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第七話『拒絶する瞳』

 そうして周囲に集まった魔導技師の起動テストが一通り終わったのはそれから一時間ほどのことだ。

 いつの間にか周囲の観客席も空席が目立っていた。

 さすがに起動実験だけのテストは見ていて飽きるものがあったのだろう。

 だが、そんな中、イノリ=ヴァレンタインは終始カズキたちの様子を観客席から眺めていた。

 やっぱり気になるんだよな……

 彼女も生粋の魔導技師だ。

 フリーのテスト魔導士が近くにいて興味を抱かないわけがない。

 それにそもそも彼女に興味があるのはカズキとて同じ。

 出来れば今日にでも彼女の《魔導器》に触れてみたい。

 そしてこの機会は絶好のチャンスだった。

 カズキは口元にメガホンのように手を当てると、観客席にいるイノリに向かって声を大にして叫ぶ。


「おーい! ヴァレンタインさん!」

「……なんですか?」


 か細い声での返答は確かにカズキの耳に届いた。

 涼やかで凛とした声音は初めてその声を耳にしたカズキの奥深くに染み渡る。

 なんて綺麗な声なんだ……

 思わずその声に聞き惚れてしまう。

 外見も可愛い上に声も綺麗とはまさしく神の創りだした芸術品だ。

 カズキは声が自然に上ずるのを感じながらも努めて平静に言った。


「君も魔導技師なんだろ?」

「それが、なんです?」

「君の《魔導器》も触らせて――欲しい……かな……なんて?」


 だんだんとカズキの声から力が抜け、弱々しいものへと変わっていく。

 その顔からも笑顔という表情が抜け落ち、青ざめ、引きつった表情へと変貌していた。

 理由は単純。

 彼女の視線に怖じけついた。

 まるで害虫を見るような冷め切った視線が、

 無表情を通り越して寒気させ覚える冷酷な表情が、

 ハッキリとわかるほど拒絶のオーラを纏っていたのだ。


「あ、はは……」


 もはや苦笑しか浮かばない。

 それほどまでに――



 カズキとイノリとのファーストコンタクトは最悪だったのだから――







「どうして、私が、あなたごときに、テストを、頼まないといけないんですか?」


 一言一句ハッキリと告げられたその言葉には好意というものが一切ない。

 むしろ嫌悪に満ちたその言葉はカズキの繊細な心を深くえぐる。


(俺、何かしたのかな……?)


 そう思わずにはいられない彼女の辛辣な言葉を前にカズキはたじろぐ。


「えっと……それは……」


 答えようにも明確な答えをカズキはもっていなかった。

 このテスト実験は偶然の出来事で、しかも主催者は別の生徒だ。

 もしイノリがクラスメイトと仲が悪ければこの輪には加わりづらいのかもしれない。

 いや、それ以前の問題として、ここまで否定された上で自分の意見を押し通せるほどカズキ自身も我が強い方ではないのだ。

 そもそも人付き合いが苦手なカズキにしてみれば自分から声をかけることも頑張った方で……

 それでこの対応。

 普段のカズキなら金輪際彼女とは関わることはないだろう。

 だが――


『退学』『路頭に迷う』


 その負の言葉がカズキの心を支えてしまう。

 まだ、折れるなと。

 ここで折れたらお前の人生真っ暗だぞ。


 それでいいのか――?


 いいわけがない!


 戦いばかりの学院生活でカズキはまるでと言っていいほど一般常識を持ち合わせていない。

 これでは魔導士以外の職に就くことは到底叶わないだろう。

 せめて人並みの生活を送る――

 その為にはどうしても彼女の協力が必要なのだ。

 だからカズキは視線を泳がせながらも必死に言葉を紡ぐ。


「き、君に興味が、あるから?」

「はあ? いきなり告白とかちょっと気色悪いですけど」

「……」


 無理だ。

 心が折れる。

 彼女の言葉に決心は瓦解し、侮蔑の視線はカズキの膝を容赦なくたたき折る。

 その場に蹲ったカズキに周囲から同情の視線が向けられた。


(止めて! 俺をそんな目で見ないで!)


 一世一代の告白が玉砕した様を見せつけられ、言葉を濁したクラスメイト一同にカズキは死んだ魚のような視線を向ける。


「まあ……気にするなよ」


 グレイがカズキの肩に手を添え慰めるが返って逆効果だった。


(気にするよ。気色悪いって言われたんだぞ?)


 そう人生で何度も聞ける言葉じゃないって。

『戦闘科』時代、『死ね』だの『殺す』だの散々なケンカを売られたカズキでもさすがに『気色悪い』とまでは言われたことがなかった。

 暴力的な言葉より精神をえぐる言葉の方がダメージが大きいことを生まれて初めて知った気分だ。

 そう簡単に立ち直れそうにない。

 泣き崩れるカズキを見ていられなくなったのか、周囲にいたクラスメイトも混ざってカズキの心のケアに奔走しだす。


「本当に気にすることないって! 相手はあの『ゴミ溜め』のイノリよ? そんな子の《魔導器》なんて触ったって意味ないよ!」

「なぁ、さっきも言っていたけど、その『ゴミ溜め』って……」


 先ほども聞いた言葉。

 それが彼女を指し示すものだということは察していた。

 周囲のクラスメイトは目を見合わせコクリと頷く。クラスの代表としてカズキの目の前にいたグレイが意を決して口を開けようと――


「おい、何時までチンタラしてやがる?」


 した直前、突然の乱入者によって彼の意思は挫かれることになった。


ヒロインはツンが目立つ毒舌女の子でした!

デレる時は訪れるのか?



次回の更新は明日を予定しています。

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