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現代の怪談―The Contemporary Kaidan―  作者: 坂本小見山
13.''Tai Yin, Part II'' 「史上最低の怪奇現象」
38/42

第十三話・後半

(十二)

 先程の雷撃で、アジトは大破した。天井は破られ、雨が炎を悉く消した。


 一瞬意識を失っていた部員たちが目を開けると、黒煙の中に、人影が認められた。


 黒煙が雨に掻き消され、現れた姿は、道明寺のものであった。しかし、それは道明寺ではなかった。


 額には、桃色の目玉シールが貼られていた。

「A pa Musubinusi ni.

(我は太陰怪獣である。)」

 彼の口が、古代の言語でそう言った。

 それを聞いて、皆は歓声を上げた。


 部員の一人が駆け寄り、同じ言語で呼びかけた。

「Pazimaitai mamiyai. Wa pa…

(初めてにお目にかかります。我々は・・・)」

「シ・・・シツテヲル。メダマシールヲトホシテ、スベテミテヲツタ。ヨクゾ、ワレヲヨミガヘラセタ。」

 そう言われ、その部員は笑みを浮かべた。

 が、そのとき。太陰怪獣となった道明寺の両手が、部員の首を掴み、持ち上げた。

「た、太陰怪獣様・・・!」

「ワガ、マツタキヨミガヘリノタメノ、イシズヱトナルガヨイ・・・。」

 太陰怪獣は、ニヤリと笑んだ。

「ギヤーッ!」

 部員の肉体は、太陰怪獣の両腕から吸収された。


 他の五人は、ことここに至って初めて、自分たちが目覚めさせたものの恐ろしさに気付いた。

 彼らは逃走を図ったが、太陰怪獣の背中から五本の桃色の触手が伸び、それぞれが五人の体を突き刺した。五人は、瞬く間に太陰怪獣に吸収されてしまった。



 太陰怪獣は舌なめずりをした。

「ヒトノ・・・人の命など、我にとっては、おもちゃに過ぎぬわ!」

 六人を食らった太陰怪獣の発音は、先程よりも現代語に近付いていた。



(十三)

 一方、大島は、病院を抜け出し、雨に濡れながら、行く当てもなく街を彷徨っていた。


 呆然自失の彼女の右腕に、衝撃が与えられた。彼女は転倒し、その痛みが俄かに彼女の意識を鮮明にした。

 そこは、高架道路の上であった。前方に、逃げるように走り去る原付バイクが見えた。さっきの衝撃は、バイクに掠られたものだったのだ。


 道路は急な上り坂になっていた。

 彼女は振り向いた。すると、雨中の街が一望できる程に高みに達していた。彼女は、手摺から身を乗り出し、下を見た。遥か下方に、民家が並び、道路は泥を含んだ雨水で汚れていた。

 彼女は思った。あれは闇だ、と。


 彼女は、全てに疲れていた。どれだけ闇を非難しても、その非難そのものを曲解され、冒涜されてしまう。どれだけ闇に染まらぬように努めても、自分の命は、もとより闇によって生み出されたものなのだ。


