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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
八章(七人の王編)

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第五話 最強の陰陽師、出迎える


 それから、何度か里を見て回った。

 小さな村程度かと思っていた里は、意外にもちょっとした街くらいの規模があるようだった。

 神魔の集落には、ここより大きなものもたくさんあるらしい。


 里の周りを囲む、土属性魔法で造られた白い石柱の群れは、ある種の結界のような役割を果たしているという。

 まるで前世の中東にかつて存在したとされる、古代魔導文明のような(おもむき)だ。


 畑もほとんどは里の中にあるが、どちらかといえば狩猟採集が主で、神殿でも自然神の類が祀られている……と、日が経つにつれ神魔の文化もいろいろわかってきた。



****



 ルルムの父は、最も大きな里へ会合に出向いたきり、何日も帰ってこなかった。


 その里がどこにあるのかわからないが、当然、結論が出て戻ってこられるまでに相応の時間はかかる。


 予想していたことではあったが、しかしいい加減に暇を持て余し始めた時……その報せが届いた。


「この里に、魔族の代表たちが集まることになったわ……魔王が生まれた、十六年前と同じくね」


 ルルムが、固い表情でぼくに伝えた。


「代表……というと、各種族の?」

「ええ。神魔、悪魔、獣人、巨人、鬼人(オーガ)三眼(トライア)黒森人(ダークエルフ)の七種族よ」

「それが、魔王のいる里に集まって、話し合おうってことか」

「そう。どんな話し合いになるかは、わからないけれど……」


 ルルムが表情を曇らせる。おそらくは十六年前にあった似たような話し合いを思い出しているのだろう。

 一方で、ぼくも気が重い。


「わざわざこの里に集まるくらいなんだから……ぼくも参加しなきゃダメなんだろうな」


 溜息をつきたくなる。お偉方と関わるのは前世から苦手だ。

 だが……いつまでもそんなことは言っていられない。

 魔王という立場に生まれついてしまったのだ。どんなに嫌でも避けては通れまい。


 ルルムが付け加える。


「父様は、明日には帰ってくるそうよ。神魔の代表を連れて」

「神魔の代表って、どんなやつなんだ?」


 ぼくが訊ねると、ルルムは答えに迷うような、微妙な表情をした。


「代表……は、一番大きな里の長ね。かなりの高齢で、里の序列を重視する厳格な人よ。ただ……もう一人、来ると思う」

「もう一人? その神魔はどんな立場なんだ?」

「ちょっと、特別な人なの。代表には反発する人も多いけど、その人のことはみんな敬っていて……一応、前回の話し合いにも参加していたわ」


 いまいち要領を得ない説明だった。

 眉をひそめつつ訊ねる。


「……なら、話し合いでは代表よりもそいつに気を配った方がよさそうか?」

「いえ、そういう心配はいらないわ」


 ルルムがはっきりと言う。


「偉い人ではあるのだけど……政治からは、なるべく距離を置こうとしているみたいなの。だから今回の話し合いでも、きっと発言は控えるんじゃないかしら」


****



 せっかくだから、出迎えることにした。


 翌日の昼。


 白い石柱が形作る、里の門の手前で待っていると……やがて馬型のモンスターに騎乗した彼らの姿が現れた。


「……セイカ殿。何もわざわざ門で出迎えていただかなくとも」


 ルルムの父ラズールムが、驚いたように言った。

 ぼくは答える。


「いい加減、退屈だったので……そちらの方々は?」

「ああ、ルルムにも伝えていたと思うが、こちらは……」

「随分と腰の低い魔王がいたものだな」


 幾騎もの従者を伴った老境の神魔が、下馬しながら唐突に言い放った。


 長い口髭も頭髪も、神魔とは思えないほどに白い。顔には皺も目立ち、黒の紋様は色褪せている。年齢のわかりにくい魔族にあって、はっきりと老いていることがわかるほどの容貌だ。

