迷惑なネコ
くらりとした。
いつも通り、仕事をする墨におやすみを伝えてベッドに入ったはず。 今日は天気がよかったから布団を干したと言っていた墨の言葉。 ベッドにもぐりこむと太陽のにおいがした。
すぐにうとうとし始め、気がつくと夢の中へ。 行ったはずだった。
ぎしりという音と共に胸が締めつけられた。 胸の上になにかが乗っている。 それに口を塞がれた。 由希の頬をなにかの爪がかする。
目を開くとカーテンの木漏れ日から由希の上に君臨するものの姿がうっすらと浮かび上がった。
黒い髪、黒い衣を着たなにか。 日に浮かび上がった黄色の瞳。
「お前のどこが」
そのなにかがつぶやく。 とんと耳に入ってきた男のそれよりも高いと感じる声で、そのなにかの性別を知る。 由希の口を塞ぐ反対の手で由希の首に触れる。 触れて、撫でて、爪をたてて。
首を引き裂かれるのではないか。 とっさにそう感じた由希はなにかの手に噛みついた。
「墨、助けて! 」
なにかが身を引いた一瞬の隙をついて由希は墨の名を呼んだ。 すぐに由希を黙らせようとしたなにかだったが、寝室の扉が開いたと同時に飛んできた墨の蹴りで由希の上から吹き飛んだ。
「俺の由希になにをしてやがんだ」
すぐに由希のすぐそばまできた墨は由希の無事を確認をすると、なにかをにらみつけた。 なにかは舌を打つと、窓から外へと駆けていく。
そのときに初めてそのなにかに黒い尾がついていたことに気がついた。
「由希、大丈夫か? 」
墨の言葉に安堵の息をもらしたと同時にぽつりと涙をこぼす。
「あのやろう」
墨がぽつりとつぶやいた。
墨は由希をベッドに寝かせるとその隣に入りこむ。 すぐに寝息が聞こえてきた己の息子を抱きしめて頭をなでた。
「由希、でかけるぞ」
朝一、由希が目を覚ますと墨はすぐに大之助のところにいこうと言った。 早くせかす墨に由希は急いで着替えると玄関を扉を開く墨を追っていく。
扉を開いたところで墨はなにかを見下ろしていた。 由希がその場にいくとにゃあという声が聞こえる。 店の看板娘である黒猫がちょこんと腰を下ろしてにゃあと鳴いている。
「家まで来るの、珍しい」
「俺たちが来るのがわかっているから、わざわざ迎えをよこしたんだろ」
墨の言葉に首を傾けた由希をよそに墨と黒猫は歩いていく。 家の鍵を閉めた由希は墨と黒猫を追いかけた。




