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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
七章(神魔の巫女編)

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第二話 最強の陰陽師、等級を得る


「冒険者等級?」


 フィオナに返事を出して、数日が経った頃。

 ギルドの食堂で一人遅めの朝食をとっていると、ぼくを見つけたアミュたちが駆け寄ってきて、身を乗り出すようにこんなことを訊ねてきた。

 冒険者等級のこともう聞いた? と。


 掘り起こしつつ訊ね返す。


「それって確か……冒険者の格付けのことだったよな。それがどうかしたのか?」

「あたしたちの等級がようやく決まったのよ!」


 注文もせずにぼくの正面の椅子に座ったアミュが、弾んだ声でそう言った。

 ぼくは意味がわからず首を傾げる。


「ようやく決まったって……どういうこと?」

「えっとねセイカくん。冒険者って、実績と経験年数で等級が決まるんだって」


 ちょっと店員を気にしつつアミュの隣に腰掛けたイーファが説明を始めたので、ぼくは相づちを打ちながら聞く。


「あれってそういう仕組みだったのか。それで?」

「わたしたち、去年のスタンピードでみんな、たくさんモンスターを倒したでしょ? それでね、その時に戦った人たちの等級をどうするか、ずっとギルドで話し合ってたみたいなの」

「昇級の要件になる実績って、パーティーで倒したモンスターの種類によって決まるのよ。でもスタンピードはパーティーなんて関係ない乱戦だったから、どこまでを実績と認めるのか揉めてたらしいのよね」


 イーファの説明を補足するように、アミュが言う。


「上位モンスターが混じってたから全員を二級や三級まで上げるのか、それとも特殊な状況だったから実績とは一切認めないか、間を取って四級や五級にするか……みたいな」

「はあ……」


 いまいちピンと来ていないぼくは、とりあえず根本的なところから訊ねることにする。


「その、等級が上がる実績や経験っていうのは、具体的にはなんなんだ?」

「ええと」


 思い出そうとするように、アミュが空中を見つめながら言う。


「最初は十級で、下位モンスターを倒せれば九級ね。そこから一年経験を積むごとに一級ずつ、六級まで上がるわ。でも中位モンスターを倒せれば、その時点で経験年数関係なく五級。それでいて五年以上の経験があれば四級。同じく上位モンスターを倒せれば三級で、かつ十年以上の経験があれば二級ってわけ」

「ふうん、なるほどな」


 実力と経験、どちらも評価するような等級制度らしい。

 ただ腕っ節が強いだけでも三級にまではなれるが、二級となると加えて十年もの冒険者経験が必要になる。強敵に挑みながらそれほど生き延びられたのなら、かなりの古強者と言っていいだろう。

 と、ぼくは疑問が浮かぶ。


「あれ、じゃあ一級にはどうすればなれるんだ?」

「一級と準一級は、ギルドが特別に認定しない限りなれないわ。サイラス市長は一級らしいけど、ラカナには他にいないんじゃないかしら」


 となると、名誉職みたいなものだろうか。

 ならば実質、二級が冒険者の頂点というわけか。


 と、そこでアミュが付け加える。


「ただ、それとは別にパーティーの等級もあって、そっちなら準一級はけっこういるわね。パパのパーティーもそうだったし、ザムルグの《紅翼団》とロイドの《連樹同盟》も両方準一級だったはずよ。もっとも、よっぽど有名なパーティーじゃないと等級なんてそもそもつかないけどね」

「ややこしいな……だけどだいたいわかったよ」


 パーティーの格付けも、実質的には名声によって得られるものなのだろう。こっちもあまり重要ではなさそうだ。下手をすれば、功績なんてなくても、金や政治で手に入ってしまうのかもしれないし。


 等級の考察はその辺にして、ぼくは話を戻す。


「それで、スタンピードでの戦いを実績と認めるかってことだったな。確かに頑張って上位モンスターを倒したやつもいれば、ずっと隠れてたやつもいるだろうから微妙だろうけど……ギルドは結局どうすることにしたんだ?」

「ふふふ……じゃーん! 答えはこれよ!」


 と言って、アミュがにっこり笑いながら小さな金属板を突き出した。

 黄色がかった指でつまめるほどの金属板には、首にかけるための小さな鎖が繋がっている。その表面には五という数字と冒険者ギルドの紋章、それからアミュの名前が打刻されていた。


「スタンピードで戦ってた冒険者はみんな、中位モンスターの討伐実績ありって扱いになったわけ。あたしたち全員、五級になったのよ!」


 金属板は、どうやら五級の認定票だったらしい。

 よく見れば、イーファとメイベルも首から同じものを下げているようだった。


「へぇ……ちょっと見ていいか?」


 アミュから認定票を借り受ける。

 黄色がかった金属は、おそらく真鍮。打刻は思ったよりも丁寧にされている。等級の数字と偽造防止のためのギルドの紋章はともかく、わざわざ名前まで入っているのは、きっと盗難や勝手な売買を防ぐためだろう。


