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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
八章(七人の王編)

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第二十一話 最強の陰陽師、遊びに行く


 意外にも好評だった授業は、結局午後にも、それから次の日にも持ち越すこととなった。

 最初はただ聴いているだけだった王たちも、次第に自分の考えや知っている事柄を意見し合うようになり、いつの間にか活気が生まれていた。

 どうやら春秋時代の賢人の教えは、異世界の人ならざる者の間でも好まれるらしい。


 とはいえ。

 似たようなことばかりをずっと話していても飽きる。そう思い、今度は試しに漢詩を教え始めた時だった。


「魔王様。その瀑布という言葉は何を指しているのでしょうか?」


 李白の詩の異世界語訳を話していると、ヴィル王に訊ねられた。

 ぼくは答える。


「ああ、滝のことだよ」

「滝ですか……僕は見たことがないですね」

「えっ、そうなのか」

「余もないのう」

「おれも」

「オレもだ」

「フィリもないよ」


 アトス王に目を向けると、彼も首を横に振っていた。

 どうやら王たちは皆、滝を見たことがないらしい。


「ひょっとして、魔族領には滝がないのか?」

「そんなわけないの」


 いつの間にか参加していたリゾレラが、不意に言った。


「滝くらい、普通にあるの。しかもおっきいのが。でもちょっと山奥にあって、行きにくいだけなの」

「へぇ。この詩に出てくる滝くらい大きいのか?」


 リゾレラは笑みと共に言う。


「じゃ、見に行くの」



****



 数刻後。


「おお~~~!!」


 白い水煙を散らす巨大な滝を前に、皆が歓声を上げていた。


 あの後、リゾレラからしつこく促されたぼくは、じゃあ行ってみようかと蛟を喚び出し、王たちと共に乗り込んでこの山奥にまで飛んできた。

 途中で川を見失うなど不安になることもあったが、リゾレラの案内は正確だったようで、気づくと眼下にこの雄大な滝が現れていた。


「おい! こっちの浅瀬に魚がいるぞ!」

「マジ!?」

「どんな種類なんだろう」


 川を覗き込んでいたガウス王の声に、シギル王とヴィル王が駆け寄っていく。


「おっ、すげーいるじゃん」

「こんなにいるなら釣れるかもしれないね」

「魔王様ー! 釣り竿とかねーのー?」

「一応あるが……」


 ケルツを出立する時に念のため買っておいたものが、位相に入れっぱなしになっていた。

 釣り針や糸と共に取り出すと、シギル王へ小言と一緒に手渡す。


「はしゃぎすぎて川に落ちるなよ」

「わかってるって!」


 川に駆け戻った黒森人(ダークエルフ)の王が、意外にも手慣れた様子で竿の準備を始めると、それを鬼人(オーガ)や巨人が覗き込む。


「うおっ! 人間の釣り竿はこんなに細いんだな!」

「道具はそろったけど、餌はどうするんだい?」

「川の石をひっくり返してみろよ。虫がいないか?」


「ふん」


 川縁で騒ぐ少年王たちを見て、プルシェ王が鼻を鳴らした。


「まるで子供じゃの。付き合っておれん」

「そーお? じゃあフィリは、ちょっと見てくるね」

「『我も向かおう』と、王が仰せでございますので、失礼します」

「んあっ……! ま、待たんか! 余もっ……」


 フィリ・ネア王に、アトス王とその従者も三人の方へ向かうのを見て、プルシェ王があわてて彼らの後を追った。


 はしゃぐ皆の姿を眺めながら、思わず呟く。


「……ぼく、こんなところで何してるんだろう」


 魔族の子らを連れて川遊びなど、している場合ではないはずなのに。


「みんな楽しそうだから、いいの」


 隣でリゾレラが、ぽつりと呟いた。


「たまには、こういう気晴らしも必要なの」

「そうかもしれないけど、今は重要な時なんだけどなぁ……」

「セイカも楽しんだらいいの。ずっと考えてばかりでも疲れるの」

「楽しむ……ね」


 前世では何を楽しみに生きていたっけ……と考えるも、すぐには思い出せなかった。

 最期はともかく、決して嫌な日々ではなかったはずなのに。



****



 結局日が暮れるまで遊んでしまい、その日は山で野宿をすることとなった。

 王たちは、『野宿なんて、小さい頃に兄と狩猟に(おもむ)いた時以来です』とか、『余もいよいよ落ちぶれたものじゃ』とか、『オレが(たきぎ)を集めてくるぜ!』とか反応は様々だったが、皆おおむね乗り気だったように見える。


 幸いにも、簡単な天幕や毛布などはケルツで買い揃えた物が残っており、道具は十分足りていた。

 夕食には、たくさん取れた魚を焚き火で焼いた。ただ塩を振っただけのそれに、皆夢中で齧り付いていた。普段はもっといいものを食べているだろうに、どの王も不思議と満足げだった。


 星を見上げながら眠り、やがて夜が明けた次の日。


「なあ……この後、双月湖へ行ってみないか?」


 朝日の中、シギル王がおずおずと言った。


黒森人(ダークエルフ)の避暑地なんだ。すごくきれいな場所だから、みんなにも来てほしい。せっかくこうして集まったんだし……」


 昨日の今日でみんなも疲れているだろうからと、ぼくは初め断ろうとした。

 だが。


「いいじゃねーか! 行こーぜ!」

「僕も興味があるよ。こんな機会は滅多にないしね」

「フィリも行ってみたいな」

「『友の誘いだ、乗らぬわけもない』と、王は仰せでございます」

「まあ……行かんでもないの」


 王たちに加え、リゾレラまで言う。


「じゃあ行くの。ドラゴンならひとっ飛びなの。ね、セイカ?」


 全員が乗り気では、行かないとも言いづらかった。

 湖はそれほど遠くもなく、あっさりと到着したのだが――――景色を楽しみ、いざ帰る段になって、別の王が言い出した。今度は白弧の高原に行ってみたい、と。


 それからぼくたちは、魔族領のあちこちを巡ることとなった。

 どこかへ行く度に、誰かが次の場所を提案する。風の心地いい高原の次は、幻想的な巨大洞窟へ。その次は霧の満ちる不思議な山へ。大河に架かる長大な古橋へ。大地に開いた謎の縦穴へ。そんな具合で、旅人が訪れそうな珍しい場所を中心に回っていった。

 蛟に乗っている時間も短くなく、夜も野宿や、近くの村に簡単な宿を借りるだけだったので皆疲れただろうが、誰も嫌な顔はしていなかった。


 その頃には、だんだんぼくもわかってきた。

 皆、帰りたくなかったのだ。

 魔王城にではない。自分たちの王宮に――――だ。


 彼らは王であるが、その実権はない。

 種族の内情を憂えても、変える力がない。

 そんな立場のまま祭り上げられる場所へ、どうして帰りたいと思うだろう。


 ただそれでも、彼らは王としての自覚は常に持っているようだった。

 時間が空けば、皆互いに(まつりごと)について話し合い、ぼくに人間の国の歴史や偉人の教えを聞きたがっていたから。


 みんな大変だから気晴らしが必要、と言っていたリゾレラの言葉が、ようやく腑に落ちた。

 こんな子供たちでも……いや、子供であるにもかかわらず、君主なのだ。

 大変に決まっている。

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