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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
七章(神魔の巫女編)

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第十三話 最強の陰陽師、依頼をこなす


 アルミラージの角を五十本納品し、達成報酬を受け取ったぼくたちは、さっそく次の依頼を受けることにした。


 そうしてやって来たのが、とある村からほど近いこの谷だ。


「来るわよっ!」


 アミュの声とほぼ同時に、前方で怒りの鼻息を吹いていた巨大な猪――――ヒュージボアが地を蹴った。

 ぼくは、平然とそれを眺める。

 それにしてもでかい。小山のような大きさだった。ランプローグ家の屋敷で出くわしたエルダーニュートに近い大きさだが、体高の分こちらの方が威圧感がある。


 近くの村から出された依頼が、このヒュージボアの討伐だった。

 どうやらここ数年、猪系のモンスターがこの辺りで急増しており、山に入る猟師や木こりが困っていたのだとか。

 おそらくボスとなる個体が現れたためで、初めはラージボア程度だと思われていたそうなのだが……実はこの大物だったことが逃げ帰ってきた冒険者の証言でわかり、ケルツやラカナの支部にまで依頼を出すこととなったらしい。


 ヒュージボアは、紛れもない上位モンスターだ。

 依頼の受注条件は四級以上。決して易しい相手じゃない。

 しかし……ぼくはそれほど心配していなかった。


「下がっていろ」


 その時、ノズロがすっと前へ歩み出た。

 進行方向の岩を小石のように弾き飛ばしながら迫るヒュージボアを、真っ直ぐに見据えている。

 道中では中位モンスターのサベージボアを何体も蹴り倒してきたこの神魔の武闘家だが……果たしてこの巨獣にはどう対応するつもりなのか。


 ノズロは片足を引いて重心を落とし、拳を腰だめに構えた。


 大地を抉るように蹴って加速するヒュージボアは……おそらく気づいていないだろう。

 この魔族の内を巡る、強大な力の流れに。

 そして、いよいよ二者が激突するその時――――、


「フッ!!」


 巨大な猪の鼻面に向け――――弩砲のような中段突きが放たれた。

 凄まじい衝撃に、ノズロの踏みしめる周囲の土が、同心円状に舞い上がる。


「ブィィッ!!」


 ヒュージボアが、重低音の呻き声を上げた。

 突進の勢いを完全に殺され、ひるんだようによろめいている。


 だが、まだだった。

 頭を振るヒュージボアは――――次いでその目に怒りを湛え、鋭い牙を矮小な魔族へと向ける。

 しかしそれを振るう寸前、動きが止まった。

 気を取られたのだ。大柄なノズロの肩を軽やかに蹴り、自身の頭上へと跳んだ、メイベルの影に。


 少女は、すでに戦斧を振り上げていた。

 ヒュージボアは、おそらく迷ったことだろう。


 物の重さというのは、直接触れずともその様子からなんとなく予想できる。

 大きさや、その動き。踏み台にされたノズロが微動だにせず、高く跳ぶことができたメイベルは、明らかに軽い……つまり、取るに足らない存在に見えたはずだった。


 だからこそ――――頭へと振り下ろされた戦斧を、避けようともしなかった。


「ブィ……ッ!?」


 谷中に響き渡るような、鈍い衝撃音が轟いた。

 確かな手応えを感じたのか、埋まるほどに深く頭部に突き立った戦斧の柄から、メイベルは手を離す。


 重力魔法で常軌を逸した威力となっていた戦斧は、ヒュージボアの分厚い頭骨をも、完全に砕いたようだった。


 巨大な猪型モンスターが、ゆっくりと傾き、やがてどう、と横倒しに倒れる。

 巨体が地を揺らす頃にはすでに、メイベルは死骸を蹴って下草の上へと降り立っていた。


「……ふう」


 メイベルは一仕事終えたように息を吐く。

 表情はあまり変わらないものの、どこか満足げだった。


「どのように身につけた技か知らぬが……大したものだな」


 歩み寄った神魔の武闘家が、小柄な少女を見下ろしながら言った。

 メイベルはノズロを振り仰ぐと、不敵な笑みを小さく浮かべて言う。


「あなたも、ね」


 そんな様子を、ぼくらはただ眺める。

 なんか、いつのまにか終わってしまった。


「あたしまだ、なんにもしてないんだけど……」

「わ、わたしも……」


 アミュとイーファが、微妙な表情で呟く。

 ルルムも苦笑しながら言う。


「ノズロは、ヒュージボアくらいなら一人でも倒せるから……でも、きっとメイベルさんもそうなのでしょうね」


 それから、嬉しそうな顔になる。


「ともかく、これでまた依頼達成ね」



****



 ヒュージボアの牙を納品し、達成報酬を受け取ったぼくたちは、またすぐに次の依頼を受けることにした。


 そうしてやって来たのが、大農園に近いこの森だ。


「ええええ、なにあれ……」


 イーファが気味悪そうな声を上げる。


 ぼくらの目の前に立ち塞がるのは、植物系モンスターの代表種、トレントだ。

 ただし、普通のトレントではない。

 樹木が根を動かし歩き回っている点は変わらないのだが……ずいぶんと不気味な姿だ。幹は微かに紫がかった黒色。蔓のように曲がりくねった枝が何本も伸びており、所々に粘菌のようなヘドロ状の液体を垂らしている。洞のような口と目も、普通のトレントよりずっと邪悪そうに見える。


