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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
一章(転生・学園入学編)

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第十八話 最強の陰陽師、入学試験に臨む


 筆記試験は問題なく終わった。

 が、イーファはそうじゃなかったらしい。


「どうしようセイカくん。間違えたかも……」

「うーん……実技で挽回するしかないな」


 涙目のイーファを慰める。


「うう、あんなに勉強したのに……」


 と言っても、準備期間が半年しかなかったからなぁ。

 こればかりは仕方ない。



****



 実技試験の会場は外だった。


 受験者の前方に、六つの石板が並んでいる。


「あの的を狙い、魔法を放ってください」


 丸眼鏡の試験官が説明する。


「左から、火、土、水、風、光、闇の順で並んでいます。好きな属性の的を選んでください。いくつでも構いませんが、加点方式ですのでなるべく挑戦する方が得です。ただし、異なる属性の的に攻撃しないでくださいね。耐属性の魔法陣が効かずに傷んでしまいますので」


 なるほど。

 失敗を気にせず挑戦できるのか。良い試験だ。


「燃え盛るは赤! 炎熱と硫黄生みし精よ、咆哮しその怒り火球と為せ、火炎弾(ファイアボール)!」

「弾けるは黄! 巌育みし精よ、割れ砕きてその怒り礫と為せ、石礫弾(ストーンブラスト)!」

「湧き上がるは青! 冷泉と氷雨の精よ、凍てつきその怒り白槍と為せ、白氷槍(アイシクル・スピアー)!」


 隣の試験場ではすでに始まっていた。


 皆威勢よく呪文詠唱しているが、一属性だけ選んでいる者がほとんどだ。

 その出来も微妙。

 今くらいの時期に無詠唱、複属性を学んでいたルフトやグライは、実は優秀だったみたいだ。


「あ、わたしの番みたい。行ってくるね、セイカくん」

「ああ。がんばって」


 イーファが前に出る。

 周りのレベルを見るに、実技は大丈夫そうかな。


 と、そのとき、視界の端に赤い髪が映った。

 さっきのアミュとかいう子が、隣の試験場にいる。

 出番はまだ先みたいだけど、実力はどうなんだろう。全属性とか言われてたけど……。

 というか、あの腰に提げてるのは剣か?

 どういう子なんだ……?


 疑問に思っていると――――熱風が、微かに頬を撫でた。

 前方には的に向かって杖を構えるイーファ。

 その姿を、試験官ほか全員が唖然と見ている。


「な、なんだ、今の炎」「炎豪鉾(フレイムノート)か……?」「中位魔法?」「無詠唱だったぞ」「おい見ろよ、的が」


 よく目をこらすと、石板の隅が少し融けてガラス質になっている。


 イーファが試験官に頭を下げる。


「ご、ごめんなさい。まさか融けるとは思わなくて……」

「い、いや……仕方ないよ……」


 丸眼鏡の試験官は首をかしげ、火属性用の的だよなぁ、などと不思議そうに呟いている。


「次に行ってもいいですか?」


 頷く試験官を見て、イーファは三つ隣の的に歩いて行く。


 え、次?


 風属性の的。

 その前で、イーファは再び杖を構える。


「――――ういんどらんす」


 突風が吹いた。

 気圧差で耳が痛くなるほどの風が、的へと襲いかかり。

 破裂するような音と共に、石板をそのまま叩き割った。


 静まりかえる試験場。

 少し経って、上半分の石板がどこかに落ちるばふっ、という音が聞こえた。


「う……風錐槍(ウインドランス)って、中位魔法、だよな」「中位魔法を無詠唱って」「あれ、本当に風錐槍(ウインドランス)か?」「的、壊れちゃったけどどうするんだよ」


「し、静かに! 皆静かに!」

「あ、わたしは以上です。的はごめんなさい。ありがとうございました」


 イーファがぺこりと頭を下げて、ぼくへ駆けてくる。


「ど、どうかな、セイカくん。的はダメにしちゃったけど……それで不合格になったりはしないよね? がんばった結果だし……」

「イーファ!」

「ひゃっ!?」

「風! すごいじゃないか! どうしたんだよあれ」

「……えへへ」


 イーファがはにかむ。


「少しずつ練習してたんだよ。セイカくんが驚くかなって」

「驚いたよ。もう精霊を使役できるようになったんだ。他の属性は?」

「まだぜんぜん。緑の子はお屋敷に多かったから、たくさん連れてこられたんだ。あと、わたし自身に風属性の適性があったからだと思う。さっき知ったことだけど」


 やばい、なんかうるっときてる。

 弟子の成長をいきなり実感すると、こう、心にくるんだよ……。


「でもね、他の子たちも少しずつ集まってるの。光と闇の子はほとんど見ないんだけど、それ以外ならもうすぐお願いできるように……って、セイカくん、泣いてる?」

「な、泣いてない泣いてない。あー……イーファ。一つだけ言うと、あれ風錐槍(ウインドランス)には見えないよ。本物はもっと弱いから」

「そ、そうなんだ」

「気にしなくていいけどね。イーファはもっと強くなれる」


 前世の精霊使い(ドルイド)はあんなもんじゃなかったからな。


「えー、みなさん聞いてください。少しアクシデントがありましたが、試験は続行します。的は予備を準備しているところですので、風属性を希望される場合は順番を譲ってください。では次の方」

