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「それをお前が言うのか」

 大之助の爪が鋭く伸びている。 触れれば切れていまいそうだ。 

 その姿を見ていた弓弦の瞳に涙が浮かんでいる。

 怒気を孕んだ大之助の姿を甚一郎はまばたき一つせずに見つめている。 

「仕方ないことだったんだ。 お前に嫁をとり、子を成してもらわなければならない。 そのためならばなんだってしたさ」

「それが、弟の最愛を殺すことだってか! 」

 いまにも甚一郎の首に食らいついてしまいそうだ。 

 由希は思わず大之助の腕をつかんでいた。 それを振りほどこうとしない大之助。 おそらく目の前の兄しか目に入っておらず、由希の姿に気がついていないのだ。

「お前にはわからないだろ、あいつの声が。 どうだったあいつは? 容易だったろ、力で抑えつけるのは」

 大之助の言葉に甚一郎は舌を打つ。

 訳の分からない由希と弓弦は顔を見合わせる。 二つの獣がなにを話しているのか。 

「容易じゃなかったさ。 暴れて、泣いて、抵抗して。 傷をいくつもつくった。 なんとか足を開かせたが最後まで俺をにらみつけていた」

「元々気の強い男だったからな。 いきなり見たこともない男に襲われるから、当然だ」

 大之助の思い人。

 相手が女ではなく、男だということを知った。

 大之助たちになにがあったのか知らされていなかったのか弓弦はなにも知らないと首を左右に振る。 弓弦の瞳を見て由希は一瞬で理解した。 弓弦ではこの二人を止められない。

 そしてそれは由希にも言えたこと。 

「だがお前が手をだしていないとは思わなかった。 まさか、まだ手つかずのままとは思わずいささか乱暴に扱ってしまった」

 由希の体は振り払われ、大之助の腕は甚一郎の胸倉をつかんでいた。 

「だめだ、大之助さん! 」

 由希が叫ぶ。

「最後を教えてやろうか? 」

 いまにも食い殺さんばかりに息を荒げる弟の姿など気にしないように甚一郎は続ける。

「泣き叫んで、ずっとお前の名を呼んでいた。 何度も牙をむくから手が痛くなるまで殴りつけた。 中にも何度もぶちまけてやった。 最後は首を絞めてやった」

 由希が止める間もなく、大之助の拳が甚一郎の頬にめりこんでいた。

 部屋の壁に叩きつけられた甚一郎からくぐもった声が由希の耳に入る。 

「唯一の心残りはお前の刻印を消しきれなかったことだ。 あいつに刻んだ刻印をかき消して終わろうと思ったのに無理だった」

 起き上がる甚一郎の胸倉をもう一度つかんだ大之助。

 拳に力をこめる。


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