方の、立場の違いがわかりましたか? 勇者アミュ」

「……」

「埋葬がこの国の風習なのか知りませんが……おろかな人間のくだらない感傷を理由に勝手ができるほど、世界は軽くありませんよ」


 言いながら、レンは魔石の短剣を鞘から引き抜いた。

 そして、横たわる死体の群れを、見下すように見据える。


「それに」


 半笑いを浮かべ、虹色の切っ先を真上に向ける。

 短剣の周囲に大きな力の流れが生まれ――――極大の炎が空へと立ち上がった。

 短剣の先から発生したそれは、まるで巨大な炎の刃だ。


「無様に死んで、いいように操られるおろかな人間たちの末路など――――灰が似合いでしょう」


 炎の刃が、死体の群れに振り下ろされた。

 それが斬りつけた死体を炎上させ、灰に変える寸前。


「このっ!」


 アミュの杖剣の切っ先が、少年森人(エルフ)の短剣を跳ね上げていた。

 だいぶ離れていたレンとの距離を、勇者の少女は一瞬で詰めていた。


「あははぁ」


 炎を消し、飛び跳ねるようにレンが後退していく。

 その顔には、愉快そうな笑みが貼り付いていた。


「やる気ですか、勇者アミュ! いいですねぇ、ちょうどボクも」


 魔石の短剣を振り上げる。

 そして、


「体が鈍っていたところですっ!」


 その切っ先を、地面に突き立てた。

 大地が隆起する。地中に発生した大量の巨岩が、勇者の少女を跳ね上げていた。


「おい、何して……っ」


 ぼくが動こうとした、その時。


「セイカさま」


 耳元でユキが、制止するようにぼくの名を呼んだ。


「見守りましょう」

「はあ?」

「あの娘が始めたこと。始末は自分で付けさせるべきでございます」


 ぼくはわずかに逡巡し、ヒトガタを懐に仕舞い直した。


「……あの子の身代が割れるまでだ。それ以上は止める」

「はい」


 転がるように着地したアミュを、腕ほどもある氷の刃が無数に襲う。

 嵐のごときそれを、アミュは叩き落としながら、隆起した大地の陰に逃げ込む。


「いきなりなにすんのよっ!」

「こんなものですかぁ、勇者の力はぁ!」


 少年森人(エルフ)が短剣を振り上げる。

 今度は、上空に大量の岩石が出現した。


「これなら“戦姫”の方がずっと強い!」


 降り注ぐ岩石に追い立てられるように、アミュが大地の陰から転がり出た。

 続けて襲いかかる風の刃を、淡い光を纏った杖剣で弾く。

 結界ほどの上位魔法ではないが、魔法を無効化する類のものであるようだ。

 しかし。


「くっ……!」


 レンの出力の前には、まったく足りていなかった。

 三発目を受けた時点で、大きく体勢を崩す。


「そんな様で、どうやって人間を守るんですかぁ!」


 レンが追撃の風魔法を放つ。

 アミュはそれらを、体勢が崩れるに任せ伏せるようにして躱す。

 そして、


「知らないわよっ、そんなの!」


 瞬時に体勢を立て直したアミュが、炎と風の魔法を放った。

 レンは避ける素振りすらなく、その姿は炎に巻かれて見えなくなる。

 アミュは何度も何度も、魔法を放ち続ける。


