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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
七章(神魔の巫女編)

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第一話 最強の陰陽師、手紙をもらう

七章の開始です。


『親愛なるセイカ様へ


 寒さも落ち着き、芽吹きの季節を迎える今日この頃。セイカ様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。


 便りがここまで遅くなってしまったことをお許しください。セイカ様が無事ラカナへ入城できたことは聞き及んでおりましたが、あいにく種々の難事に手を取られ、なかなかペンを執る機会に恵まれませんでした。わたくしの半生で、これほど口惜しかった日々はありません。


 ただその甲斐あって、難事はおおむね片付き、こうして手紙を送ることもできるようになりました。ようやく思いを綴れるこの喜びを今、インクに込めております。


 前置きはこのくらいに、まずは一番お伝えしたかった言葉を申し上げます。

 セイカ様。ラカナを救っていただき、本当にありがとうございました。


 スタンピードが起こる可能性は、実はわたくしも把握しておりました。セイカ様をお見送りして数日後に、ぽつりぽつりとそのような未来が視えるようになったのです。


 しかしながら、みなさんに別の滞在先をすぐには用意できず、またセイカ様にお伝えしようにも、例の騒動の渦中にいたわたくしには方々(ほうぼう)の派閥からの目が光り、なかなか手紙も書けない始末。そこで、なんとか未来を変えようと試みたのですが……結局はうまくいかず、セイカ様の手を(わずら)わせることとなってしまいました。


 わたくしの力も万能ではなく、まれにこのようなことが起こってしまうのです。申し訳ありません。


 お詫びと言ってはなんですが、役に立つ紙を同封しておきました。

 好きな数字をお書きください。リストにあるいずれかの商会に持っていけば、すぐに用立ててくれるでしょう。


 冒険者を始められたそうですね。サイラス議長がセイカ様たちをろくに歓待もせず、街に放り出したと聞いた時は思わず顔が引きつったものですが、とても活躍されているようで何よりです。

 セイカ様が冒険者をされている野性的なお姿は、いつかぜひ……ぜひ見てみたく思います。


 お体にはお気をつけて。

 また手紙を書きます。


 あなたのフィオナより』



 ぼくは静かに手紙を閉じた。


 ラカナにある、逗留中の宿の一室。

 時候の挨拶にもあったとおり、ここのところは寒さもだいぶ緩んでいる。

 長かった冬が終わり、この国はまた春を迎えようとしていた。

 もうあと一月もすれば、ラカナへ来て丸一年が経つことになる。思い返せば、なんとも慌ただしい日々だった。


 窓際でひなたぼっこをしていたユキがむくりと体を起こす。


「おや。(ふみ)でございますか、セイカさま」

「ああ。フィオナからな」

「ほほう、あの姫御子から。ずいぶんと今さらな気もしますが……して、なんと?」

「スタンピードのこと、なんとかしてくれてありがとうってさ」

「む……」

「あれが起こることはぼくを送り出した後に気づいたけど、いろいろあって伝えられなかったって」

「むむ、なにやらいかにも、取り繕ったような内容でございますね」


 ユキはあからさまに疑わしそうな顔になって言う。


「ユキはどうにも怪しく思えてきました。考えてもみれば、あの未来の視える姫御子が先の災厄を予見できず、たまたまセイカさまをこの街に送り込んだなどあまりにできすぎた話。……騙されているのではございませんか? セイカさま」

「んー……そうかな」


 ぼくは手紙を折りたたみながら、適当にユキへと問い返す。


「ではお前は、フィオナの真意はなんだったと?」

「あの姫御子は、すべてを知ったうえでセイカさまをこの街へ逃がし、先の災厄を鎮めさせようとしたのでは? ここの長はあの姫御子と協力関係にあるようですし……いえあるいは、セイカさまのお力を脅威に思い、災厄を利用してこの街ごと滅ぼそうとしたのかもしれません!」

「いや……どうだろう。たぶんそんなことはないと思うけど」


 憤慨しながら言うユキに、ぼくは苦笑しつつ答える。


「今こうして生きているのだから、少なくとも謀殺を試みたわけではないだろう。フィオナが仮にそのつもりだったのなら、ちゃんとぼくが死ぬ未来が視える方法を選んだはずだ」

「あ、たしかに……」

「スタンピードを鎮圧させたかったにしても、やはり違和感がある。黙ってこの街に送り込み、後になってこんな言い訳めいた手紙を寄越すなんて、(はかりごと)というにはあまりにお粗末だ」


 未来を見通し、権謀術数を巡らせ、聖騎士という強大な暴力まで手中に収める聖皇女。その計略がこんなものだとは、ちょっと考えにくい。

 フィオナからすれば、ぼくの不信はなるべく買いたくないはずなのだ。またあんな大事件を起こされたらたまったものではないだろうから。


 未来の視える人間が案内した街で、大災害が起きたらいかにも怪しい。

 そんなユキですら訝しむような粗雑な方法を、フィオナがあえてとる理由がない。


「だから逆説的に、だいたいの事情はこの手紙に書いてあるとおりなんじゃないかな。少なくとも悪意があったようには思えない。いきなりスタンピードの未来が視えて、フィオナもきっと焦っただろう」


