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第十三話『治癒術師』

「……そうかな?」

「うん。最初は真面目な熱血タイプかな〜って思ってたんだ。朝の挨拶の時とかクラスでお話していた時は真面目そのものだけど、戦闘になると熱が入る人だなって」


 なんと……同じクラスメイトだったのか。

 言葉を交わした記憶が一切ない。

 そもそも今日は親睦もかねてクラス全員分の《魔導器》の起動実験を行ったばかりだ。

 彼女が『魔導技師』の一人であるなら挨拶くらいはしていそうなものだが……

 もしや、当てが外れたのだろうか?


「えっと、君は?」


 カズキは曖昧な表情を浮かべながら、彼女の名前を聞いた。


「あ、そういえば自己紹介がまだだったね。私は二ア=ノヴェンス。総合科で『治癒魔術』を専門にしているんだ」

「治癒、魔術? 専門ってことは《魔導器》に治癒能力があるのか?」

「うん。そうだよ。珍しいかもしれないけど、私の《魔導器》は治癒しか出来ないの」

「……ッ! マジ?」

「う、うん。一応……概念操作系の《魔導器》なんだけど……」

「……は?」


 その一言を聞いた瞬間、カズキは間の抜けた声を発した。呆けるカズキに困った表情を覗かせる二ア。彼女の向ける瞳からは騙すような気配は一切感じられず、それが余計にカズキを混乱させる要因となっていた。



 カズキの驚きも当然といえば当然だ。

 命に関わる傷すらも回復させる魔導士専用の医療用《魔導器》が実用化されて以来、治癒魔術師の数は減っていく一方だった。

 そして、現在、治癒術師と名乗る魔導士の大半は簡単な応急処置が出来る程度の実力しか持ち合わせていない。

 なぜなら、医療用《魔導器》に運び込めば、大抵の傷は完治出来てしまい、治癒術師に求められる技量が年々低下しているからだ。最低でも止血などの応急処置が出来れば十分だろう――という考えが一般的なものとなり、一個人が治癒に長けた――それも概念操作系の《魔導器》を持つなど珍しいことこの上ない。




《魔導器》はカズキやサツキが使ったように自然操作系が大半を占める。肉体強化など魔力そのものを高める能力もあるにはあるが魔族相手に人間の肉体を強化したところで手も足も出ないのでほとんど採用されていなかったりする。


 そして――《魔導器》にはもう一つの系統が存在するのだ。

 それこそが《魔導器》の中では最強の能力と目される――



 概念操作系だ。



 この概念操作系の《魔導器》は極端に数が少ない。

 制作の困難さ故に、まず市場に出回ることがない系統だ。

 自然操作が九割とすると残り一割が概念操作になる。



 概念は文字通り世界の断りを侵食する力。時空間を歪め、瞬時にテレポートする能力や新たな空間を作る能力などが該当する。


 世界を塗り替える力を持つ《魔導器》――それが概念操作系だ。



 つまり二アの持つ治癒魔術はその希有な中の一つ――ということになる。

 滅多に見たことが――カズキも実物の概念操作系の《魔導器》を目にしたことはない。



 なにせ治癒術師といってもカズキがこれまで見てきたのは自然操作の応用。水や氷で止血したり、炎で傷を焼いたりする魔術だ。

 今まで見た中で一番優れた治癒は血流を操作し、止血する魔術だろう。それも、自然操作系の魔術だ。

 概念操作系の《魔導器》を一度も見たことがなかったカズキは二アの持つ《魔導器》に興味を惹かれ初めていく。


「でも、全然上手く使えないんだよ……」


 そう言って苦笑する二アだがカズキはまだ驚きが隠せない。


 実際どんな《魔導器》なのだろうか?

 剣? 銃? それとも盾?


 カズキの好奇心に気付いたのか、困り顔を浮かべたまま二アは制服のポケットをまさぐる。

 取り出したのは白銀の懐中時計。

 白銀の縁取りにスペードのレリーフ。

 手の平に収まる時計の蓋を開けると中には文字盤と二本の針があるだけ。

 いや、それだけではなかった。

 文字盤の中心には煌々と輝く魔術炉らしきものが光りを放っている。

 これは確かに《魔導器》だ。

 だが、予想していた形状からはずいぶんと離れた形だった。

 まあ、《魔導器》の形は千差万別。その形一つ一つに驚いていたらいくら時間があっても足りないだろう。

 だが懐中時計とは……

 驚きと微妙な落胆が合い混ぜになった表情を浮かべつつ、カズキは二アに視線を向ける。


「これがノヴェンスさんの《魔導器》?」

「うん。そうだよ。あと、二アでいいよ。友達はみんなそう言うから」

「……」


 カズキにとって、誰かをファーストネームで呼ぶのはかなり勇気がいる行為だ。

 悲しいかな、ファーストネームで呼び合う友達は実のところいなかったりする……

 今のところ、カズキをファーストネームで呼ぶのはイクスやトーカなど、目上の人物だけだ。


 それに初対面でまだ二アとは友人といえるほどの仲ですらない。


「そ、それは流石に……」


 カズキが断ろうとすると二アはそっと首を横に振った。


「ううん。二アって呼んで欲しいな。これから仲良くなるお近づきの印だと思ってくれていいよ。それに……アスカ君に話しかけたのは個人的なお願いがあるからだし……」

「そう、なのか?」

「うん。だから変な遠慮なんてして欲しくないんだ。私がお願いしにくくなっちゃうよ」

「……」


 カズキは二アの話を聞いた後、数秒の内に整理する。

 二アは何か打算的な目的があってカズキに声をかけた。

 その目的は話を聞いてみないとわからないが、その話を聞く条件として彼女はカズキにファーストネームで呼ぶことを――彼女が口にした通りお近づきの印として提示したわけだ。


 この提案に何かデメリットはあるのだろうか?


 むろん、その理由次第では当初の目的が遠のく可能性がなくはない。だが――その可能性を含めても彼女の治癒魔術にはそれ以上の魅力がある。

 もう『魔導士』を辞めて久しいが、それでも戦場において『治癒』はまさに必要不可欠な存在だった。

 電撃で痛みを麻痺させるだけでも戦うことが――火で傷を塞ぐだけでも剣を握れる。『治癒』の重要性は元魔導士だったカズキはよく知っていた。

 もしもの時の為に彼女と仲良くなっておくのは悪くない。これはカズキにとっても価値のある取引だ。

 そう結論づけるとカズキは小さく咳払いをした後、


「そ、それじゃあよろしく頼むよ、二ア」


 そう口にしていたのだ。


次回、ニアの目的が明らかにッ!


彼女の目的がカズキにどのような出会いをもたらすのかーー乞うご期待!


次回の更新は明日を予定しています!

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