1
無数の目が墨の首にひしめきあっている。
それぞれが視線が合わず右に左にと動き回っている。 まるで生き物のようだ。
由希がつぶやいたと同時に目たちは由希を向く。
「触ってみてもいい? 」
と聞きながらも由希の手は墨につけられた刻印に触れていた。
それに墨が声をあげるのと由希の体が後ろに引かれたのは同時だった。 由希が振り返る前に口と目を塞がれて背中から叩きつけられる。
死ぬかもしれない。
せき止められた呼吸に由希は思った。 獣の息遣いが耳に聞こえる。
「私のものに手をだそうとは…… いい度胸だ」
ちらりと見えた視界に映るは無数の目玉。
充血した真っ赤な瞳が由希を見下ろしている。 殺される!
ごくり。 つばを飲みこんだ由希。
いまからこの獣に殺されるのだ。 恐怖を感じた由希の姿を瞳たちが見ている。
「やめろ、百目鬼! 由希だ! 」
墨の声が由希と目の前の瞳に聞こえた。
充血した瞳が通常のものへと戻っていく。
視界が開けた。
由希をいまにも食いつかんばかりに見下ろしていたのは刻印の持ち主である百目鬼。
思わずこぼれた由希の涙にあっと百目鬼は声をあげて由希を解放した。
「由希、大丈夫か? 」
由希を抱え起こした墨は己の懐に由希を押しこんだ。
あとからとめどなくぼろぼろと涙をこぼす由希の姿に百目鬼はおろおろと体をゆらす。 己の袖で由希の涙をぬぐう。
「悪かった、由希。 つい墨に手をだす不届きものかと思ってしまって」
百目鬼の言葉に由希は首を左右に振った。
由希の頭をなでた墨は懐から由希をだすと、そのころには泣き止んでいた由希の姿に百目鬼は安堵の息をもらす。
「悪かったな、百目鬼。 由希が刻印が見てみたいといったからみせていたんだ。 由希も説明不足で悪かった」
刻印のことを墨が口にする。
説明をきくとこの前、蒼の龍が言っていたことにほとんど変わりはない。 一つ、知らなかったのは。
「だいたいの奴は他人のつけた刻印に触れようとはしない。 触れればつけた相手にそのことが伝わる。 だから今回、百目鬼がすぐに飛んできたわけだ」
「由希は刻印が触れられるときってどんなときだと思う? 」
百目鬼の問いに由希は首をかしげる。
和也のときは刻印がついてすぐだったが、昂輝は違う。
「そもそも刻印をつけられた相手はそれを誰かにさらそうとはしない。 私はその刻印をつけたものの物ですと主張しているようなものだからな」
「でも夫婦でつける者もいるって」
由希と問いに百目鬼はうんとうなずく。