「このでかい国を、あたし一人でなにから守れって言うのよ! おとぎ話の英雄の役目を、あたしなんかに押しつけないでっ!」


 魔法が止む。

 消耗したのか、アミュは肩で息をしていた。


「はあ。まるで子供ですね」


 レンは同じ場所に、同じ姿で立っていた。

 その周囲には、淡い光が微かに瞬いている。

 それは、戦姫が使っていた結界に近いもののようだったが……力の流れを見るに、数段洗練されていた。


「剣と体術はそこそこのようですが、魔法は話にならないレベルです。まあ多少巧みだろうと、ボクに届くことはないと思いますけど」


 力の流れを観察している中で、理解した。

 人間の魔法と森人(エルフ)の精霊魔法という違いはあるものの……こと魔法に限れば、レンはあの女騎士よりも上だ。おそらく今もまだ力を抑えている。

 純粋な術士としてならば、この世界で出会った者の中で最強かもしれない。


 聖騎士の少年は魔石の短剣を弄びながら、どこか見下すように言う。


「弱者として、民の一人として生きたいのなら勝手にすればいいでしょう。でもそれなら」


 レンが、短剣の切っ先をアミュに向ける。

 その周囲に、力の流れが渦巻く。


「分をわきまえることです」


 煌めく光の帯が、短剣から迸った。

 ほとんど勘のような動きで、アミュが身をかがめて躱す。逃げ遅れた数本の赤い髪が、光に貫かれて散った。

 レンが短剣を振り抜く。

 真横に薙がれた光線を、アミュは跳び退るように躱した。代わりに喰らった大地が、横一文字に赤熱して溶解していた。


 縦横に振るわれる光の剣を、アミュはほとんど曲芸に近い動きで躱していく。

 命中こそしていないものの、距離も詰められず防戦一方だ。


「なん、なのよっ、この魔法は!」

「光の精霊による奥義ですよ、おろかな人間」


 レンは半笑いのまま、短剣を振るい続ける。


「大丈夫、体のどこかが離れてもくっつけてあげます。首と胴体は、ちょっと無理ですけど」


 ぼくは、懐のヒトガタを掴もうとして……手を止めた。

 唇を噛む。

 まだ、あの子の身代は割れていない。自分で決めたことだ。


「この……っ!」


 アミュが、土属性魔法の岩石弾を連続で放つ。

 それらはレンの結界を前に消滅したが……光の刃に対する、わずかな遮蔽になった。

 自らが放った岩に隠れるようにして、アミュがレンへと踏み込む。

 地を這うように放たれた光の横薙ぎは、ギリギリの跳躍で躱した。

 アミュは剣を引き絞ると――――流れるように、鋭い刺突を放つ。


 一連の動きは、目が覚めるようなものだった。

 初めて見る剣呑な魔法を前にして、常人にできる動きではない。

 戦士としての才が、間違いなく彼女には備わっている。


 勝負を決するかに思われた一撃。

 しかしそれは――――少年聖騎士の体を捉えることはなかった。

 刺突が光瞬く空間を貫いたその瞬間。レンの姿が、力の流れとともにかき消える。


「転移だってできますよ、当然」


 声は、アミュの背後から響いた。

 少年聖騎士が、短剣の切っ先を勇者に向ける。

