第二十五話『イノリの目標』
「君の武器が欠陥品?」
「ええ、そうですよ。何なら試してみます?」
イノリはカズキの手に収まっていたブレスレットを使ってみろと言いたげに見つめてくる。
カズキは半信半疑でブレスレットを腕に通し、近くにあった金属の山に手を向けた。
「《グレイビル》」
魔力を通し、魔導器を発動させるものの……
念動力が発動し、金属片が動く――――ことはなかった。
(あれ? おかしいな?)
いつも通りに魔力を注いだ。普段ならこれで魔術が発動するはずなのだが……
肝心の魔術が発動しない。
もしや、魔力不足?
そう思って先ほどより強めに魔力を込めてみるがやはり何も起きない。
どういうことだ? と首をひねるカズキにイノリは冷淡な視線を向けた。
「だから言ったでしょ? 欠陥品だって」
「いや、でも……」
確かにこの目で見た。アイリが魔術を発動させる瞬間を。
なら、これは魔力を込めるだけじゃない。何か別のアプローチが必要なのではないか?
「私のつくる魔導器は誰にも使えないんですよ。だからゴミばかりつくるゴミ溜めだなんて呼ばれるんです」
「……それは違うだろ?」
イノリの自嘲した囁きを確かな意思の元に断固否定する。
ポカンと間抜けな顔を覗かせ、カズキの言葉を理解しきれないのか、点になった瞳が戸惑うような色を見せる。
「……え?」
「君の技術はこの学院の誰よりも優れている――と思う。その君が作った魔導器が欠陥品のわけがない。ただ、俺のアプローチが違うだけなんだよ……」
そうだ。《零刻式》を解体出来る程の力を持つ彼女が評価されないなんてあり得ない。
二アの持つ懐中時計だってそうだ。副作用はあるかもしれないが、『平行世界に介入する力』は規格外の産物と言えるだろう。
(そういえば、二アが言っていたな)
イノリは魔導技師でありながら、魔導技師の講義を受けていないと。
その理由は、確か――
『求める技術が違うから』
「……君は、どんな《魔導器》を作ろうとしているんだ?」
「どんな、《魔導器》を、ですか?」
「ああ。《魔導器》には魔導技師の思いが詰まっている。俺はこの数日でそれを嫌ってくらいに体感した。技師の考えを聞かず、力を使ってもそれは本来の力じゃないから」
それは、カズキがグレイの《魔導器》を炎の鞭と知らずに剣として使ってしまった失態にある。
それに引き替え、対戦相手だったサツキは技師との呼吸がとれていた。
今ならわかるような気がする。
なぜ、サツキがカズキとの決闘に終止符を打たなかったのか。
簡単な話だ。サツキだけが『テスト魔導士』としてあの場に立っていたから。
自分がテストをする《魔導器》の性能を試し、そしてその欠点を見つめる為にカズキをいい踏み台にしたのだ。
サツキがカズキに《流乱》の欠点を聞いてきたのも、背後にいた魔導技師に《魔導器》の改良余地を伝える為に……
そして、カズキとの戦いを中断したのも、カズキが『テスト魔導士』の本分すら忘れ、ただ勝つ為に、《魔導器》破壊に手を出したから……
あの戦いで《魔導器》の性能テストをしていたのはその実、サツキだけだった。
カズキはただ単に『戦闘科』時代の名残で戦いに身を浸していただけ。そこに『魔導器の試作運用試験』をしているという自覚は微塵もなかった。
だからこそ、去り際のサツキの台詞が今では胸に深く刺さる物になっていたのだ。
(俺は、まだ何も分かっちゃいなかったんだ……)
《魔導器》を完成に導くのは『テスト魔導士』と『魔導技師』の息が合って初めて完成するのだ。
だからこそ、今度は間違わず、彼女の気持ちを知りたい。
「……随分と理解したようで」
「うん。殴られたかいがあったよ」
「バカですか? まあ、いいですよ。私の目標は――英雄の武器です」
「英雄の武器?」
「ええ、アスカはこの世界に英雄はいると思いますか?」
「いいや、思わない」
強い人は大勢いる。けど、英雄がいるか? と聞かれれば、いないと即答出来る。
けれど――逆に。
「魔王はいると思いますか?」
「思うよ」
魔王はいる。
魔族領を統治する存在。それが魔王だ。
圧倒的な力を持ち、全ての魔族の頂点に立つ存在だと聞かされている。
けれど、その魔王に対抗出来る人間はいない。
大勢で立ち向かえば、あるいは勝てるかもしれないが、その時は魔王の幹部とも同時に戦う必要がある。
そうなれば、現時点で魔王を倒すことは不可能だ。幹部ですらその実力は帝国魔導士団の隊長を上回っている。同時に魔王を相手取るなど無理な話だった。
もし、英雄と呼ばれる存在が魔王を討つ者をさすなら、今、この世界に英雄はいない。
「なら、アスカ、英雄に必要なものはなんですか?」
「必要なもの?」
「ええ。それが私の答えです。何が人を英雄にするか、私はそれをずっと考えていました。叡智? 力? 技? そのどれも現隊長は持っているはず。けれど、それでも英雄たり得ない。なら何が必要なのか――」
「その答えが《魔導器》なのか?」
「そうですよ。私が好きな物語に出てくる英雄のほとんどはその象徴となる武器を持っているんですよ。だから、私は世界を救う英雄の武器を作りたいって思っているんです」
それが答えだ。と言わんばかりに彼女は鼻を鳴らした。
アイリの言いたいことはなんとなくわかった。
わかるが、それは――《帝国式》を主流とする現代の魔導技師の考えから随分とかけ離れた目標とも言えるものだ。
「つまり、イノリの作ろうとしている武器は、大勢の『魔導士』に対してじゃなく、たった一人の『魔導士』の為に作ろうとしているのか?」
次回の更新は明日を予定しています!
ちょっと面倒な説明が続いていますが、次回はカズキの心の傷を深く抉る話となる予定です!
ぜひご覧になって下さい!




