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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
六章(自由都市ラカナ編)

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第六話 最強の陰陽師、森へ行く


 紹介された宿は、なかなかの好物件だった。

 部屋割りでは少し揉めたものの……結局ぼくが一部屋使い、女性陣三人で少し大きな部屋をとる形で収まった。

 メイベルやイーファは、手持ちを考えて全員で大部屋一つとか、一部屋に二人ずつとかを主張していたが……さすがに勘弁してほしかったので却下した。ユキもいるし、見られたくない作業もあるし、それ以前にいくらなんでも気を遣う。


 翌日から、街を見回ったり必要な物を買いそろえたりしていると、約束の三日後はあっという間にやって来た。


「ここは彷徨いの森というダンジョンだ」


 隣を歩くロイドが説明する。


 ぼくたちはロイドのパーティと共に、朝方からこの森を進んでいた。

 ロイドのパーティは、前衛二人に後衛二人の四人構成。今は前衛にアミュとメイベル、後衛にぼくとイーファが入り、八人構成となって進んでいる。

 ロイド本人は、回復役として後衛に入り、ぼくの隣を歩いていた。どうやら前衛も後衛も補助もこなせる、万能な魔法剣士らしい。


 ここは駆け出しの冒険者向けの森で、今日は事故が起こらないよう助けながら、ぼくたちにいろいろ教えてくれることになっていた。


 ぼくは隣へ視線を向けながら訊ねる。


「ダンジョンというのは、地下にあるものだけを指すと思っていましたが」

「普通はそうだ。だが大抵の冒険者は、モンスターが出る森のこともそう呼ぶ。モンスターがまったく出ない、稼ぎにならない森と区別するためにね」


 ロイドは朗らかに続ける。


「この彷徨いの森は、分類としては南の山に属するダンジョンだ。街から近く、難易度が低いから初心者に向いているが、モンスターが少ないからあまり稼ぎはよくないな」

「南の山に属する……というのはどういう意味です?」

「ラカナの周辺にあるダンジョンは、大きく三つの区域に分けられる。北の山、南の山、東の山。この三つの山を中心に、それぞれモンスターの出る森や地下ダンジョンが広がっているんだ」

「へぇ……」

「君たちもこれからあちこちのダンジョンに行くと思うから、覚えておくといい。それぞれ少しずつ毛色が違うからね。ああ、ただ……北の山に属するダンジョンには、今は近寄らないでくれ」

「なぜです? 難易度が高いからですか?」

「いや、逆だ。十日ほど前から、モンスターがほとんど出現しなくなっているんだ」

「……」


 ロイドは、やや参ったように言う。


「こんなことは初めてでね。何が起こるかわからないから、一応今は等級の高いパーティー以外、立ち入りが禁止されている。北の山は元々効率の悪いダンジョンしかなかったおかげで、冒険者たちの稼ぎにそこまでの影響はないんだが……困ったものだよ」

「……そうなんですね。そういえばサイラス市長が、一部のダンジョンの難易度が上がっていると言っていたんですが……」

「ああ。南の山と東の山のダンジョンは、その代わりというのも変だが、出現モンスターの種類や数に変化があるようなんだ。ギルドも冒険者たちに、注意するよう呼びかけている」