「ぼくだ」


 イーファに見送られながら、前に歩み出る。


「どの属性を?」

「まず火で」


 的の前に立ち、無造作に杖を構える。

 破壊を求められていないということは、威力は適当でいいんだろう。

 さくっと済ませよう。


「ふぁいあぼうる」


 弱めの《鬼火》が石板にぶち当たり、青い炎が弾けた。

 こんなんでいいでしょ。


「青い火炎弾(ファイアボール)!?」「おい、火が消えないぞ」「耐属性の魔法陣、効いてないんじゃないか?」「待て、あいつランプローグの魔力なしだったはずじゃ……」


「次、土で」


 呆気にとられる試験官に告げ、的の前まで移動する。

 さてどうするかな。


 他の連中は石つぶてを飛ばしたりしてたが、そんなどうでもいい術はない。

 それっぽい術だと……《要石(かなめいし)》では遠すぎるな。《赫鉄(あかてつ)》や《岩戸投げ》を、まさかこんな場所では使えないし……。

 待てよ、あの石板――御影石(みかげいし)か。

 よし、決めた。


 杖を構える。

 術名はどうしよう? まあ適当でいいや。


「すとーん……なんとか」

《土金の相――――方金(ほうごん)の術》


 ばぎ、ばぎんっ、という音と共に。

 石板の中から、巨大な金色の立方体が五、六個生えた。

 当然、的は内側から破壊されてしまっている。

 よし。


「壊してしまってごめんなさい。じゃ、次は水で」

「い、いやいやちょっと待って!」


 丸眼鏡の試験官に呼び止められる。


「君、今の魔法は……?」

「すとーん……です」

「なんて?」

「あ、すみません。次行きますね」


 ぼくはすたすたと隣の的に歩いて行く。


「今の、なんていう魔法だ……?」「ま、的が内側から……」「……」「……」「……」


 後ろも静かだった。

 ありがたい。説明しろと言われても困る。


 あの立方体は黄鉄鉱だ。

 叩くと火花を散らすことで知られる金色の鉱物だが、もう一つ、きれいな立方体の結晶を作るという特徴がある。

 岩石の中にあるタネに金気と土気を流し込んでやれば、周りを押しのけて型どおりに結晶化し、あのように岩を割ってくれるのだ。

 御影石は溶岩が固まってできた石。タネとなる鉄と硫黄はまずあるだろうと思ったが、予想通りだな。

 土木作業用に作った術だけど初めて役に立った。


「で、水か……」


 他の連中はつららを飛ばしたりしてたが、もちろんそんなどうでもいい術はない。

 うーん……。

 あれでいいか。規模が大きいし、一応ヒトガタ使っとこう。


 杖を振って見せる。


「あいしくる……なんとか」

《陰水の相――――氷瀑布(ひょうばくふ)の術》


 津波のごとき大量の水が、不可視にしていたヒトガタから放たれた。

 陰の気で超過冷却状態にしていた水は、石板にぶつかった衝撃で凍結。

 それは瞬く間に連鎖し、すさまじい量の水は、一瞬ですべて氷と化した。


 あー……周りにも流れていったせいで両端の闇と火の的までガチガチに凍っちゃってる……。

 ちょっと量が多すぎたな。


「なんというか……すみません。ぼくは以上です。これはそのうち融けると思いますので」

「……」


「……」「……」「……」「……」「……」


 氷に覆われてしまった試験場には、もはや誰の言葉もない。

 ぼくは踵を返す。


「ただいまイーファ。帰ろうか」

「う……うん。他の属性はよかったの?」

「ぼくができそうなのは三つだけだったからね」


 風は(もく)()()(ごん)(すい)の五行にないし、光と闇は今ひとつよくわからない。


 というかそもそも、ぼくはどうもこちらの魔法を使えないようなのだ。

 何年も試しているが全然ダメ。やっぱり魔力と呪力は別物なのかもしれない。


 陰陽術は使えるから大して問題はないんだけど。

 今回の試験だって、周りを見る限りでは普通に合格できそうだからいいだろう。


「ふふっ」

「どうかした?」

「ううん」


 イーファが言う。


「みんな、セイカくんの魔法を見てびっくりしてたから……ちょっと気分よかった」

※方金の術

金の気による鉄と土の気による硫黄で黄鉄鉱の結晶を成長させ、岩を割る術。黄鉄鉱は『愚者の黄金』とも呼ばれる金色の鉱物で、六面体や八面体、正十二面体の結晶形を示す。少なくとも紀元1世紀頃にはその存在が知られていたようで、大プリニウスの『博物誌』には叩くと火花が出る石として記載されていた。


※氷瀑布の術

陰の気により過冷却状態にした大量の水を放ち、対象を凍らせる術。陰の気は負のエネルギーを司る。過冷却水は衝撃と共に急速に凍る性質を持つ。水の温度はマイナス40度ほどで、これはそのあたりが過冷却の限界温度であるから。理論上はさらに液体のまま冷やせるが、その場合アモルファス氷と呼ばれるガラスに近い状態になってしまい、結局使いづらいためセイカはこのくらいで抑えている。

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