日常
「ありがとうございました」
久方ぶりのいつもの日常だった。
最近は大之助の周りで色々なことがあり、店自体を再開出来たのは本当に久々で。
店の中に並べられたお菓子の数々を眺めながら由希は思った。 お菓子からただよう甘い香りは店いっぱいに広がり、由希の鼻をくすぐっていく。
一つくらい食べてもバレないのではないか? そんな邪な言葉が頭の中で何度も呼応して、由希は首を左右に振った。
そんなことをすれば大之助にどんな罰を与えられるかわかったものではない。
大人しくしておくか、と由希がため息をこぼしているとすみませんという声が聞こえた。
気がつくとお客様がいて、由希は驚いた。 足音もたてずにやってきたお客様は手にいっぱいのお菓子を由希に手渡す。
受け取ったそれを袋に入れて代金と交換した由希。 お客様は人である由希を見て、驚いたとつぶやき
「少し、触れてもいいですか? 」
そう由希に尋ねた。
いままで勝手に触れてくる者たちばかりだった由希にとってはとても新鮮で。 なんとなく恥ずかしくなる。
「ど、どうぞ」
言葉が震えた。
お客様は由希の頭に触れ、頬に触れ、額に口づけると頭を下げる。 名残惜しそうに離した手を何度も握りしめながらお客様は去っていく。
人がほとんどいない世界で生きる由希のことを珍しいという者も多い。
初めて出会った者は必ずと言っていいほど、驚いてしまう。 こちらの意見など聞かずに触れることを強要されて。
その度に由希はげんなりしていた。
せめてきれいな女性の方だったらまだいいのにとため息をこぼす。
「由希、これもだしてて」
店の奥からお菓子を両手に抱えた大之助がやってきた。
由希にお菓子を手渡すと、あとはなにかお菓子が減っていないかを確認して由希の頭を撫でて店の奥に戻っていく。
いつも大之助の周りをうろうろしている黒猫はというと日向ぼっこをするために屋根に上り、そこからまだ帰ってきていない。
「なんで毎回、頭を撫でていくんだろ」
ぶつくさと文句をいいながら由希は渡されたお菓子を店の中に設置していく。 空いていた場所を埋めるように飾りつけたお菓子たち。
飾りつけに満足したのか由希はふん、と誰に聞かれるでもなく鼻から息を吐き出した。
「失礼します、兄上」
そんな声が聞こえた。 声の主はわかっている。
大之助の末弟である大和だ。 先ほどまで空を飛んでいたのか翼を丁寧に折りたたんでいる姿がある。
大和の体よりも何倍も大きい翼をどうやって折りたたんでいるのか気になってはいるものの、聞くほどではないかといつも聞かずに結局理由はわからないでいる。