「……なるほど」


 実は少々、思い当たるふしがないでもなかった。

 ただ今言っても仕方ないので、ぼくは黙って歩みを進める。


 ロイドは説明を続ける。


「話を戻すが、この森に出現するのは主にリビングメイル系のモンスターだ。リビングメイルというのは……つまり、ああいうのだ」


 ロイドが木々の先を指さす。そこに、二つの動く影があった。


 それらは古ぼけた、騎士の全身鎧に見えた。

 輝きの失せた金属をがしゃんがしゃんと鳴らしながら、覚束ない足取りで森を歩いている。

 人間でないことは、片方の兜が、中の頭ごとないことからすぐにわかった。


「彷徨う鎧、とも呼ばれる。このダンジョン名の由来だな」


 その時、二体のリビングメイルが、ぼくたちに気づいたようだった。

 覚束ない足取りはそのままに、驚くような速さでこちらに近づいてくる。転ばないのが不思議だった。


 ロイドは、顔色一つ変えずに話し続ける。


「リビングメイルは、見た目の通り硬い。特に、剣は相性が悪いな。だが……」


 ロイドのパーティーメンバーである前衛二人が、その時前に出た。

 筋骨隆々の女重戦士がハンマーを振り下ろすと、リビングメイルの一体を地面に叩き潰す。

 もう一体が振り上げた剣を、僧兵(モンク)の蹴りがへし折った。そのまま流れるように繰り出された掌打が、鎧を吹き飛ばし、樹に叩きつけてバラバラにする。


「と、このように打撃系の攻撃には弱い。魔法なら土属性がいいだろう」


 ロイドが平然と説明する。

 前衛二人も、余裕そうに談笑を交わしている。本当ならこんな低レベルダンジョンには来ないような、実力のある連中なんだろう。


 ぼくは呟く。


「なるほど。魔法の属性以外にも、モンスターには弱点と呼べるものがあると……」


 考えてみれば当たり前か。

 そういえば自分でも毒とか使ったし。


「でも、前衛が二人共打撃系とは変わったパーティーですね。それとも冒険者では珍しくないんですか?」

「いや、珍しいよ」


 ロイドが苦笑して言う。


「冒険者は、やっぱり剣を使う者の方が多い。それに打撃が効きにくいモンスターもいるから、バランスもよくないね。ただ……最初に行くならこのリビングメイルの森がいいと思ったから、二人には今日のために声をかけたんだ」

「今日のために……?」


 ぼくは首をかしげる。


「このパーティーは、あなたの普段のパーティーではないんですか?」

「うーん……なんというか」


 ロイドが困ったような顔をする。


「皆、私のパーティーメンバーであることは間違いない。ただ、この組み合わせは初めてだな。特に私自身は、もうダンジョンに潜ることがほとんどなくなってしまったからね。どうしても雑務に忙殺されてしまって……本当は、体を動かす方が好きなんだが」


 冒険者が雑務に忙殺……?


 疑問に思っていると、ロイドが上に目を向けて言う。


「そうそう。この森には、もちろんリビングメイル以外のモンスターだって出る。スライムやマンドレイク、それに……」


 その時、ロイドの傍らにいた弓手が弓を引いた。

 放たれた矢は、樹の上にいた猿型のモンスターを正確に貫き、射落とす。

 かなりの強弓だったようで、鏃は緑色の猿の背を抜けていた。


「こういうキラーエイプだね。あまり数はいないが、すばしっこくて危険だから他の森でも気をつけた方がいい」


 弓手はつまらなさそうな顔をしていて手柄を誇る様子もなく、ロイドも特に称賛したりしない。

 なかなかの腕だと思うのだが、彼らにとってはこの程度は当たり前のことなのだろう。


 と、そこで、ロイドが革手袋とナイフを取り出す。


「キラーエイプは毛皮と長い爪が素材になるが、正直大した値段では売れない。今日は、魔石を回収するだけにしよう」


 と言って、ロイドはおもむろに、ナイフで緑の猿の腹を割いた。

 心臓の近くにあった赤い石を革手袋で摘まみ取ると、死体が急激に干からびていく。


 血に濡れた石を軽く布で拭くと、ロイドはそれをぼくに見せた。


「これが魔石だ。モンスターによっては、このような石を体内に持つことがある。獣型のモンスターが多いかな。アストラルやスケルトンのようなモンスターにはほぼ見られない。それと同じキラーエイプでも、個体によってはなかったり、小さいこともある」

「これは、鉱物の魔石とは違うものですか?」

「一応、別の物だ。ただ魔道具の材料になったり儀式の触媒に使ったりと、用途はほぼ同じだね。だから同じく魔石と呼んでいる。専門家に言わせれば、細かな違いはあるのだろうが」

「なるほど」


 二枚貝から採れる真珠や、鯨から採れる竜涎香と似たものだと思えばいいだろうか。

 学園の講義で少し触れていたものの、こうして採取するところを見たのは初めてだった。


 ロイドはキラーエイプの魔石を革袋に仕舞うと、立ち上がって言う。


「さて、後衛の君たちには素材運びを手伝ってもらおうか」


 視線につられ前方を見ると、女重戦士と僧兵(モンク)が、動かなくなったリビングメイルの鎧を分解し、紐でまとめているところだった。二人の説明を、メイベルが興味深そうに聞いている。ただ初歩的なことなのか、アミュはどうも退屈そうだ。


「リビングメイルの鎧は金物を作る材料になる。この森で出るようなレベルの低いものだと質はあまりよくないが、それでもキラーエイプの爪よりはよほど高く売れるよ。背負えそうかい?」


 女重戦士が持ってきた二つの鎧を、ぼくとイーファで背負う。

 気功術のおかげで見かけ以上に力のあるぼくはもちろん、小さい頃から屋敷で洗濯や掃除をこなしていたイーファも、特に問題はなさそうだった。


「大丈夫そうだね。前衛の子二人の方がきっと力はあるんだろうが、動きを妨げるといけないからね」

「でもこれ、後衛二人で二個が限界なんですが……。この鎧二つで、冒険一回分の採算がとれるんですか?」

「四人パーティーの一日の食費に、ギリギリ足りるくらいかな」


 ロイドががっかりするようなことを言う。

 宿代ほか諸々を考えると完全に赤字だった。


「だから先に魔石を集めるとか、朝早くから何度も行くとか、何か工夫が必要になるね。手持ちがあるのなら、一番いいのはアイテムボックス持ちの運搬職(ポーター)を雇うことだ。リビングメイルを狩る時、余裕のあるパーティーはだいたいそうする」