 それならいっそ、闇の世界で永遠に眠り続ける方が楽かもしれない。その観念が、彼女の胸を支配した。



 遥か前方から、二台のバイクが迫って来ていた。閨川の白いアメリカン・バイクと、園の半透明のオフロードであった。

 二人は、大島の存在に気付いた。彼女は、今にも飛び降りようとしていたのである。


 二人はアクセルを踏み、急いだ。距離は見る見る縮まった。しかし、二人の到着を待たずに、彼女の体は人形のように力なく手摺の向こうに投げ出されてしまった。



 彼女の体は宙を舞った。もう少し待てば、一瞬の苦痛が訪れ、それを超えれば楽になれる。そう思ったときだった。


 彼女に、何者かが飛び付いた。彼女の体は空中で回転し、やがて軽い衝撃と共に、地面に投げ出された。



 目を開けると、彼女は、高架下の荒地で、泥まみれになっていた。横には、水溜りに浸かった、もっと泥まみれの男がいた。麻咲であった。


 彼女は、頭上に鳴り響く車の轟音に抗うように、大声で叫んだ。

「何にも知らないくせに、邪魔しないで!」

「死は如何なる意味でも救いにならない。命あってこそ、自分で自分を救えるんだ!」

「命なんて、汚らわしいわ!父さんと母さんの、欲望の結晶なのよ!」

「ああ、そうだろう!だが、人間の心までは穢れていない!」

「人間の心だって、欲望に穢れてるのよ。あなただってその筈よ!」

「黙れーっ!」

 麻咲は咆哮を上げ、掴みかかった。そして、拳を握り締め、殴ろうとした。だが、彼の理性が、震える拳を繋ぎ止めた。


 麻咲は、大島を放した。大島は、一旦背けた顔を麻咲に向けた。

 麻咲は、息を乱しながら言った。

「小さい頃、俺の目の前で姉が暴漢に乱暴されたんだ!」

 それを言ったとき、麻咲は、軽い眩暈に襲われた。一線を越えて秘密を告白したことによる「開放感」と「羞恥心」とが、彼の精神の糸を一瞬切ったのだ。


 大島は、初めて麻咲の言葉に耳を傾けた。

 麻咲の秘密は、堰を切ったように彼の口から滔々と流れ出た。

「楽しかった兄弟のピクニックが、地獄に変わった。俺は押さえつけられ、何もできなかった。全てが終わり、やっと開放された俺は、助けを呼びに、家に帰った。家には母しかいなかったから、俺は母の部屋に行った。そこで、俺は、見ちゃいけないものを見てしまったんだ・・・。」


 麻咲は我に返り、俯き、顔を覆った。だが、それがそのまま大島への教訓になることに気付き、俯いたまま話し続けた。

「姉を傷つけた悪と同じ悪を、母も具えていたと知ったとき、俺は、その悪が自分を産んだんだと気付いた。だから俺は、心を大切にしようと決めた。自分の心も、他者の心も。これだけは、守るに値すると信じた。信じるしかなかった!闇を否定し続け、光に生きるために・・・!」



 麻咲は顔を上げた。瞳は、羞恥心に抗うように、鋭く光っていた。

「お前も闇を拒絶するんだ!闇を、決して受け容れるな!」


 彼は、冷静を取り戻したとき、後方にいる閨川と園に気付いた。

「聴いていたのか。」

「ああ・・・、すまない。」

 麻咲は、溢れ出んとする羞恥に抗おうとして、フッと笑って見せた。

 しかし、羞恥は理性の堤防を破り、溢れ出た。麻咲は地を何発も殴りつけた。

「畜生!畜生ーっ!」

 泥水に、彼の拳から流れ出た血が滲んだ。


 そのとき、彼の肩に手が掛けられた。大島の手であった。

「それはあなたの本当の姿じゃないでしょう!」

 その言葉は、いかにも、麻咲の心を救うために用意された言葉だった。彼のこの乱れに乱れた姿を否定することで、大島は、彼の自尊心と理性とを、見事に一致させたのだ。


 麻咲は暫く嗚咽を漏らしていたが、やがて徐に大島の方に振り向いて言った。

「すまない・・・。もう・・・大丈夫だ。」



 折しも、閨川と園の無線に連絡が入った。市内で、怪物と化した道明寺が暴れているということだった。


 麻咲は言った。

「道明寺の肉体を依り代にして、太陰怪獣が復活したんだ。」

 それを聴いて、二人は慄然とした。



 麻咲は立ち上がった。

「俺は太陰怪獣と戦うよ。プライドを捨てて。」

 そう言って振り向いた顔には、悲しげな微笑みが浮かべられていた。


 そう言うと、彼の下半身が一瞬光に包まれ、次の瞬間、彼は一輪車「ネオ辰砂」に跨っていた。


 驚く大島に、麻咲は背を向けたまま言った。

「俺の姉は、その後、自ら死を選んでしまった。そのとき俺は知った。人が命を絶てば、一つの世界が喪われてしまうと。その人の目に映る世界がだ。だから・・・」

 麻咲は大島を顧みた。そして言ったのだ。


 「生きてくれ、世界のために!」


 麻咲は前を向き、ペダルを踏み込み、凄まじい速さで道路を走って行った。



(十四)