 力の流れが渦巻く。


「あなたの負けです」


 煌めく光の帯が、少女に向けて放たれる。

 ――――その次の瞬間。

 振り向いたアミュの前に、激しく飛沫を上げる水の壁が出現した。


「っ!?」


 レンが目を見開く。

 それは水属性魔法の中でも下位に属する、水壁(アクアウォール)の魔法だった。

 ヂュッ、という微かな音とともに、光線が水流の壁を(はし)り抜ける。

 それはそのまま、少女の体をも貫いた。


 いや――――貫いていない。

 光線はアミュの体に当たるも、突き抜けることはなかった。

 まるで、ただの光であるかのように。


 水の壁を破り、少女が踏み込む。

 そして、一閃。

 レンの傍らをすり抜けるように、アミュは魔石の短剣を激しく弾いていた。


「なっ、くそっ……!」


 その強烈な一撃を喰らってもなお、レンは短剣を手放していなかった。

 焦ったように、その切っ先をアミュに向ける。

 しかし、次の瞬間――――その虹色の剣身が、儚い音を立てて割れ砕けた。


「あ……ああぁーっ!?」


 砕けた短剣を見たレンが、まるでこの世の終わりかのような叫び声を上げる。


「な、な、なんてことを……!」

「ごちゃごちゃうっさいのよ、あんたは!」


 アミュは振り返ると、杖剣の切っ先をレンに向けて怒鳴る。


「そんなに言うならわかったわよ! 責任? 取ってやるわ! なんかあったら呼びなさいよ! 力仕事でもなんでもしてやるから!」


 腹立たしげな表情で、レンを睨むアミュ。

 しかし、その雰囲気には……どこか吹っ切れたようなものがあった。

 一方のレンは、地面にひざまずいて魔石の破片を集めながら、めそめそしている。


「こ、これ、どれだけ貴重な物だと思ってるんですかぁ……」

「知らないわよ! あんたが始めた、喧嘩でしょっ!」


 アミュはつかつかと少年森人(エルフ)に歩み寄ると、その頭をひっぱたいた。

 レンは半泣きになっている。


「アミュ……」

「あ、セイカ。どう? なんか久々に、勝負して勝った気がするわ! 勇者の面目躍如じゃない?」


 やや呆然としながら歩み寄るぼくに、アミュは笑顔を向けてくる。

 晴れ晴れとした表情で、ずいぶんと機嫌がよさそうだった。

 ぼくは訊ねる。


「なあ、君どうして……水壁(アクアウォール)なんて使ったんだ?」

「え? ああ、あれ。ええと、ほら、そいつの魔法、光の精霊がどうとかって言ってたじゃない? 見た目も光ってたし、要するに光ってことでしょ?」


 アミュが、どう言えばいいか迷うかのように続ける。


「水って、ちょっと深くなると暗くなるし……滴や泡があると、その向こう側が見えにくくなったりするわよね。それって、光が届いてないってことでしょ? だから、水で防げるんじゃないかなって」


 アミュが自らの服を見下ろして、微かに残念そうな顔をする。


「あー、でもちょっと焦げちゃったわね……。土属性の壁なら、もっと完璧に防げたんでしょうけど……それだと間合いを詰めるのに回り込まなきゃならなくなるから、やっぱりあれでよかったと思うわ。うん」