 打刻されている五という数字をしばし眺めた後、無言で返すと、アミュが不満そうに唇を尖らせた。


「なによ、そのつまんない反応。感想とかないわけ?」

「いや……」


 微妙な気持ちになってしまった理由を、ぼくは仕方なく説明する。


「五級か、と思ってさ……。だって君、レッサーデーモンやナーガを倒してるだろ? あれは上位モンスターじゃなかったか? 本当なら三級になっていいはずなのに」

「そんなの仕方ないじゃない」


 アミュが認定票を首から下げながら言う。


「あの時は別に冒険者として倒したわけじゃなかったし、まだ十二歳だったんだから。ギルドだって認めるわけにはいかないわよ」

「ああ……そういえば冒険者として正式に認められるのは、十五歳になってからだったっけ」


 実際にはそれより年少の冒険者もいるが、正式にギルドへ登録できるのは成人してからだと、以前アミュに聞いたことがあった。


 アミュがにまにま笑いながら言う。


「それに、等級は上げればいいのよ! ダンジョンが復活したら、適当にハイオークでも倒しに行きましょう。エルダートレントでもいいわね、一度倒さず逃げちゃったから」


 実力より低い評価にもかかわらず、アミュはずいぶんと機嫌が良さそうだった。

 小さい頃から冒険者をやっていたアミュも、これまでは年齢の関係で正式にギルドへ加入できなかったから、今回初めて等級を得たことになる。

 だから、嬉しいのかもしれない。


 と、そこでぼくは気づく。


「あれ、待てよ。それならもしかして、ぼくだけ実績が認められないことにならないか?」

「なんでよ」

「スタンピードの時点でも、ぼくまだ十四だったぞ。誕生日が秋だから。成人してからはダンジョンに潜ってないし……ひょっとして、ぼくだけまだ十級なのか?」

「あのね……」


 アミュが呆れたように言う。


「あんたあれだけのことをしたんだから、そんなつまらない理由で実績が認められないわけないでしょ。だいたい一、二歳くらいなら、みんな普通に誤魔化してるわよ」

「そうか、ならよかった」


 ぼくはほっと息を吐く。

 別に等級なんてどうでもいいが……さすがに一人だけこの子らより下では、なんだか格好がつかない。

 ぼくは視線をテーブルに戻し、朝食の残りに手をつけながら呟く。


「じゃあ、五級にはなれるわけか。それならぼくもその認定票、もらいに行かないとな……ギルドで受け取れるのか? 手数料とかかかる?」

「……」

「……」

「……」

「あれ、どうした? 三人とも」


 顔を上げると、三人が微妙な表情で沈黙していた。

 ほどなくして、イーファがなんともいえない口調で言う。


「えっと、セイカくんは別だよ……わたしたちと一緒なわけないじゃない」

「えっ」

「あんた、自分がなにしたと思ってるのよ」

「ええ?」

「はい」


 と言って、イーファの反対側に座っていたメイベルが、小ぶりな木箱を差しだしてきた。


「セイカの分、あずかってきた」

「ぼくの分……? これ、ぼくの認定票か?」


 木箱を引き寄せる。

 手に取って見ると、なかなか丁寧な作りであるようだった。


 金属の留め具を外し、蓋を開ける。すると予想通り、一つの認定票が木枠に嵌められ収められていた。

 ただし、その見た目はアミュたちのものとはだいぶ異なっている。


 黄色がかった金属であるのは変わらないが、その輝きはずっと強く、また打刻されている数字も別だ。


 (いち)


(いち)……? ってこれ、一級の認定票!?」


 いったい誰のものかと思ったが、よく見なくてもセイカの文字がはっきりと打刻されている。

 家名まではないものの、明らかに自分のものだった。


「いや待て、これ、色が君らのと違うんだけど……もしかして、純金製か?」

「そうよ」


 アミュが、どこか呆れたような顔でうなずく。


「認定票って普通は真鍮製なんだけど、準一級が銀、一級が金でできてるの」

「こ、こんな高価なもの首から下げて冒険に行けっていうのか……」

「現役の冒険者がもらうことは少ないって聞くわね」


 名誉の等級なら、確かにそうだろうけど……。

 アミュが続けて言う。


「ま、鎖は金じゃないし、溶かして売っても金貨一枚分にもならないわよ。命を狙われるほど高価なものじゃないわ」

「確かにそんなに大きくはないけど……というか、なんでぼくだけ一級なんだ?」

「ええ……なんでって、あんたねぇ……」

「セイカくんが不思議に思ってるのが不思議だよ……」

「スタンピードを一人で収めたんだから、あたり前」


 メイベルに正論をぶつけられ、ぼくは何も言えなくなった。

 やっぱり、さすがにやり過ぎだったか……。

 微妙な表情のまま、黄金色の認定票を手に取る。


「どうでもいいけど、こういうのって普通ギルドの支所長とかから手渡しされるものじゃないのか? いくらパーティーメンバーとは言え、人に預けるなよ……」

「忙しかったんじゃないの? あんたが攻略本作りの仕事をギルドに押しつけたから」

「あー……」


 アミュの言う通り。

 この半年くらい、ぼくはダンジョンの攻略に役立つ情報を記した書物作成に励んできたわけだが、苦労の末に初版ができあがったのを見計らって、以後の仕事を全部ギルドへ引き継いだのだ。


