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森をかきわけた先にある大之助の駄菓子屋。 今日は開いておらず、がらんとした店の前でさあどうしようかと由希が首をかしげたとき後ろから声をかけられた。

「誰かと思ったら由希だ」

手にお菓子の材料を抱えた大之助が立っていた。 何個もの袋を抱えた大之助は器用に店の扉を開くと、由希を招き入れる。

普段は色とりどりのお菓子たちが並ぶ大之助の店先がなにもなく、少し寂しく感じた。

「付喪神の逆鱗ってなんですか? 」

やれやれと荷物を下ろす大之助にお茶をいれた由希は居間に腰を下ろした。

 今日は黒猫がいないのかにゃあという声も聞こえず、静寂。

そのなかで荷物を冷蔵庫に片付ける大之助の音だけがこだまして響いている。

「逆鱗ねぇ…… 」

片付け終えた大之助は由希の待つ居間にやってくるとお茶をすすった。

「由希って墨の本体って見たことある? 」

本体と言われて、最初はなんのことかわかっていなかった由希だったが墨が付喪神ということであぁと手を打った。

「筆のこと? 1度だけ見せてもらいました」

「うん。 あれって普段は付喪神たちの体内に入っているんだ。 人で言うなら心臓みたいなものだね。 壊されないように大事にしまいこんでいるんだけど、それを運悪く触れられたんじゃない? 」

ここにしまっているんだ。

とついこないだ鏡の付喪神が見せてくれたことは記憶に新しい。 胸元からとりだしたそれを大事そうに抱えていたことを由希は覚えている。

「なにかダメなんですか? 」

由希の問いかけに大之助はうーんと声をもらすと由希をそばに引き寄せた。

首をかしげる由希の胸元に触れた大之助はうん、と1人で納得の声をもらす。

「もし渡した相手に壊されでもしたらいくら体が無事でも死にかねない。 由希という大事な存在もいる墨にとっては特別ね、死ぬわけにはいかない」

「あれ、墨のことっていいましたっけ? 」

「由希の周りの付喪神といえば墨でしょ」

大之助の問いかけに納得、と由希は理解した。

たしかに心臓を触られるなんてたまったものではない。

「それを勝手に触られたから墨は怒ったんじゃない? 」

おおかた触ったのは百目鬼だろうけど、とぼやく大之助にその通りと由希は心の中で手を打った。

「筆ってたしか持ち主だった男の名前が刻まれているんじゃなかったっけ? それに触れられると墨は怒るけどね」

「なんで怒るんでしょうか? 」

「恥ずかしいんじゃない。 なによりも敬愛していた持ち主のことを語るわけだから」

そういえば聞いていないと由希は思い出す。

たぶん、由希が聞けば教えてくれると思いつつも本人が言わないなら聞かなくていいことなのかもしれない。

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