「知ってたわけじゃ……なかったのか。あの魔法の原理と、防ぎ方を」

「知らなかったわよ。ただ……」


 アミュが、一瞬目を逸らして言う。


「あんたってわけのわかんない魔法使うけど、でもあれって全部、いろいろ考えて使ってるんでしょ? だからあたしも、少しは考えて戦ってみようかなって、思ったのよね」

「……そうか」


 強く賢く、勇気のある者。

 生まれではなく、そういった世間でイメージされる資質こそが勇者の資格だったとしても……この子は、やはり勇者である気がした。


「それはそうと」


 アミュが、地面にひざまずくレンを睨む。


「あたしが勝ったんだから、ここの人たちは埋めてあげるから。わかった? このチビ!」

「なんなんですか、あなた方はぁ……」


 半泣きのレンが言う。


「姫様に迷惑をかけないでくださいよう……」

「フィオナに迷惑はかけないよ」


 ぼくは、アミュに代わって答える。


「其の方が懸念するようなことが起こらないよう、ぼくが責任を持って処置する。説明もぼくからしておく。彼女もわかってくれるはずさ」

「……なんて、おろかな人間……ボクがやめろって言ってるのに……このボクが……」


 レンは、跪いたままなおも不満そうにぶつぶつ呟いていた。

 アミュが憤然と言う。


「あんたのせいで、せっかく掘った穴が滅茶苦茶になっちゃったじゃない。まずは責任とって掘り直しなさいよ」

「ええーっ!? なんでボクが! っていうか無理ですよう、あなたが宝剣を壊したから……」

「なに言ってんのよ。剣がなくたって手と足が残ってるじゃない。特別にシャベルも貸してやるわ」

「て、手作業で掘るんですかぁ? 死んじゃいますってー!」


 レンがわめいているが、アミュはどうやら本気で掘らせるつもりのようだった。

 戦いの余波でだいぶ滅茶苦茶になってしまっているから、魔法もなしに一人で元通りにするのは絶対無理だ。だから、たぶん嫌がらせだろう。

 まあ、墓穴については最終的にぼくがなんとかしてやるか。


「ようございましたね」


 ふと、耳元でユキが言った。


「このような機会も、必要でございましょう」

「……そうだな。お前の言うとおりだったよ」


 アミュは、何かを理解し、学んだ。

 それはきっと、ぼくが世話を焼いてばかりいては、なし得なかったことだ。


「少しは根性見せなさいよ、わかったわね!」


 アミュが怒鳴っている。

 見ると後ろの方でレンが、半泣きで地面にシャベルを突き立てていた。やっぱり本気で掘らせるつもりらしい。


「ところで、今さらなんだけど」


 アミュがぼくを振り返って言う。


「あんたはあんな朝早くに、なんで街の外に出てきてたのよ。穴掘り手伝わせちゃったけど、なんかすることあったんじゃないの?」

「ああ、死体を調べようと思ってたんだ」


 すっかり忘れていた。

 どうせ大して期待していなかったというのもあるが。


「何か、敵の手がかりになるような痕跡が残ってないかと思ってね」

「そういえば、今までの街でもやってたわね。じゃ、あたしも手伝うわ」

「え、君が?」

「と言っても、身につけてる身元がわかりそうな物とか、外すことくらいしかできないけど」

「あー……そうだな」


 これまでは燃え残った物のみ遺品として回収していたが、埋葬するのならそうした方がいいだろう。


 アミュと二人、死体の並ぶ場所へと歩いて行く。

 どこから手を着けようかと思案していると……不意に、アミュが声を上げた。


「……あれ?」


 その足は、一体の死体の前で止まっていた。

 思わずそちらに目を向ける。

 アミュの見下ろす死体は、特になんの変哲もないように見えた。ろくな防具もなく、粗末な剣だけを身につけた、これまで散々見てきたような中年男の死体。

 にもかかわらず、アミュはその男の死体の前から動かない。


「……どうした?」


 さすがにいぶかしく思い、アミュへと歩み寄る。

 アミュは、死体を見下ろしながら言う。


「この人……なんか、見覚えある気がするんだけど……」

「え……?」


 ぼくは、やや困惑しつつ訊ねる。


「もしかして……君の知人だったか?」


 アミュは首を横に振る。


「そうじゃない、と思うんだけど……どこかで見た気がするのよね……。あんたはどう? 見覚えない?」

「ええ……?」


 まさか、と思いつつあらためて死体の顔を見る。

 ここ西方の地は、これまで過ごしたランプローグ領やロドネア、ラカナなどからは遠く離れている。顔見知りがいるわけがない。

 しかし……その顔を見た瞬間、ぼくは確かな既視感を覚えた。

 見たことがある。

 だが、印象が薄い。どこの誰だったか……。


「あっ! あ、あれ? でも……」


 アミュが突然、何かに気づいたような声を上げたと思いきや、直後に困惑し始めた。

 ぼくはすぐに訊ねる。


「どうした? 思い出したのか?」

「う、うん」


 アミュがためらいがちにうなずく。


「この人……あの人に似てない? ほら、死霊兵に襲われた街で女の子を助けた時、一緒に瓦礫から引っ張り出したお父さん。死んじゃってたけど……」


 ぼくは目を見開いた。

 確かに……似ている。


「死霊兵にされちゃった、ってわけじゃないわよね。服が全然違うし……あの街の人たちは埋めてる余裕がなかったから、あんたたちで火葬にしたのよね。じゃあ、兄弟かしら? もしかして双子? もしそうなら、かわいそうね……」


 消沈したように呟くアミュ。

 だがその声は、途中から頭に入って来なかった。


「まさか……」


 ぼくは、ただ呆然と呟く。


「これが、そうなのか……? だとしたら……」

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