 ぼくに危険を伝えたくとも、新しい逃亡先なんてそうすぐに用意できるわけもない。

 だからといってそのままラカナに留まり、なんとかして街を救えとも言えるわけがない。

 どうにか未来を変えるべく奔走し、結局間に合わなくてしばらく頭を抱え、ようやく今になって詫びの手紙を書いた……といったところだろうか。


 ユキは唸って言う。


「むむ、そう言われれば、そんな気もしてきますが……セイカさまがそのように思われることまで見越して、とは考えられませんか?」

「帝城をいきなり破壊するような輩に、そこまでの深慮は期待しないだろ」

「う……そう言われますとちょっと、ユキには言葉が見つかりませんが……」


 それからユキは、一拍置いて訊ねてくる。


「セイカさまはあの姫御子のことを、信用なさるのですか?」

「ん……」


 ぼくはわずかに口ごもった。


「信用、と言っていいのかわからないが……少なくとも今は、敵ではないと思ってる」


 それから、おもむろに訊ねる。


「……やっぱり、甘いだろうか」


 前世では政争に巻き込まれ、謀殺されたのだ。

 いくら恩があり、アミュたちと仲良くしていたからといって、本当は皇女などに気を許すべきではないのかもしれない。


 しかし意外にも、ユキは首を横に振って言う。


「いえ。ユキは、それもよろしいかと思います」

「え、そうか?」

「はい」


 うなずくユキに、ぼくは拍子抜けしてしまう。

 てっきり小言を言われるかと思ったのだが……。


「かの世界では帝の一族のご友人もいたではございませんか。ユキは、セイカさまが前世のように過ごされるのもよろしいかと思っております」

「……。前世のように、か」


 ユキは以前にも同じようなことを言っていた。

 あんな死に方をした以上、さすがにそこまで楽観的にはなれない。前世のように過ごした挙げ句、同じ末路をたどったのでは目も当てられない。

 狡猾に生きるかはともかく、為政者に目を付けられない程度の慎重さは、最低限持っておかなければならないだろう。


 ただ最近は、それを自分から破っているのも確かだった。

 まあどのみち、今からフィオナと距離を置こうというのも現実的ではないのだ。小言を言われても嫌だし、ひとまず今はユキの言葉に従っておくとしよう。


「……それなら、なるべくフィオナとはうまくやっていくようにしようか」


 ぼくは笑みとともにそう言って、それから手紙と一緒に入っていた紙片に目を落とした。

 それは詫びの印というには、十分すぎる代物だった。


「こんなものまでもらってしまったしな」

「……? なんでございますか? その紙は」

「手形だよ」


 その小さな長方形の紙片は、これまで見た中で最も上質な紙だった。

 複雑な紋様の縁取りがなされ、銀行名や支払いに関する文言、そしてフィオナの署名があり、印章が押されている。

 ただし、金額は空欄になっていた。


「好きな額を書いてくれとさ」

「ええと、手形……とは?」

「言うなれば、金銭の代わりになる紙だよ。ここに書いてある銀行か、フィオナが出資している商会の支店に持っていけば、金に換えてくれるみたいだ。ちなみに金額はぼくが自由に決めていいらしい」

「おお! それはもしや、すごいものなのでは!? この世の富のすべてがセイカさまのものになるということですか!」

「いや、そんなとんでもない額は書けないけどな。あくまでフィオナが支払える額までだ。多少は空気を読んで決める必要がある」


 ただそれでも、相当な額をもらえそうではあるが。


「幸い、今はもう金の心配はしてないが……あって困るものではないからな。いつかこれに助けられるかもしれない」

「ようございましたね、セイカさま」


 ユキがあらたまって言う。


「財貨が手に入ることもそうですが……その量をセイカさまが好きに決めていいということは、それだけ向こうからも信用されている証なのでしょう。セイカさまが書き入れる額次第では、あの姫御子が破滅しかねないのでしょうから。帝の一族に信用され、悪いことはございません」


 聞いたぼくは目を瞬かせた後、苦笑した。


「いや。結局この銀行に預けてある以上には払い出されないから、破滅はないと思うけど」

「あ、あれ、そうなのでございますか……」

「でも……そうだな。そう思っておくことにするか」


 そう言って小さく笑うと、ぼくは立ち上がり、外套を手に取る。


「外出でございますか? セイカさま」

「ああ、便箋を買いにな。たぶん今、フィオナはぼくがどう思っているか、いくらか不安だろうからな。なるべく早く返事を書いてやることにするよ。ただ……」


 ぼくはそこで、眉をひそめて付け加える。


「内容をどうするか、だけど……」

「なにを悩んでおられるので? (ふみ)を書くのは、セイカさまもお好きだったではございませんか」

「それはそうなんだけど……なんかこの手紙、まるで想い人に送るみたいな書き方なんだよな。あなたのフィオナより、とか書いてあるし……」

「…………ん?」

「まあこれが皇女という立場での処世術なのかもしれないけど、どういう感じで返したものか……こちらの上流階級の作法は、正直そこまで詳しくないし……」

「あの……セイカさま。それはたぶん、そうではなく……」

「ん? なんだ?」

「……いえ、なんでもございません。ユキが言っても、きっと仕方のないことでしょうから」


 と、まるで溜息をつきたそうな声音で言う。


「ただ、ユキは前世から思っておりましたが……くれぐれもお気をつけくださいね、セイカさま」

「だから、何がだよ」


 ユキは、なんだか駄目男に言い聞かせるような調子で告げた。


「どうか、女性に後ろから刺されるようなことにだけはなりませぬよう」

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