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「あの」

「人って初めて見ました。 とても柔らかいですね」

笑顔のまま妖怪は続ける。 由希をその場に立たせた妖怪はその腰を抱き寄せ、頬に口づけひとつ。

耳元に唇を寄せて、柔らかいとつぶやく。 由希が身震いを示すと妖怪は笑った。

「あなたはいくらですか? 」

由希が欲しいと。 背筋が凍るようなぞくりとした寒気に由希は離れようとするも妖怪が逃がそうとはしない。

「すみませんが、僕は売っていないです」

「そうおっしゃらずに」

 由希の腰を撫でながら額に口づける。 妖怪の胸を押す由希の姿を見下ろしながら己の唇を舐めた。 

 食われると頭の中で木霊する言葉に由希の表情が引きつっていると妖怪はそれを抱え上げる。 声をあげた由希に妖怪はどこへいこうかと考えているとその肩に手を置かれた。

「うちの従業員にどんな用事でしょうか? 」

 いつの間にか戻ってきた昂輝が妖怪の肩に手を置いている。 妖怪から由希を奪いとった昂輝は由希を背中を隠した。

「申し訳ございませんが、従業員に手を出すのはやめていただけますか」

 由希を椅子に座らせた昂輝は妖怪に対して頭を下げた。 

 ぴょこりと主張する昂輝の犬耳に口角をあげた妖怪はそれに触れる。 びくりと体を震わせた昂輝に気分を良くした妖怪は昂輝の顔をあげた。

「なるほど、犬神か。 もうすでに絶滅したと聞いていたが生き残りがいたとは…… あなたならどうですか? 」

 目を細めた昂輝の頬をなで、瞳を覗き見る妖怪に昂輝は顔を歪めそうになるのを止めた。 面倒くさいことになる前に、と昂輝はにっこりと笑みを浮かべて妖怪の手に触れる。

「そうですね…… ここでは」

 昂輝の返答に妖怪は気分を良くする。 男の腕に己の腕を絡ませた昂輝は妖怪に先を促す昂輝は由希に対して手を振った。 大丈夫だろうかと心配する由希をよそに店からでていった昂輝を見送っていたが数分もせずに昂輝は戻ってくる。

 乱れた服を整えながら戻ってきた昂輝はなにごともなかったかのように由希の隣にある椅子に腰を下ろした。

「あの、あの妖怪は? 」

「あぁ…… 面倒くさいから適当に沈めてきてやった。 あんな気持ち悪ぃやつを誰が相手にするかっての」

 やれやれとため息をこぼす昂輝に恐ろしいなぁと思いつつも由希は口にしなかった。

「大和さんは? 」

 大和と言われて思い出した昂輝はちっと舌打ちをこぼすとトイレのほうを指さす。 どういうことと首をかしげる由希の頭をなでた昂輝。 

「いらっとしたからトイレでコンボをかましてきた。 そのうち復活するだろ」

 息を吐きだす昂輝に由希は思わず身を震わせた。

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