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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
七章(神魔の巫女編)

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第十九話 最強の陰陽師、標的を見つける


 翌日。

 山に追加で放っていたコウモリの式神が、標的の姿を捉えた。


「ほ、本当なの? ヒュドラを見つけたって」

「ああ」


 信じられなさそうに問いかけてくるルルムへ、ぼくは歩みを進めながら短く答える。


 まあ、信じられないのも無理はないかもしれない。

 ルルムも力の流れが見えるようだが、式神を使えばそれをはるかに超えた範囲を探れる。


「確認したいんだが」


 皆を先導しつつ、目だけで後ろを振り返る。


「ここのヒュドラは、妙な息吹(ブレス)を吐くんだったな」

「って、ギルドにいたやつは言ってたわねっ」


 答えたのはアミュだった。

 喋りながら倒木を飛び越える。


「生臭いような、変なにおいの毒らしいわ。普通ヒュドラの息吹(ブレス)は、硫黄のにおいがする火山の毒のはずなんだけど、ここのやつのは全然違うみたい。透明に見えるけど、ほんの少しだけ青い色がついていて……浴びせたものを燃え上がらせるんだって」


 前もってギルドで聞いていた情報を、アミュは話す。

 ただそれは、眉唾物にも思える内容だった。


「枯葉に突然火が着いたり、間近で息吹(ブレス)を浴びた人の髪の毛がいきなり燃え始めたりしたそうよ。もっともその人は、体が焼けるよりも先に苦しんで死んじゃったそうだから、火よりも毒そのものを気をつけた方がいいと思うけど」

「その息吹(ブレス)は、物の色を抜くとも言ってたな」

「あー、そうとも言ってたわね。死体の服の血染みが薄くなってたり、葉っぱが白くなったり……。そのヒュドラ、真っ白な色をしてるみたいだけど、なにか関係あるのかしら?」

「関係あるかはわからないけど……」


 しかし何を吐いてくるのかは、なんとなく想像がつく。


「こちらも、今一度確認したい」


 黙々と山を登っていた、ノズロがおもむろに言った。


「我々は息吹(ブレス)を気にしなくていいということだが……本当に対処を任せていいのか?」

「ああ」


 ぼくは短く肯定する。


息吹(ブレス)を浴びようが、気にせず攻めてくれ。毒の弱点は、敵を止める物理的な力が弱いことだ。剣を振るわれたり火を吐かれるのと違って、その瞬間は問題なく戦い続けられる。効き目が現れるまでにはいくらか時間がかかるからな」

「しかしそれでは、敵を倒せてもこちらが死ぬ」

「これでも回復職(ヒーラー)だ。回復は任せてくれ」

「……わかった」


 わずかな間の後、ノズロはうなずく。


「いずれにせよ、貴様がいなければヒュドラ討伐は厳しい。信じることにしよう」


 ぼくへの不安に、ノズロはそのような形で折り合いをつけたようだった。

 思わず苦笑して言う。


「まあそれでも、なるべく息吹(ブレス)を浴びないよう立ち回ってくれ。こちらに面倒がなくて助かる」


 本音を言えば、ぼくが一人でぶっとばしてしまうのが一番楽だ。支援に徹するとなると、余計な苦労が増える。

 ただそういうわけにもいかないから、人と人との関係は難しい。


「……」


 ぼくはちらと、ルルムに目をやる。

 神魔の巫女は、ひどい足場に苦戦しつつも、周囲の力の流れに気を配っているようだった。

 これまでと何も変わらない。昨夜の出来事に気をとられている様子は、微塵も見られない。


 ぼくは無言で視線を戻す。

 それでいい。ぼくも彼女も、今はこれからの敵に集中するべきだ。


 やがて――――。


「……ここだ」


 目的の場所へたどり着いた。


 そこは、細い谷を見下ろす崖だった。

 下には急流が流れている。今はもっと上流にある、滝が削ったとおぼしき地形だ。


 アミュがきょろきょろと辺りを見回す。


「……? いないじゃない」

「この下だ」


 崖際から何もない谷底を見下ろしつつ、ぼくは答える。

 アミュは不思議そうにしながら、こちらへ歩み寄ってくる。


「下? 崖の下にいるってこと?」

「いやそうじゃなくて、崖の途中にある洞窟の中に……」


 アミュが崖際から顔を出そうとした、その時。

 谷全体が、薄青く色づいた。


「げっ!」


 急いでアミュを引っ張る。

 少女剣士がバランスを崩して尻餅をついた直後――――崖下から、ぬるい風が噴き上がった。


 崖際に生えていた雑草や樹木の葉が、白く変色していく。


「ちょっと、なにすん……」

「喋るな。一度崖から離れるんだ――――来るぞ」


 アミュの手を引いて立ち上がらせると、身構えるパーティーメンバーの元にまで後退する。


 その時――――崖の下から、白い蜥蜴(とかげ)のような頭がにゅっと現れた。


 ドラゴンよりも鼻面が長く、華奢な印象を受ける。だがその純白の鱗はいかめしく、生半可な攻撃は通しそうにない。頭は、長い首へと繋がっていた。

 青緑色の目が、ぼくらを品定めするように見つめる。


「あ、あれがヒュドラ……?」


 イーファが呟いた直後。

 まったく同じ首が二本、崖下から伸びた。

 さらに、一本。さらにもう一本……合計五つになった頭が、崖の先でぼくらを見つめながら揺れる。


「やっぱり、首は五つで間違いなかったのね……」


 ルルムが険しい表情で呟く。

 ヒュドラは複数の首を持つモンスターだが、その数が増えるほど危険になると言われている。普通は三、四本であることを考えると、この個体は十分強敵と言っていいだろう。


 崖際に太い爪がかかる。

 ミシミシと岩を割りそうなほどの握力が込められ、ヒュドラが崖上に、その白い巨体を持ち上げた。細い首には不釣り合いにも映る強靱な胴体に、太く長い尾。


 なるほど、もっとも剣呑な亜竜と呼ばれるだけはありそうだ。


 アミュが目を白黒させながら言う。


「こ、こんなのどこに隠れてたのよ!?」

「だから、崖の途中に洞窟があって、そこに潜んでたんだって」


 どうりで今までなかなか見つからなかったわけだ。

 山脈全域を徘徊し、積極的に冒険者を襲うという話だったはずだが……もしかしたら恐ろしさが誇張されていただけで、元々そこまで活動的なモンスターではないのかもしれない。


 まあ何にせよ、見つけられたのならいい。

 ぼくは軽く笑みを浮かべると、皆へ告げる。


「さあ、いよいよボス戦だ。こいつを倒してケルツに帰るぞ」


 仲間たちが答えるよりも先に――――ヒュドラの五つの頭すべてが、まるで開戦を知らせるように甲高い雄叫びを上げた。


 身構えるパーティーメンバーを後ろから眺めつつ、ぼくは思う。

 さて……無事に終わればいいけど。

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