 だがその眼光は、老いを感じさせないほどに鋭かった。纏う装束も他の神魔と比べて上等で、この者が指導者階級にあることは明らかだった。


 神魔の老人が、ぼくを品定めするように見る。


「年の程はそれらしいが……ただの人間のようではないか。ラズールムよ、これが魔王だと? 一体どれほどの根拠があって言っているのだ」

「それは……」

「適当に条件の合う者を連れてきたところで、お前の里の失態が拭われることはないぞ」

「……またなんとも、態度のでかいご老体だな。神魔の代表とやらは」


 ぼくが思わず聞こえるように呟くと、その老爺がこちらを見下すように言う。


「ふん……この儂には、ラズールムに払うような敬意は払ってもらえぬのかな。魔王よ」


 ぼくは口の端を吊り上げて答える。


「ラズールム殿には宿飯の恩がある。其の方はぼくに、どのような恩義があるのかな?」


 老爺の目つきがいよいよ鋭くなってきたその時――――唐突に、高い声が響いた。


「やめるの」


 全員が、声の方向を向く。


 老爺の後ろから、一人の少女が歩み出た。


「あなたが悪いわ、レムゼネル。これ以上はよすの」


 人間で言えば、十二、三歳くらいだろうか。

 細く編み込んだ黒髪を垂らした、まだ幼い神魔の少女。


 どのような立場かはわからないが、少なくとも質の良さそうな装束からは、高い地位にいることがうかがえる。


 (おさな)()に諭された形の老爺だったが、しかし機嫌を損ねることもなく、わずかに頭を垂れた。


「申し訳ございません、リゾレラ様」


 少女は老爺から目を離すと、ぼくへと歩み寄る。

 そして、しばしの間じっと、ぼくの顔を見つめてきた。


 何かを期待するような表情。

 どこかフィオナを思い出すような仕草だったが……やがて、少女はその小さな口を開く。


「……覚えてる?」

「えっ、何が?」


 思わず素で問い返すと、少女は落胆したように微かに目を伏せた。

 そして、無表情で告げる。


「……謝るの。さっきは同胞が無礼を働いたの」

「あ、いや……」

「ワタシはリゾレラ。後ろのは里長のレムゼネル。ここからずっと東にある、菱台地の里から来たの。魔王の処遇を決める話し合いで、神魔を代表して意見を言わせてもらうの」


 ぼくは思わず眉をひそめた。

 聞いてはいたものの、自分の処遇を決める話し合いが始まると面と向かって言われれば、やはり身構えてしまう。

 少なくとも、ここからは慎重に立ち回らなければならないだろう。


「……どうもはじめまして。ぼくはセイカ・ランプローグという」


 とりあえず名乗ったぼくへ、少女が問いかけてくる。


「あなたは……本当に魔王、なの?」


 表情こそ変わらないものの……その声音には真剣味があった。

 ただ、ぼくは肩をすくめて答える。


「さあ」

「……そうだったの。魔王だからといって、自分が魔王とはわからないのだったわ。馬鹿なことを訊いたの」


 少女は無表情のまま小さく嘆息した。

 少しばかり、引っかかる言い回しだった。


「じゃあ、代わりに教えてほしいの。あなた、ちゃんと強い?」


 疑問はひとまず置いておいて、答えようと口を開きかけた時――――、


「――――おや?」


 不意に、背後から声が響いた。


「ふむふむ……やはりいくら転移に長けた我とはいえ、さすがに一番乗りとはいかなかったようであるか」


 力の気配に振り返る。

 先ほどまで誰もいなかったはずのその場所に立っていたのは――――二体の巨大なデーモンを背後に従えた、一人の悪魔だった。


「それにしても、神魔の結界がこの程度とは。辺境の小さな里とは言え、こうも容易に内側へ転移できてしまうとなると……魔王様を遇するにふさわしい種族と言えるか、はなはだ疑問であるなぁ」


 悪魔が周囲を見回しながら呟く。


 金色の毛並み。

 衣服は悪魔族の民族衣装らしき、豪奢な装束を纏っている。

 力の気配はそれほどでもなかったが、強力な魔道具を帯びているのか、妙な流れの淀みがあった。


 神魔の代表、レムゼネルが苦々しげに呟く。


「エーデントラーダ……貴様、他種族の里の中へ直に転移魔法を使うなど……」


 悪魔が、まるであざ笑うかのようにレムゼネルへと答える。


「久しいな、レムゼネル。相変わらず寝ぼけたことを抜かしているのである。魔王と勇者が誕生した以上、今は戦時。種族同士のぬるい取り決めなどにこだわっていては…………おや?」


