3
「もー忙しいのに」
「ちょっと追い返してくれたらいいだけでしょ! 」
渋々と店に顔をだした大之助と由希。
抱きしめられて身動きがとれずにため息をこぼす甚一郎と嬉々として離そうとしない男の姿がある。
時折、甚一郎に口づけては満足そうな笑みを浮かべる。
「店でなにをしてんのさ」
大之助の呆れた声に甚一郎は目を輝かせた。 助け舟がきたと瞳で語る姿に大之助がため息をこぼす。
「助けてくれ。 こいつがさっきからしつこくてな…… 」
「どちら様ですか? 僕と彼の仲を引き裂こうとしているのは」
鼻息荒く問う男に大之助は疲れたと頭をひっかく。
「ここは俺の店、そしてそいつは俺の兄貴。 お前こそどちら様だ」
大之助の答えに男は瞳を輝かせると
「弟さん!? お兄さんをください!! 」
と告げた。
甚一郎のなにがよかったのかわからない大之助が呆れていると、うわっという声と共に肩に抱えられる甚一郎の姿があった。
「これから挙式をあげたいと思いますので! 日付が決まり次第、連絡を」
「誰がするか! 」
妖怪たちのやりとりに呆れて何も言えない大之助は由希にホウキをちょうだいと手で合図する。
店の奥へと取りに行った由希。 見送って大之助は妖怪たちを見やった。
「そいつを連れていかれたら困るから。 こっちに返せ」
「嫌です! 彼は私の運命なんですよ! 」
決して離そうとしない男に甚一郎はため息をこぼすと服のボタンを外し、胸元をはだけさせる。
男の顔は真っ赤になり、まだ早いとぼやいていたが甚一郎の体に浮かび上がった文様に目を見開いた。
三つの翼をもった黒猫が男を見つめているのだ。 時折、男を威嚇するように口を広げて牙をむきだしにする黒猫に男は声をつまらせた。
「悪いな、もう誰かのものなのさ」
甚一郎が文様を消すのと同時に由希が戻ってくる。 それを受け取った大之助は男がなにか言う前にホウキで男の腹部を殴りつけた。 痛みと苦しさに咳こんだ男から甚一郎を奪い取ると男を外へとつまみだす。
「二度とこの敷居をまたぐな」
それだけを告げて大之助は扉を閉めてしまった。 にゃあと鳴いてやってきた黒猫に目配せをすると黒猫は店からでていく。
最初は扉を叩く音が聞こえたが、すぐに聞こえなくなった。
「大丈夫ですか? 甚一郎さん」
「おう、由希悪かったな。 まさかあんな趣味のやつがいるなんて」
甚一郎の無事だけを確認すると大之助は台所へと戻っていく。
「ケーキを持っていってくるから、片付けと店番よろしくね」
それだけを告げて。
「なんか疲れましたね…… 」
「お疲れ…… 俺も疲れた」
揃ってため息をこぼした二人は店の中を片付けると、由希のどかしていたお菓子を並べた。




