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「残っているところといやぁ…… 」


 由希の手からお菓子を受け取ると男は由希のあごを持ち上げる。 目を細めた由希の唇に手を触れて、開いた唇に猫又は食らいつく。

 苦しいと猫又の腕を叩いた由希をよそに猫又は由希の頬を撫でて、さらに深々と押し入ってくる。

 逃げる舌を追い、絡みつかせてくる猫又のざらついたそれに由希は離れることもできずにただ受け入れるだけ。


「よっし、満足」


 足の力が抜けて、一人で立てなくなった由希の頭を何度かなでて大之助に由希を返した。

 

「あ、大之助。 もうまたたびクッキーを作らないのか? 」


 猫又は以前、店に置いていたまたたびクッキーのことを口にする。 猫又の問いかけに大之助はあれかとあまりやる気が起きないというようにため息交じりに目を背けた。


「あれはねぇ…… ま、作れたら作っておくから」

「頼むなぁ。 じゃあ、俺たちは帰るから。 邪魔したな」


 手を振って猫又たちは帰っていく。 やっと帰ったかと息をついた大之助は力の抜けた由希をそばに座らせた。

 猫の中を動き回っていた猫たちも猫又たちについていくように店からでていく。 最後の一匹がいなくなると黒猫はにゃあと鳴いて由希に身を擦りつけた。


「ごめんね、由希。 うるさかったでしょ」

「なんというか、すごいですね。 猫ばっかり」


 黒猫の体を撫でると黒猫はにゃあと鳴いて、由希を見つめた。 


「昔からの古い知り合いで、たまに店に来るんだ。 いつも来るのはいいけど、大量の猫を連れてくるのをやめてほしいと言ってんだけど、全然人の話を聞かないし」


 困ったとつぶやく大之助は由希を抱えると店の扉を閉めた。 もう誰も来ないだろうと大之助は鍵を閉めて店の奥へと抱えた由希ごと奥へと引っ込んでいく。

黒猫は、というとにゃあと鳴きながら二人のあとをついてくる。 その身を左右に揺らしてご機嫌だというように。


「やっと由希を独り占めできるってご機嫌になってる」


 大之助の言葉に、にゃあと鳴いた黒猫は由希の上に乗ってくる。 身を擦りよせて撫でてほしいと声にださずに態度で訴えて。


「お前は本当にかわいいな」


 頭、顎をなでていると黒猫は気持ちよさそうにごろごろと喉を鳴らす。

 居間に由希を下ろすと、大之助は台の上に置いたままにしていたお菓子の入った皿を由希の前に差しだした。


 食べてもいいと告げてお茶をとりに行った大之助を見送って、由希は腕の中にいた黒猫をそばに下ろす。 名残惜しそうに鳴く黒猫に少しだけとつぶやいた。


「そういえば、またたびクッキーってなんですか? 」


 両手にお茶の入った湯呑を持ってきた大之助に、由希は先ほどの猫又の言ったお菓子がなんなのかと問う。

 由希が働き始めたころにはそんなクッキーはなかったと思って、由希は疑問に思っていた。 腰を下ろした大之助は黒猫を呼んだ。 にゃあと鳴いた黒猫は大之助のあぐらを組んだ足の上に飛び乗り、丸くなった。


「猫の好きなまたたびが入ったクッキーなんだけど、いろいろとあって作るのをやめちゃったんだよね。 あれは大変なことになる」


 当時のことを思い出したかのように身を震わせた大之助は首を左右に振った。 


「ま、今度作ってあげる」


 お菓子を食べながら、楽しみだと由希は笑った。 


 大之助のお菓子が食べられると楽しみに身を左右に振る由希をよそに、どうしたのものかと悩む大之助の姿があった。



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