解説 〔第二回〕
メイキング オブ 「現代の怪談」〔2〕
~時が全てを変えてしまう~
☆第二のヒーロー・閨川守☆
本話の最大の見所は、麻咲に次ぐヒーロー・閨川守の登場だ。
実は、拙作「メーソンの野望」に既に登場しているので、再登場ということになる。
「現代の怪談」のシリーズ全体を貫く最大のテーマ。
それは、一言で言えば「現代と伝統の対立」である。
閨川は、その「現代」サイドの代表である。
今回も閨川は、化け蛙の正体について、あれやこれやと哲学的な分析を試み、一つの解釈を得る。
だが、正体が解ったからと言って勝ったことにはならない。
自然の驚異は常に人智を超えているものだ。
閨川は、化け蛙に強かにやられてしまう。
「超人」麻咲イチロウが現れなければ、閨川は敵を取り逃していたことだろう。
閨川のもう一つの役割は、「人間らしいヒーロー」である。
麻咲は「完全無欠のスーパーヒーロー」だから、寧ろ、怪奇現象と同じ超自然サイドの存在だ。
それに対して、閨川は、ときには情にも流される、等身大のヒーローなのだ。
次の第三話から本筋の物語が始まるが、これはヒーロー目線のドラマとなる。
読者の目を、そのヒーロー目線に重ね合わせるために、彼は不可欠な登場人物なのである。
☆人は変わってしまう☆
「現代と伝統の対立」というテーマを、グッと我々の日常に引き寄せたのが、「時が変えてしまったもの」に対する「在りし日への郷愁」という本話のテーマだ。
久し振りに古い親友と会ってみたら、すっかり変わってしまっていた・・・といった経験を、多くの方がお持ちだろう。この世に変わらないものなどないから、それは当然なのだ。
だから誰にでも、望まぬ形に豹変してしまう可能性はある。
北村のように。
島田は、自分自身が変わってしまったことを知っているから、北村の激変を赦し、抱きしめることができた。
しかし、本当に赦されるべきなのは、実は島田自身であったのだ。
その役目には、強く優しいヒーロー・麻咲を措いて他にいまい。
人を赦すことができてこそ、真のヒーローだと私は信じている。
☆なぜペン回しなのか?☆
最後に、なぜ麻咲の武器がペン回しなのかについて触れておこう。
本当は第一話の解説で触れたかったのだが、一輪車「ネオ辰砂」と併せて解説したかったので、今回に回した。
「ペンは剣より強し」という箴言があるように、ペンとは文化の象徴である。
そのペンを使うときに、軽くクルクルっと回すというのは、文人の一種のアクセサリだと私は考えている。
ガンマンが銃を収めるときに回したり、ドラマーが空いている手でピックを回したりするのと同じである。
武力と言うのは、本来人間臭いものである。
「武力的でない戦闘シーン」という矛盾したイメージを実現するために、私が考え付いた武器こそ、麻咲の代名詞たる「武道ペン回し」なのだ。
となると、ペン回しを武器とするヒーローに相応しい追加戦力も、やはり当たり前の兵器であってはならない。
私は、麻咲のモチーフを「曲芸」に統一することにし、ペン回しと同じく回転運動する、フラフープと一輪車を候補に挙げた。
そして結局、移動手段にもなる一輪車を選んだのだ。
因みに、「辰砂」とは、朱色の天然顔料の名前であり、彼の称号「竜血旋士」の「竜血」もまた、辰砂の別名だ。麻咲のイメージ・カラーを表しているのである。