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思わず由希は目を疑った。
右を見ても左を見ても子烏、それに烏天狗の赤ん坊たち。 それを必死であやしている大人の烏天狗。
ガラガラを右手に左手に餌をあげるためのお箸。
「あ、どうも! 噂はうかがっています、由希さんですね」
大人の烏天狗が由希に対して会釈するも胸に抱かれている烏天狗の子どもが鳴き声をあげたため、すぐに視線を胸元に戻した。
「噂って…… 」
「由希っていう人のアルバイトがいるって話してたの」
なるほど、と思う由希の手に大之助は箸を持たせた。
ん? と首をかしげる由希の反対の手に小さなバケツ。 その中でうごめく幼虫たちに由希はひっと声をもらす。 声をもらす由希を確認した大之助はかあと鳴く。
鳴いたと同時に家の中を飛び回っていた小烏たちが由希の目の間に一列に並んだ。
「それを一匹ずつ烏たちの口に放りこんでやって。 もらったら後ろに勝手に並ぶように言い聞かせているから」
ぴぃと鳴きながら口を大きく開ける小烏たちに由希は幼虫をつかもうとするもうごめく幼虫たちをつかむことができず、どうしたものかと箸を滑らせているとかぁと鳴く小烏たちが由希を囲んでいた。
「うわっ」
手に持っていた幼虫に群がってきた小烏たちに由希は埋もれていく。
「なかなかつかみにくいからねぇ」
大之助の言葉が由希の耳に入ることはなかった。
ぴいと鳴く小烏たちの声しか耳に入ることはなく、右を見ても左を見ても鳴き声をもらす黒い赤ん坊たちの姿にため息をこぼす。
手に持っていた幼虫の容器は小烏たちの強襲にあい、宙を舞い、由希の頭に直撃した。
ざぁと体に降り注いだ幼虫たちに由希は声にならない悲鳴をあげる。 そんな姿をまるで近所のおばちゃんのようにあららとこぼす大之助。
「うわっ虫が…… ちょっつつかないで」
我先にと小烏たちが由希についた幼虫たちを狙う。 ところどころつつかれて痛いと由希がこぼしたと同時に体を抱え上げられた。
「大丈夫? 」
烏天狗の子どもを抱えた大之助に助けられた由希は安堵の息をもらした。 残念そうにぴいとなく小烏たちだったが由希から落ちた幼虫を見つけると我先に飛びかかっていく。
「落ちたの食べてるだろうから、由希は外で虫を落としておいで」
大之助の言葉と共に服の中でうごめく幼虫に由希は何度もうなずいた。 店の裏口まで駆け足できた由希は急いで上着を脱ぎ捨てる。 上着を振ると中から何匹もの幼虫がでて、地面に落ちていく。
落ちていった幼虫たちは我先にと地面を這っていくが、途中で鳥に捕まる幼虫もいた。
「災難だったなぁ…… 」
早く戻ろうともう一度だけ上着を振り上げたとき、その腕をなにかにつかまれた。




