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第二十九話『ヴァレンタインの怒り』

 カズキと正式は契約を結んで数日。

 イノリが痛いほど実感したのは『カズキという人間とは相性が悪い』というわかりきった事実だけだ。


(本当に、どうして私なんかに構うのかな?)


 編入して早々にイノリを口説きに来たカズキには嫌悪しか感じない。

 しかも魔導技師が手塩にかけて創り上げた《魔導器》を木っ端微塵に破壊した瞬間にカズキに対するイノリの評価は奈落など生ぬるい程に最低の評価を下していた。

 口ではグレイにキツい言葉を言ってしまったが、内心では《魔導器》を破壊されたグレイに少なからず同情していたのだ。

 もし、イノリがグレイと同じ立場で、《黒銀》を意味もなく破壊されれば同じく怒りで我を忘れていたかもしれない。

 魔導技師にとって制作した《魔導器》はまさに自分の子供同然だ。可愛い子供を塵にしたカズキにはイノリも怒りしか湧かない。

 それなのに、テスター? 自分に? どんな呪いだ……とイノリは思わずにはいられなかった。


(あ~あ、あんな約束しなければなぁ……)


 落胆と共に蘇るのはカズキが曲がりなりにも《グレイビル》を発動させた瞬間だった。

 ただ普通に魔力を流すだけでは絶対に起動しない《グレイビル》をカズキは確かに発動させた。



 イノリが魔改造を施しブレスレット型にした《グレイビル》――改造し終えた一ヶ月はイノリですら禄に魔術の発動が出来ず、魔術が使えるようになるまでは苦労したものだ。

《グレイビル》に施した魔改造――概念装備はそれ程までに強力で、生半可な力では起動しない。

 イノリの知る限り、苦なく発動出来るのは二アくらいだろう。(もっともその事実は二アが《イフクロック》を発動させてから知った事実だが……)


 だからこそ、カズキが《グレイビル》を発動出来るわけがないと高をくくり、らしくもない賭け事をしてしまった結果が――この様だ。



 イノリはカズキが嫌いだ。断言してもいい。

 彼の過去を察する事は出来るが、それが今の彼を許す材料にはなり得ない。

 熱意の欠片もなく、やる気がない瞳。魔導士を辞めて逃げたいと思っている情けない姿にイノリは吐き気がしそうだった。


『辞めたければ、辞めればいい』


 今でもそう思う。イノリだって魔族と戦うのは心底怖い。向けられる殺気に耐えきれず、泣き叫び、漏らす光景すら目に浮かぶ程だ。だからこそ前線で戦う『帝国魔導士団』には憧れるし、同時にその一部隊をまとめ上げていた祖父はイノリにとって正義のヒーローだった。

 だから祖父は大好きだ。逆に親は――特に父親は苦手だったりする。

 如何にもな商売気質溢れる父がイノリは苦手だったのだ。

 父の仕事が農夫などの仕事であれば忌避する事もなかった。だがイノリの家はこの国でも有数の《魔導器》を手がける財団。兵器を作る家の子だ。

 兵器が儲かるのはこの国が魔族と戦争をしているから。戦争がイノリを――この国を豊かにしてしまう要因にもなったのは皮肉な話だ。

 それでも父が、魔族との戦争を終わらせる為に《魔導器》を手がけているなら、イノリはそこまで実の父を嫌いにはならなかっただろう。


 だけど、現実は違った。


 父の手がける《魔導器》は安定性と安全面に特化した量産型の《魔導器》ばかりだった。

 一人でも多くの魔導士の命を助ける為の《魔導器》を制作する。

 言い方は綺麗だが、裏を返せばそれは、戦争の膠着状態を意味する物だった。


 命を守る一方で、生産性の高い父の《魔導器》には強力な魔術はない。

 それが戦争の膠着を生み、そしてその膠着こそが財団を大きくした要因なのだ――とイノリが知った時は涙を流し、絶叫したものだ。


 父は叔父のように戦争を終わらせる為に拳を振った人とは違う。戦争の利益に飛びつく守銭奴なのだと――金も亡者だと――誰よりもイノリ自身がよく知り、同時にその恩恵に甘やかされて生きてきた半生を強く忌避した。


 だからイノリは戦う道を選んだ。父に対する反逆とも言えるそれは『戦争の終止符』

 戦いを終わらす戦いだ。

 祖父の様な正義のヒーローになれずとも、その可能性を持つ人に最大限の手助けをする。


 イノリの野心の半分は人の命すら勘定に入れて兵器を量産する父に対する当てつけだ。


 その為に利用したのが唯一のアドバンテージであり、同時に強い憎しみを抱く《魔導器》だ。


 知識と魔力さえあれば誰でも造れるような学院の技師講座なんか眼中にない。

 イノリが求めるのはただ力――戦場をひっくり返すような一騎当千の――《零刻式》のような力を――それすらも超えた《魔導器》を創り上げること。



 それがイノリの戦いであり、戦争から逃げない理由だ。


 


