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第十八話『根付いた悪夢』

 ――夢を、見た。



 それはカズキにとって、後悔の夢。悪夢。

 もう何度見たかわからない。

 見る度に胸が引き裂かれ、嗚咽に枕を濡らす――絶望の過去だ。


 どうして今頃になって……?


 虚ろな意識がその疑問に答えを出す。なんてことはなかった。

 きっと昼間の戦いが影響しているんだなぁ……と漠然と思いながら、夢だとわかっていても、目の前に現れた女性にカズキは外聞を気にしたそぶりも見せず、涙を流す。


 ――姉ちゃん。


 それは半年前の地獄だった――





「黒竜撃退か……」


 カズキは学院の掲示板に張り出された依頼内容を注意深く吟味していた。

『戦闘科』の生徒達が《クエストボード》と呼ぶ掲示板には国からの依頼が学院を通じてビッシリと張り出されている。

 種類は多種多様。護衛任務や国内に侵入した魔族の討伐――戦闘指南など依頼する人によってその内容も、ランク――すなわち難易度も変化する。


 カズキが徐にクエストボードから引きはがしたのは先ほど緊急発令された『黒竜の撃退任務』だった。



 魔族と人族の戦いは魔族領と人族領の境目が最前線だ。

『帝国魔導士団』と呼ばれる国からの認可を受けたエリート魔導士たちが陸海空の全ての境界線で魔族と激しい戦闘を繰り広げている。


 今回の依頼は『帝国魔導士団』に所属する空挺魔導士団隊長からの物だった。


 何でも、大量のドラゴンの襲撃に遭い、その内の一頭が国内に侵入してしまったのだ。

 種族は知能が高いと言われる竜種。だが、幸いな事に襲撃してきたドラゴンは竜種の中でも低級種族らしく理性がなく本能で行動する獣に近い存在らしい。


 潜伏先もすでに判明しており、後は部隊を編成して討伐に向かえばいいだけとのこと。


 カズキたち『学生魔導士』は後方で物資の護衛にあたるだけでいい。

 直接の戦闘は『帝国魔導士団』が行うので、実質『学生魔導士』は荷物番の扱いだ。


 それでも危険度は『SSランク』


 その理由は討伐相手が曲がりなりにも『竜種』だからだ。


 たった一頭であろうと国一つは容易く壊滅させるだけの力を持つ存在。

 むろん、『学生魔導士』程度では戦いにすらならず、『帝国魔導士団』であろうと一頭に対し数十人単位の集団規模で戦わないと討ち取ることが難しい相手だ。

 だからこそ異例の『SSランク』の依頼として学院側に通達された。


 参加必須の条件は主に二つ――


 一つ、単独で『Aランク』規模を達成出来る『学生魔導士』 または『帝国魔導士団』への入団が決定している『学生魔導士』


 二つ、『ヤガミ』の《帝国式魔導器》、または《零刻式》を装備のこと。


 以上だった。


 シンプルな内容だが、その必須条件を見るだけでいかに今回の依頼が危険極まりないものか判断出来る。


 ランクA相当をソロで達成出来る生徒ならそもそも魔導士団では席官と同程度の実力を備えている。

 さらに装備する《魔導器》は魔導士団で一番多く使用され、実績と信頼が厚い『ヤガミ』製の《魔導器》ときている。

『ヤガミ』の《魔導器》は《帝国式魔導器》と呼ばれるシリーズの中で、一番最初に開発された魔導器で開発者のヤガミは帝国魔導士団の八番隊隊長を務める人物。

 だからこそ、実際に魔族と戦った事で得た経験を踏まえて創られた『ヤガミ』の《魔導器》は他の《帝国式魔導器》とは次元の異なる性能を秘めている。


 カズキは参加資格に目を通しながら、口元をニヤリと吊り上げる。獰猛な笑みは周囲の温度を一段下げるほどの威圧感を放っていた。


「悪くないな」


 まさにうってつけの任務だ。

 ここしばらく暇つぶしがてら遊んでいたランクAとはわけが違う。

 文字通り、命がけ。魂を燃やし、命を代価に敵を倒すゲーム。

 カズキが求めていた戦いだ。


 欲を言えば荷物番などではなく、黒竜と戦わせろ。と言いたい気分だが、ついて行けるなら文句はなかった。


 戦場では何が起こるか分からない。


『うっかり』後方支援の『学生魔導士』が黒竜を退治してしまっても問題ないはず。


「ああ、そうだ。うっかり倒せばいいんだ。正当防衛とか言って……」


 すでにカズキの頭の中では黒竜をどのようにして倒すか――それだけを考えていた。

 もはや任務にある物資の護衛など眼中にない。


 倒す。殺して、滅して、跡形もなく破壊する――


 そうやって戦い、その上で圧勝する。

 そして、認めさせるんだ。


(俺だって姉ちゃんと肩を並べて戦えるって事を……)


 カズキの当時の実力はランクAを一人でも達成出来るほどの力だった。


 その力の源は内に秘めた膨大な魔力量にある。


 桁違いの魔力量はただ意思を持って放出するだけでも驚異。

 可視化されるほどの濃密な『魔力の光』は純粋なエネルギーの塊で、ただ放出するだけで破壊の力を、体に纏えば爆発的な推進の力が手に入る。

 ただの魔導士が同じように魔力を放出させたところで、カズキが無意識に垂れ流す魔力にすら遠く及ばない。その実、カズキの魔力エネルギーは『魔術』にすら匹敵する力だった。



 いや、それ以上とさえ言える。

 なにせ、『魔術』という奇蹟を具現化させる《魔導器》ですらカズキの圧倒的な魔力の前に砕け散ってしまうのだ。

 カズキの魔力は人間の域を超えている。もはやただ《魔導器》を動かすだけの精神エネルギーとは呼べない。『魔術』を超えた新しい何か――そう表現する方が正しくらいだ。


 そして、相棒の《魔導器》ですら《帝国式魔導器》とは一線を画する《魔導器》

 世界に十三機しかない《魔導器》――《零刻式》と呼ばれる《魔導器》だった。



 世界で初めて開発された《魔導器》であり、その性能は《帝国式》が霞むほど。

 たった一機で戦局を覆すほどの力を持ち、人族の切り札と謳われる《魔導器》――それが《零刻式》だ。

 さらにはカズキの全力の魔力放出に耐えられる唯一の《魔導器》であり、また、カズキが使う《魔導器》の能力はカズキの戦い方にこの上なく適した能力でもあった。


 規格外の膨大な魔力量――そしてそれに耐えられる強度と相性のいい魔術を持つ《魔導器》


 まさに最強。負ける姿など当時のカズキには想像すら出来なかった。




 ◆




 その自信を、慢心を、今でもカズキは強く、呪う。


 なぜなら……


『ランクSS』の――魔族と戦う本当の意味を正しく認識させることなく――


 魔導士としての覚悟――戦う覚悟すら持つ事を許さず――


 ただ力に溺れている事にさえ気付かせることなく――



 絶望に崩れ落ちるその日を迎える事になったのだから。



更新が遅くなってすみませんでした。

なんとかギリギリに投稿する事が出来ました。


次回の更新で、カズキが魔導士を止めたがっている理由が明らかとなります!


次回の更新は明日を予定しております!

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