 上位種であり、闇属性魔法まで使ってくるトレント――――イビルトレントというモンスターだった。


「ボォォォォ……!」


 洞の口が、威嚇の声を上げた。

 あるいは久々の獲物へ出くわしたことに対する、歓喜の声だったかもしれない。


 どっちでもよかった。このモンスターが、今回の討伐対象なのだから。


 依頼主は、近くにある大農園の経営者だ。

 たまたま出くわした森番からの報告で、このモンスターの存在を知ったらしい。

 これまでに被害があったわけではないのだが、近くに恐ろしいモンスターがいるとなると、やはり不安なのだろう。すぐにギルドへ討伐の依頼を出したらしかった。

 農園が儲かっているためか、報酬もずいぶんと高額。ありがたいことだ。


 イビルトレントは、もちろん上位モンスター。受注条件は四級以上だ。

 こういった依頼は、報酬が高額でもすぐに達成されてしまうとは限らない。これまでにいくつかのパーティーが失敗し、帰ってこなかったらしい。


 とはいえ、今回もぼくはそれほど心配していない。


「ボォッ!」


 イビルトレントが枝を触手のように伸ばしてくる。

 樹のくせに、それは意外なほど俊敏な動きだった。


「っ、と!」


 アミュが軽く躱し、流れるような動作で枝を切り払う。

 さらに、頭上を迂回し後衛へと伸びる枝を、下から氷の槍が貫く。左右から挟撃してくる枝を風の刃で断ち、追撃の枝を岩の砲弾が潰す。


 剣にも魔法にもそつがない。


 本来なら数人がかりでするような前衛の仕事を、アミュは一人でこなしていた。

 あらゆる獣を凌駕するであろう上位モンスターの攻撃が、ただ一人の少女剣士によってすべて防がれている。


「あははっ、さすがにキツいわねー!」


 と言いつつも、同じ前衛のメイベルやノズロに助けを求める様子もない。まだまだ余裕そうだ。

 こうして見ると、この子の持つ才のほどがよくわかる。


「ボォォ……ッ!」


 イビルトレントが、苛立ったように枝で周囲を打ち据える。

 その時――――黒々とした洞の口が、がばりと大きく開いた。


「ボオオォォォォォォォォ――――ッ!!」


「いっ!?」


 アミュが、びくりと体を竦ませた。

 肉薄する枝を慌てて切り払うが……先ほどまでの精彩がない。手数に押されるように、徐々に後退していく。


 イビルトレントの咆哮(ハウル)だった。


 トレント系のモンスターが使ってくるとは聞いたことがなかったが、この効果はまさにそれ。そばに控えるイーファやメイベルも、足が竦んでいる様子だ。


 イビルトレントは、どうやら調子を良くしたようだった。根のような足が蠢き、黒い樹体がぼくらへ迫る。

 再び大口が開く。


「ボオオォォォォォォォォ――――ッ!!」


 アミュたちが揃って後ずさる。

 そんな中――――短弓に矢をつがえながら、ルルムが鬱陶しそうに言った。


「ずいぶんやかましい樹ね」


 ふつ、という小気味良い音と共に、小ぶりな矢が放たれる。

 それは開ききった洞の口へと真っ直ぐ飛び込んでいき――――直後、内側から緋色の炎が爆発した。


「ボォォォォォォッ!?」


 イビルトレントが絶叫を上げる。

 枝をめちゃくちゃに振り回して暴れ回るが、自身の内側から燃え上がる炎を消す(すべ)は、さすがに持っていないようだった。

 醜悪な樹のモンスターはやがて動きを止めると、めきめきという音と共に、森の土へと緩慢に倒れ伏す。


 モンスターの死骸で燃え盛っていた炎は、次第に勢いを弱めていった。

 明らかに自然な現象ではない。火災防止のためか、鏃に元々そのような効果が付与されていたようだった。

 魔道具には、術士の腕次第でかなり複雑な効果も込められる。


 上位モンスターであるイビルトレントをただの一射で仕留めたことからもわかるとおり、かなり上等な鏃を使ったらしい。

 付与術士(エンチャンター)として、ルルムはそれだけの実力を持っているのだろう。


 一連の様子をぽかんとしながら眺めていたアミュへ、ルルムが自慢げな笑みと共に話しかける。


「どう? これでも地味かしら?」

「う、ううん」


 アミュが首を横に振る。


「ねえ、あんたさっき普通に動いてたけど……神魔って咆哮(ハウル)効かないわけ?」

「効かないわけではないけれど、あれくらい平気。あなたは、ずいぶん怖がっていたわね」