 それがカズキに対し、余計な苛立ちを抱かせる要因ともなっている。


(どうして、こんな変態に《黒銀》を預けなきゃいけないのよ……)


 当初の予定ではそのままカズキを放り捨てる予定だった。

 屋上でイノリが折れたのはしつこいカズキに嫌気がさしたからに他ならない。


 屋上まで後をつけてきて、イノリを口説くその姿にどうしようもなく怒りがこみ上げた。

 お前はこの学院に何をしに来ているんだと、声を大にして叫びたい衝動を我慢出来た自分を褒めてやりたいくらいだ。


 イノリの心境など知る由もなく、自分勝手に口説き、終いには弁当を食べられる始末――(美味しいと言われて悪い気がしなかったのは完全に忘れ去っているイノリである)


 口で言ってもわからないなら――とこみ上げる怒りを能面で隠し、柔軟な対応をしてしまったのが裏目に出た。

 そのなれの果てが今の関係性を生み、これ以上なくイノリを苛出させる要因となっているのだから言葉も出ない。


 当然、断る事も出来た。約束などすっとぼけて反故にしても良かったのだ。


 イノリがそれをしなかった理由は、実のところ本人ですら自覚していない。

 推測する事は可能だ。助けを求めるようなカズキの視線に居たたまれなくなった。


 いわゆる彼の過去に対する同情が、カズキに《黒銀》を託す要因となったのだとイノリは勝手に思い込んでいたのだ。


(……どうして二アはアスカをたぶらかしたのかな? これは一度、詳しく話しを聞く必要がありそうだよ……)


 イノリは今、この場にいない親友の姿を思い出し、どう吐き出させてやろうか……と思考を巡らせる。


 一番、効率のいいやり方はもちろん――盛った二アの双丘を揉みしだき、喘ぐ二アに止めて欲しければ――と脅し文句を言うことだ。


(とは言え、あれ、私もダメージが来るんだよね……)


 豊かに実った二アと比較して――イノリは慎ましい方だった。

 二アの胸に自分にはない感触を覚えてしまい、涙ぐむが目に浮かぶ。

 けれど、ここは心を鬼にする場面だろう。


 二アが遠征に出て数日――二アと話せない期間が思いのほか長く、同時にカズキのお守りを任されてイノリのストレスは急上昇している。


 いい加減、二アに触れて、癒されないと胃に穴が開きそうだった。


(うん。多少、激しくても二アなら許してくれる……よね?)


 親友の心の広さにダイブする覚悟を決めたイノリの横で、体力を回復させたカズキが起き上がる。


「……お疲れ様です」

「あ、ああ……」


 形式的な挨拶を交わす二人。

 カズキはそのまま医療用魔導器に向かおうと踵を返す。

 疲れ切った背中を見つめ、イノリは焦燥感に駆られるように、冷たい言葉を投げかける。


「あれだけの大見得をきったんだから、早く私の期待を返して下さいね」

「……わかってるよ……」


 疲れ切って覇気のない言葉を返すカズキにイノリは盛大に眉を逆ハの字にした。


 その言葉にやる気はあれど覚悟が一切ない事を敏感に感じ取ったからだ。


(……《黒銀》のデータを取れるのはまだ先の事になりそう……だね)


 諦観のため息を吐き出し、イノリは思わずにはいられなかった――


《グレイビル》――その概念魔術を突破したのは本当にただのまぐれではないか? と――


ボツシーン ※あまりにもイノリがキャラ崩壊したためにボツにしたシーンです。


まだ、カズキにイノリの素顔を見せるのは早かった……




「足りない……」

「ど、どうしたんだよ、突然……」

「足りないんだよ、全然!」

「だから、何が!」

「二ア二ウムが!」

「ニ、ア二ウム……だと?」

「そうだよ! 胸を触るだけじゃ全然足りないよ! 髪に顔を押しつけてクンクンしたいし、体中触りたい! 洗いっこしたいんだよ! 二ア、二ア、二アあああああああ! 早く帰ってきてええええ!」

「……(どうしよう、ついていけねえ……)」


カズキにはまだ早い世界でした……


次回の更新は明日を予定しています!


活動報告でもキャラ紹介的なSSを乗せる予定なので是非ご覧になって下さい!

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