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真白に散る

作者: エリー

皆様初めましてか何度目かまして。エリーです。


昨日に続いて今日も投稿します。


凍りつく冬の風を思い浮かべながら読んでいただければ、と思います。

今から思い返せばあれが全ての始まりだった。


前日から12月並みの寒さになるだろうと予報されていた朝、日の届かない玄関で電気も付けずに、彼は何かを待つようにじっと立ちすくんでいた。ずっと前のクリスマスにあげた、毛羽立って糸の伸びきったマフラーを巻いて。

「なにしてるの」

ここで、「どこかに行くの」とか「そのマフラーどうしたの」とかじゃなくて、「何してるの」と言ったのは、そう考えると偶然にも的確だったわけだ。

とにかくそのわたしの声を聞いてあの人はゆっくりこちらを見て言った。

「ねえ」

それは、誰かに語りかけるための言葉であるのに、後の言葉は小さくしぼんで上手く聞き取れなかった。

僕と、と、そう言ったように思えたのは、きっとわたしの耳が甘えているせいだ。



人混みの多い環状線から乗り継いで乗り継いで、ようやくローカル線の普通列車でシートに座れた頃には、すっかり夜も更けて車窓には自分の顔がよく映るようになっていた。

LEDの群れが後方へ流れていくだけとなった街並みを眺めるのにも飽きて、わたしは窓から車内に目を戻した。彼は俯いて、ぴくりとも動かなかった。眠っているようだけれど、きっと違う。眠れるわけがないのだ。他の何よりも今が欲しくて、わたしたちはこうしてここにいるのだから。

「、ん。何?」

やっぱり。

視線に気付いたらしく、彼がすっと顔を上げて微笑んだ。

「ううん、眠ってるのかと思った」

だからわたしも思ってもないことを適当に言って彼に合わせて笑った。こんな時になってまで、考えていることと逆のことを口にするなんて、くだらないなと思う。

「もう少しで、県境をまたぐよ」

「でも、それって山の中なんでしょう」

「うん」

「じゃあ、トンネルからじゃどこが境目なのかわからないね」

「まあね、あやふやだね」

あやふや。意図したわけではないのだろうけど、その言葉に内心どきりとしてしまう。同じ決意を抱えているくせに大切なことを口にせずここまで来てしまったわたしたちを、まるで急かしているみたいではないか。

「まだかなあ」

「どうだろう」

隣を見る。

貴方が笑う。

目尻を下げて、顔中の輪郭を頼りなくさせて、貴方が笑う。

不安と恐怖、しかしそれと同量の幸せがわたしを満たしていく。それはきっと彼もそうで、わたしたちは今それが許される立場にあった。

「ねえ」

それは、誰かに語りかけるための言葉であるのに、後の言葉はのどにつかえてしまったかのように上手く出てこなかった。

「ねえ、わたしと――」

声が途切れる。代わりに涙が零れる。瞬きをする度に、ぽろぽろと目の端から溢れ出ていく。

あの日の彼と同じだ。もうそれに向かって走り出しているにも関わらず、はっきりと口にするのが恐ろしくて、それが余りにも情けないのだ。

涙を拭うように、彼がゆっくりとした動作でわたしを抱きしめた。

「ごめん。大丈夫、わかってるから。言わなくたって、大丈夫だから」

ごめんと大丈夫を何度も繰り返す彼の声は、揺れていた。紛れもなく、2月の夜の冷気のせいではなく。

わたしたちの抱えるものを、まるでお菓子を二つに割るみたいに簡単にはんぶんこできたらどんなにいいだろう。いや、それでも一番大切なことは何も変わらない。

どうやったってこんなこと、口に出せるわけがない。

わたしと一緒に、死んでほしい―――なんて。


音もなく涙を流すわたしたちを乗せたまま、列車はゆっくりと、ゆっくりと線路を辿る。遠くにそれを飲み込む黒ぐろとした山が見えていた。



山を超えて、県をまたいで、もっとずっと、先へ行こう。

そしてこの夜の終わりを告げる、朝日を二人で一緒に見よう。

それはきっと、綺麗だから。

この世で一番だって思えるくらい、本当に本当に綺麗だから。

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。


今回は心中がテーマということで、本来なら人の死が絡むようなお話はキーワードなどで注意をしておくべきなのだと思いますが、最初から分かった上で読んでしまうと面白くないなと思ったので、何も書かずに上げました。不快感を抱いた方、すみませんでした。


このお話では、好きな人と最期まで一緒にいられる幸福感と、死という未経験のものに対する絶対的な恐怖を織り交ぜて書くという目標がありました。


改めて文字にすると、まだまだですね。精進致します...。


長々と失礼しました。また次のお話も楽しんでもらえれば幸いです。


それでは、お話だけでなく後書きまでも読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!


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