兄弟の仲
その日の大和。
珍しく兄である大之助に頼まれて店番。 あまり店番をすることのない大和は一人で楽しんでいた。 三つカラスは黒猫に連れ添ってでかけているため本当に一人。
もうすぐ由希が来るはずと思いつつ、大之助の作ったお菓子を補充していく。
「おいしそう」
そばに置いていたどら焼きを視界にいれて思わず店の入り口のほうへ視線を向ける。 どうせ大之助はいないのだから勝手に食べてもという邪心が生まれ、口の中へ。
たまたま栗の入ったどら焼きに当たりとつぶやく。
「なんで兄上はこんなにもおいしいお菓子を作れるのだろうか」
俺には無理だなと大和がつぶやいたとき、すみませんと声が聞こえた。 お客様の来訪で口に残っていたどら焼きを飲みこんだとき、口を塞がれる。 それはとても優しいとは程遠い、頬に爪を食いこまれていると錯覚してしまうほど強く痛くて大和は体を震わせた。
「よお、カラス」
大和に足払いをかけてその場に倒した獣。 それも一人ではなく、入り口のほうからあと二人が入ってくる。 彼らに共通しているのは皆一様に黒い猫の耳を生やし、その体にまとわりつく長く黒い尾。
声をもらそうにもがっちりと口をつかまれているため、一言も漏らすことができない。
暴れようにも腕、足、胴体をすべて抑えれて身動きをとることができず、己の上に存在している獣をにらみつけた。 それが気に食わないと大和の頭を殴りつける。
「ほら、脱げよカラス。 どのくらいでかくなったか見てやる」
上着のぼたんなど目にも入らず、獣は勢いよく引き裂いた。 暴れると再度、頭を殴られて抵抗を力で抑えられる。 その間にも服をはぎとられて背にしまわれていた翼を引っ張られた。
痛みに目を細めた大和をよそに獣はそれを力まかせに引っ張る。 その間にもほかの獣たちは大和の着ている服を引き裂いていく。
「耳と尾の代わりに翼だなんて」
翼に牙をつきたてた獣。 体全体に痛みの走った大和は瞳から涙をぼろりとこぼす。 それがおかしいと笑う獣はぎりりと牙をつきたてる。
「大和さん? 」
そんな拍子抜けした声が獣たちと大和の耳に入った。
「誰だ」
大和の上にいた男が聞こえた声のほうへ視線を向けた。
そこにはアルバイトをするためにやってきた由希がそこに立っている。 なにが起きているのか理解できていない由希だったが獣たちに抑えつけられている大和の姿にただごとではないことに気がついた。
「はは、人がいるなんて珍しい」
大和の上にいた獣は乾いた笑い声をもらすと、足元にいた獣にあごで合図を示す。 それを理解した獣は己の唇を舐めて不敵な笑みを浮かべて由希へと視線を向けた。
「ひっ」
由希が悲鳴をもらすのと獣が由希に襲いかかるのは同時だった。 逃げる間もなく捕まった由希の体を獣は床にたたきつけた。
「殺すなよ」
「わかってる」
由希の腹部に腰を下ろした獣はその頬に拳を振り下ろし、悲鳴をあげた由希を見下ろしてその衣服を引き裂いた。 涙をこぼした由希に興奮を抑えられない獣はその首に食らいつく。
嫌がる由希の姿を見させられていた大和は上にいた獣を自由になった足で蹴飛ばした。 バランスを崩した獣の腕から大和は解放されるとカァと鳴く。
「こいつ、三つカラスを呼びやがった」
急いで大和の口を塞いだが、三つカラスのほうが早かった。 鳴いた瞬間にカァという低い声をもらしながら大和の腕をおさえる男にくちばしをつきたてた。
悲鳴をあげて両手を振った獣を大和は蹴飛ばす。 すぐに上体を起こした大和はその足で由希のもとへ。 その光景を目の当たりにしていた男は由希から離れようとするも大和の蹴りを食らい、地面を滑るように転がってしまった。
「由希、大丈夫か」
かちかちと歯を鳴らして震える由希を抱きしめた大和。
大和にすがるように大和の腕を力強く握りしめる由希。 その頭を何度もなでる大和の右肩に三つカラスはとまりかぁとカラスとは似ても似つかない低い声で鳴いた。
「くそっ弱いくせに」
獣が吐き捨てた。
そのときになって由希は初めて大和を襲った獣たちの耳や尾の存在に気がつく。 一人ではなく、皆一様に持っているその存在になぜか身に覚えがあった。
黒い三角の耳に黒い尾。 由希の頭にここの主人である大之助のことが浮かび上がった。
「俺の店で、なにをしている」
そんなとき、三つカラスよりも低い声が店の中に響いた。