「し、仕方ないでしょっ」

「ふふっ、人間って繊細なのね。あなたはそんなに剣も魔法も上手なのに。最初に遊ばなければ、一人でも倒せたくらいじゃないかしら?」

「うーん……そうね。いけたかも。あたし、今までも何度か上位モンスターだって倒してるし」


 アミュがそう言ってうなずく様を、ルルムは少々苦笑しながら聞いていた。


「もう、終わっちゃった」

「わ、わたし今回もなんにもしなかったよ……」


 メイベルとイーファが、なんとも言えない表情で呟く。


「かまわないだろう。早く済むに越したことはない」


 焼け残ったイビルトレントの樹皮を剥いでいたノズロが、立ち上がって言った。


「次だ」



****



 イビルトレントの樹皮を納品し、達成報酬を受け取ったぼくたちは、またすぐに次の依頼を受けることにした。


 そうしてやってきたのが、この岩肌の露出する険しい山だ。


「あっ、あれじゃない?」


 山頂付近にぽっかりと空いた、巨大な縦穴洞窟。

 それを覗き込んでいたアミュが指を差して言った。

 視線の先には、真っ赤な葉を揺らす植物が、岩肌にへばりつくようにして生えている。


「わっ、本当に赤いね」

「あれが、朱金草?」


 イーファとメイベルが、同じく縦穴を覗き込んで言う。

 どうやら、ぼくたちはあれを採ってこなくてはならないらしい。


 今回ぼくたちが受けた依頼は、朱金草という珍しい薬草の採取だった。

 前世では見たことのない植物で、どうやら魔法薬の原料になるらしい。


 妖怪の肉や霊樹の実など、呪力を帯びたものを体に取り入れると、大抵はろくでもないことが起こる。だから前世では、知識のある人間ほど避けたものだったが……どうやらこちらの世界では、一部のモンスターや植物に限って、食用や薬になっているようだった。よくやるよと思う。


 とはいえ、朱金草自体に危険はない。

 だから安全そうな割に、報酬が高額な依頼だと思ったのだが……その理由がわかった。あれはなかなか採りに行けない。

 しかも道中ではモンスターが出るうえに、姿を現すのは一年の決まった時期だけ。薬師が自分で採りに行かず、冒険者ギルドへ依頼を出したのも納得だった。


「問題は、どうやって採るかだけれど」


 ルルムが溜息をついて言う。


「困ったわ。せめて縄を用意してくるべきだった」

「降りるしかないだろう」


 ノズロが荷物を下ろしながら言う。


「戻る時間も惜しい。他に方法はない」

「ええっ、ここ降りるわけ……?」


 アミュが縦穴の下を覗き込んで言う。

 洞窟の奥は奈落の闇で、どれほど深いかわからない。いくら魔族でも、落ちたらまず助からないだろう。


 だが、ノズロは縦穴の縁へと歩きながら言う。


「俺一人でいい。お前たちはここにいろ」

「あ、あの、待ってください」


 その時、イーファが口を挟んだ。


「たぶん、大丈夫だと思いますから」

「何……?」


 イーファは訝しげなノズロの横を通り、縦穴の縁へと座り込む。

 そして遠くの岩肌に茂る赤い薬草へ、そっと右手を向けた。


 精霊の魔法による、風の刃が飛ぶ。

 それは岩肌の朱金草を数本、まとめて刈り取った。

 宙へと散った草が、奈落へと落ちていく。

 だが直後、その周囲につむじ風が発生。高く舞上げられた薬草はそのまま縦穴から飛び出すと、ぼくらの頭上を越え、後ろの草地へぱさぱさと落ちた。


 おおー、と皆でどよめく。


「え、えへへ……」

「器用なものだな」


 照れるイーファにノズロが呟くと、ルルムも優しげな声で訊ねる。


「あなたの魔法は……変わっているのね。もしかして、森人(エルフ)が使う魔法と同じものなのかしら?」

「あの、はい。遠い先祖に、森人(エルフ)の人がいたみたいで……」


 傍らでは、メイベルとアミュが話している。


「アミュ、あれできない?」

「無理無理。刈り取るだけならまだしも、回収できないわよ。イーファの魔法って、学園で教えてるような理論があるものとはちょっと違うのよね」


 イーファが張り切ったように言う。


「えへへ、じゃあ、もっと採りますね!」


 と、岩壁の薬草を風の魔法でどんどん採集し始める。


 この分なら、納品に必要な量はあっという間に貯まりそうだ。

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