 ぼくとしては、本来やるべきところへ仕事を返したつもりだったのだが……最近は少しずつダンジョンにモンスターが戻ってきているのもあって、職員は皆忙しくしているようだった。

 だから、少々恨まれるのもわからなくはない。


 ぼくが渋い顔をしていると、アミュがめんどくさそうに言う。


「なに? あんた授賞式とかしてほしかったわけ?」

「いや、全然そんなことはないけど……」

「じゃあいいじゃない」

「……なんか最近、街の連中のぼくに対する扱いが雑になってきてる気がするんだよな。ますます馴れ馴れしいっていうか……」

「それ、ここに馴染んできてるってことなんじゃないの? 学園よりいいじゃない、あんた友達いなかったんだし」

「ぐっ……」


 呻くぼくを無視し、アミュが続ける。


「意外だけど……あんたって行儀のいいお貴族様みたいなのより、荒っぽかったり、変わってる人間に好かれるわよね。あんた自身は全然そんな風に見えないのに、不思議」

「……」


 言われてみれば……前世でもそうだったかもしれない。

 陰陽寮の役人時代には周りの貴族に全然馴染めなかった一方で、西洋から帰ってきてからは変な武士(もののふ)や術士や山伏や商人連中に懐かれ、そんな付き合いばかり増えていった。


 確かに前世では、元々生まれも育ちも決していいとは言えなかったが……こういう気質は、やっぱり転生しても変わらないものか。


「でも……みんな、ちゃんとセイカくんには感謝してると思うよ」


 その時、イーファがぽつりと言った。


「スタンピードの前は、いろいろ噂されてたけど……今じゃもう、セイカくんのことを悪く言ってる人なんていないもん。それだってきっと、感謝してるからくれたんだよ」

「それって、この認定票か?」

「うん。セイカくん、銅像を建てる話、断っちゃったでしょ? だから、代わりになにかあげたかったんだよ。ギルドの人たちだけじゃなくて、議会の人たちもみんな同じ気持ちだったから、セイカくんを一級って認めることになったんだと思う」


 ぼくは思わず、金の認定票に視線を落とした。


「まあ、銅像は本気で勘弁してほしかったから断ったのは当然として……その代わりか」


 本来であれば、せいぜい準一級止まりだったのだろう。

 ぼく以外で、一級の冒険者は市長のサイラスしかいないのだ。いくら大きな功績があるとは言え、皆から尊敬される街の首長と、若造の一冒険者を同格に認定しては、街との関係がこじれる可能性がある。

 ギルドの独断では、きっとためらわれたはずだ。


 それにもかかわらず、他の冒険者と同じタイミングでぼくが一級になれたということは……普通に考えて、議会やサイラス市長の後押しがあったに違いなかった。


 ぼくは、ふと微笑む。


「そういうことなら……ありがたく受け取っておくか」


 為政者に目を付けられる危険を冒してまでラカナを救った甲斐も、あったかもしれない。

 冒険者の等級なら、これから先役に立つこともきっとあるだろう。


 ぼくは、自分の名が入った認定票をつまんで眺める。


「でもこれ、家名は入れてくれないんだな」

「認定票ってそういうものよ。家名を持ってる冒険者なんてほとんどいないし、持っていても隠したがることが多いから。あと、スペースもないし」

「確かに」

「ま、なんにせよよかったわね、セイカ」


 アミュがにやつきながら言う。


「一級の認定票はすごいわよ? ギルドが認めた人物ってことになるから、どこへ行ってもお偉いさんみたいな扱いされるわ」

「ええ、むしろそういうのはやめてほしいな……」


 だけど、いかにもありそうだった。

 こういうのをもらうやつは、だいたいの場合金と地位も持っているものだ。

 今年でようやく十六という若い身体ではあるものの、一級という肩書きを見てへりくだる人間はきっと多いだろう。


 しかしながら、ぼくは認定票を懐に仕舞いつつ言う。


「まあでも、しばらくは使い道なんてなさそうだな」


 肩書きがあっても、見せつける相手がいなければ仕方ない。

 ラカナではいろいろあったおかげで、すでにほとんどの住民がぼくのことを知っているし、当面は別の街へ向かう予定もなかった。


 しかし、アミュはきょとんとして言う。


「別に、有効活用しようと思えばできるわよ。たしかここのギルドにも掲示板があったはずだし」

「ん……? どういうことだ?」

「依頼を受けるってこと」

「依頼?」

「知らない? ダンジョンが近くにたくさんあるラカナはともかく、余所の街ならこっちを専門にする冒険者も多いんだけど」


 そう言うと、アミュは立ち上がった。


「せっかくだから、ちょっと見に行ってみる?」

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