「アイテムボックス? それに、運搬職(ポーター)とはなんですか?」

運搬職(ポーター)は、文字通り素材運び専門の冒険者だ。パーティーに属さず、フリーで仕事を請け負っている者も多い。アイテムボックスとは……一言で言えば、ここではない別の空間に、物品を収納することができる魔法だな。普通の魔法とは違う、特別な才能が必要な能力だが、これを持つ運搬職(ポーター)は普通のパーティーでは運びきれないほどの素材を運べる。もっとも、そういう者は戦力の面では役に立たないことが多いけどね」

「ほう!」


 ぼくは少し興味を持った。

 もしかしたら、この世界にも位相を開く魔法があるのか。


 前世ではだいたいの呪術体系にこの技術があったが、こちらに来てからは聞いたことがなかったし、学園でも習うことはなかった。しかし、話しぶりからするとそうとしか思えない。

 特別な才能が必要、というのがちょっと気になるが……。


 と、その時。

 歩みを進めるパーティーの前方に、またしても二体のリビングメイルが現れた。


「ちょうどいい。君たちの前衛二人で相手してみるかい?」

「……だ、そうだ。メイベル、アミュ」

「わかった」

「……はあ」


 素直にうなずくメイベルとは対照的に、アミュはめんどくさそうに溜息をつく。


「斧と剣では少し相性が悪いかもしれないが、動きは鈍いからあまり心配はいらないよ」

「いえ、別に心配はしてないですが」


 ずがんっ、という轟音が森に響き渡った。木々から鳥が飛び立っていく。

 見ると、メイベルが振り下ろした戦斧の先で、リビングメイルが真っ二つになっていた。


 戦斧を担ぎ直したメイベルが、首をかしげて言う。


「あんまり硬くなかった」


 唖然とするロイドのパーティーの前で、アミュが呆れたように言う。


「あんたねぇ。胴体二つにしたら運びにくくなるし、買い取り価格も下がるでしょーが。こういうのはもっと綺麗に倒すもんなのよ」

「む……じゃあ、アミュがやってみて」


 アミュは無言で残る一体に踏み込むと、ミスリルの杖剣を一閃する。

 胴の隙間から剣先を突き込まれたリビングメイルは、それだけで糸が切れたようにバラバラと崩れた。


 微かに光の灯った杖剣を、アミュが振る。


「こいつ、こう見えてもアンデッド系のモンスターなのよ。だから光属性を付与する支援魔法(バフ)とかで簡単に倒せるの」

「私、光属性使えない」

「あんたは武闘家の真似事もできるんだから、次からはぶん殴ったら?」


 二人のやり取りを見ていたロイドが、呆気にとられたように言う。


「いやすごいな……もしかして、余所で冒険者をやっていたのか?」

「アミュはそうですね。メイベルもまあ、そのようなものです」


 そこでふと、ぼくは樹上を見上げる。

 葉の茂る太い枝に、先ほどと同じ緑色の猿が現れていた。


「ところでまたキラーエイプがいるようですが、あれもこちらでやりますか?」

「倒せそうかい? ならやってみるといい。ダメでも助けてあげるよ」

「それじゃあ……イーファ」

「う、うん」


 イーファが、微かに視線を左右に振った。

 まるで、そこに浮かんでいる何かに目を向けたかのように。


 次の瞬間、宙空から一抱えもありそうな岩が撃ち出された。

 岩はキラーエイプに直撃。そのまま進路にある太い枝を何本もへし折って、空へすっ飛んでいく。

 少し経って、遠くの木々の間に岩が落ちるガサッ、という音が聞こえた。


 枝が落ち、やや明るくなった森の中で、イーファがはっとしたように言う。


「あっ、ご、ごめんなさいっ。これだと、素材が回収できないですよね……。火だと危ないから……次は水か、風属性にします」


 パーティーに沈黙が降りる中、ロイドが愕然としたように言う。


「今のは……まさか、森人(エルフ)の精霊魔法か? だが、見たところ半森人(ハーフエルフ)でもないようだが……」


 ラカナには亜人も多いためか、ロイドは森人(エルフ)の魔法について見知っているようだった。


 説明が面倒だったので、ぼくは外面だけの笑みを、呆然とする面々に向けて言う。


「まあ、この子にもいろいろありまして。あまり訊かないでもらえると助かります。それが、ラカナでのマナーでしたっけ?」

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