烏まみれ(虫の表現有)
暑い、暑い、暑い。
セミが鳴く。
体から吹き出る汗に今年の夏もきついなと由希はため息をこぼした。
毎年この季節になると暑くて仕方なくなる世界に嫌気がさす。
早く涼しくなればいいのに。
そんなことを思いながら店に入ると、ぎゃーという声とかぁという声とにゃあという声が聞こえたとともに店の奥にある扉ががたがたと小刻みに震えた。
誰かいるのだろうかと由希が店の扉を閉じたと同時にはじけんばかりに店の奥の扉が開かれ、数羽の小さな烏が飛び出してきた。
「えっ、なに、烏!? どういうことこれ、うわっ」
数羽飛んできた小烏たちが一度、由希にぶつかるとすぐにかぁと鳴きながら店の中を右往左往に動き回り、棚にあるお菓子をこぼして、皿を数枚ひっくり返して割れる音が響いた。
「あ、皿が」
「由希、頭を下げてて」
大之助の言葉に由希は頭を下げると手に網をもった大之助は飛び回る小烏たちを網であっという間に捕まえた。 まとめて捕まえた大之助の胸元には小さい烏天狗、背中にも同じくらいの烏天狗。 ともにおしゃぶりをくわえた二匹は少しだけ由希と目が合った。
「全く、元気すぎるのも考えものだ」
疲れたとため息をこぼす大之助は店の奥の扉を開くと網につかまえていた小烏たちを家の中へと放った。 ばさばさと翼を羽ばたかせながらかぁと鳴く小烏たちの姿に大之助はやれやれと言わんばかりに網を投げ捨てると由希のところに戻ってくる。
「ごめんね、いま烏たちでごった返しているからさ。 もう、店はできないかな」
うなだれる大之助はくずる烏天狗の子どもをなだめる。 普段はみないそんな大之助の姿に由希は思わずふき出してしまった。
そんな由希の思っていることがわかるのか大之助は口をへの字に曲げて顔をそむけた。
「ごめんなさい。 普段見ない光景だったから、つい」
「珍しく今年は赤子がたくさん出来た日でさ、実家がごった返してんの。 烏だけじゃなく、烏天狗もいっぱい生まれたもんだからてんやわんやでね」
皿を片付ける大之助に袋を持っていく由希。
散らばってしまったお菓子や割れた皿を片付けながら、大之助はもう一度ため息ひとつ。
「烏天狗って子育ては一族みんなでするものって考えでさ。 産みの親以外に育て親ってのもいるんだ。 んで育児するんだけど、あまりの多さに産みの親も育ての親もダウンしちゃって。 とりあえず今日一日預かってくれって言われてね」
袋にまとめた大之助は入口の鍵を閉めると、奥の扉に手をかけ、一度息を吐き出して、勢いよく開いた。