 その時唐突に、悪魔がこちらを向いた。

 まるでぼくの存在に初めて気がついたかのように、その山羊のような目を細める。

 そして芝居がかった仕草で話し始める。


「このようなところに――――なんと、人間がいるようである」

「……」

「困ったものであるぞ、レムゼネル。魔王様ご滞在の地に、人間が紛れ込むとは……いや、もしやこのお方こそが? いやいやしかし? いやいやどうして……」


 悩む素振りを始める悪魔の両脇から、用心棒のように控えていた二体の巨大なデーモンが、ゆっくりと歩み出た。

 悪魔が不意に顔を上げ、明るく言う。


「まあ、良いのである――――こうすればわかることゆえ」


 直後――――デーモンの持つ棍棒が、二本同時にぼくへと振るわれた。

 レムゼネルやその従者たちが息をのむ。


 ぼくはと言えば……ただ冷静に、ヒトガタを浮かべるのみ。


《金の相――――夛金檻(たがねおり)の術》


 周囲の地面から、銀色の金属が幾条も伸び上がった。

 それらは瞬く間に竹籠のように編み合わさると、ぼくを覆う半球状の檻を形作る。


 次の瞬間、檻の表面にデーモンの棍棒が振り下ろされた。

 轟音が響き渡り……しかしその棍棒は大きく弾かれる。

 編み合わさった金属には、凹みすらも生じない。二体のデーモンが困惑したように後ずさった。


 当然だ。

 重く硬い夛金(タングステン)の檻は、生半可な攻撃では傷すらつかない。


 再び棍棒が振り上げられるより早く、ヒトガタが飛翔した。瞬く間に五芒星の陣が形作られ、デーモン二体の動きを止める。


 そして――――、


「里に押し入っていきなり狼藉を働くとは……其の方は野盗か何かか?」


 浮遊するヒトガタを、ぼくはその悪魔の眼前に突きつけていた。


 解呪した《夛金檻(たがねおり)》が周囲で無に還っていく中、悪魔へと告げる。


「封ずる前に、申し開きがあるのなら聞かなくもないが」


 睨みつけるぼくに、悪魔はしばし沈黙していたが……やがて感極まったように言った。


「ふふ――――素晴らしい! 素晴らしい御技でありました、魔王様!」


 叫ぶやいなや、悪魔がうやうやしくぼくの前に膝をつく。


「我が眷属たるハイデーモンの攻撃をものともせぬ土属性魔法。身動きを封ずる呪いにも似た不可思議な符術。少々伝承とは異なるものの……我の理解を超越するお力を前に、ただただ圧倒されるばかりでありました」

「……はあ?」

「名乗りの遅れた無礼をお許しを。我は『金』のエル・エーデントラーダ。悪魔の王からは大荒爵の位を賜った、魔王様の忠実なる臣下であります」


 へりくだる悪魔の言動からいろいろ察し、ぼくは目を眇める。


「……ぼくの力を試したのか?」

「まさか、滅相もない。伝え聞く偉大なお力を試すなど、そのような恐ろしいこと我にはとてもとても。ただ……我の眷属たるハイデーモンはモンスターゆえ、どうしても人間に対しては敵対行動を取ってしまうのであります。制止が間に合わなかったのは我の過失。申し開きのしようもありません」

「制止だと? デーモンどもをけしかけていた分際でよくそのようなことが言えたものだな。人間を敵視しているのは、他の誰でもない其の方なのではないか?」

「それも、魔族の繁栄を願うからこそであります」


 ぼくはしばし金色の悪魔を睨んでいたが……やがてその眼前に浮かべていたヒトガタを掴み取り、懐へ仕舞った。

 溜息をつきながら告げる。


「今ばかりはその戯れ言を信じ、許そう。だが次はないぞ」

「寛大な沙汰に感謝いたします」


 そう言うと、『金』の大荒爵エル・エーデントラーダは歯を剥いた。

 ぼくは一瞬経って、それが悪魔という種族の笑みなのだと気づいた。


「魔王様――――どうか我ら魔族を、お導きください」


 ぼくは思わず顔をしかめた。

 めんどくさそうな奴だ。

 これからこんなのを何人も相手にしなきゃいけないと思うと憂鬱になってくる。


 なんと答えたものか迷っていた、その時。


「――――閣下! いらっしゃいますか!? 閣下ーっ!」

「こっちにはいないぞ!」

「まさか、やはり直接里の中へ!?」


 石柱の外側に広がる森から、大勢の声が聞こえてきた。


「おや、我の従者たちがようやく到着したようである」


 エーデントラーダは何事もなかったかのように立ち上がると、暢気に呟いた。


 レムゼネルが怒り半分、呆れ半分の声で言う。


「自分の従者を置いて一人で転移してくるとは、やはり貴様、頭がおかしいのではないか」

「レムゼネル、やめるの。こんなの放っておくの」

「おや? リゾレラ殿もお久しゅう。魔王のこととなれば、やはり貴殿も来られるであるか」

「――――おい、閣下の声がしたぞ!」

「閣下ーっ! どちらにいらっしゃるのですかーっ!?」


 門の前が騒がしくなってくる。

 すでにうんざりしていたぼくが踵を返しかけると、ラズールムの収拾をつける声が響いた。


「みなさん、まずは私の屋敷へお越しください。その後に滞在場所まで案内いたします」

※夛金檻の術

タングステンによる檻を形成する術。金属の中でも非常に重く、硬い性質を持つ。実際に発見されたのは近代だが、作中世界においては北欧の錬金術師が分離しており、日本では夛金と名付けられて鉱石が採掘されていた。

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