 街中を、人々は雨に濡れながら逃げ惑っていた。


 逃げ惑う人々の胴を、桃色の触手が貫き、瞬く間に吸収してしまった。


 太陰怪獣は、空中を浮遊しながら、背中から伸びる無数の触手で、人間を欲しいままに食い荒らしていた。



 特殊課の刑事達が、拳銃で狙撃したが、その銃弾までも吸収してしまった。

「銃弾は、尊厳ある生命を侵害するもの。これもまた、わが力の一部である!」


 刑事たちに、触手が迫った。


 そのとき、ペンが回りながら飛来し、触手を切断した。太陰怪獣は呻き、地に落ちた。


 旋回したペンを受け取ったのは、一輪車に跨った麻咲だった。

「このペンまで貴様の力の一部ではないだろう。ペンは、人間が文化を紡ぐために発明したものだ。」

 麻咲はそう言ってペンを構えた。


 太陰怪獣は立ち上がり、ニヤリと笑んだ。

「やるな。さすがはライフに選ばれたる者だ。」

「ほう、そこまで知っているのか。」

「だが、未だライフと一体化しておらぬ汝など、やはりわが敵ではないわ。」

 そう言って、太陰怪獣は再び背から触手を放った。


 麻咲はペダルを踏み込んだ。そして、ペンを回して触手を払い除けながら、太陰怪獣の本体に迫った。

 麻咲はペンを持つ右手を頭の後ろまで引き、ペンを回しながら太陰怪獣に打ち込んだ。

 突如、太陰怪獣の姿が視界から消えた。次の瞬間、太陰怪獣の脚が下方から現れた。太陰怪獣は瞬時に身を屈め、回し蹴りを放ったのだ。

 麻咲はそれと気付くと同時にかわしたが、太陰怪獣の攻撃は彼の顔を直撃した。ばきっと鈍い音がし、麻咲は顔から血を飛散させて吹き飛んだ。



 一輪車は弾き飛ばされ、空中で姿を消した。

 麻咲は、辛くも着地し、鼻血と雨水に塗れた顔を上げた。


 太陰怪獣もまた麻咲のペン回しを避け損じ、七メートルほど吹き飛ばされていた。



 そこに、二台のバイクが到着した。閨川と園だった。急いで駆け付けたと見えて、雨具すら身に付けていなかった。

 二人は、麻咲に駆け寄った。


 太陰怪獣は、不敵な笑みを浮かべながら立ち上がった。

「なかなかやるな。だが、我が完全に復活すれば、貴様などわが敵ではない!」


 閨川が叫んだ。

「太陰怪獣!貴様の目的は何なんだ!多くの人命を奪って完全復活を果たし、どうするつもりなんだ!」

 太陰怪獣は、閨川に答える代わりに、麻咲に言った。

「麻咲よ。汝は我の正体に気付いておるのだろう?」

「古代人によって封印された、聖と俗の『俗』の化身だろう?」

「もっと具体的なことだ。我が何を象徴するものなのか、汝はとっくに気付いておろう。」

 麻咲は押し黙った。

 閨川と園が、麻咲の顔を見た。

「ククク・・・言えぬか。なら言ってやろう。我は・・・、人類の『性欲』の化身だ!」


 閨川と園は、顔を引き攣らせた。麻咲は、恐怖とも嫌悪とも付かない面持ちを呈していた。

「我が消えれば、人類は滅ぶ。だから、古代人どもは我を倒さず、封印したのだ。わが目的はただ一つ。全ての美しきもの、清きものを穢すことだ。わが真の名は、『太陰怪獣・セックス』である!」


 太陰怪獣は、麻咲を見据えて、不敵に言い放った。

「暴漢を通して味わった汝の姉の味は美味であったぞ。」


 それを聞いたとき、麻咲の表情は、明確に「憎悪」の形に決定された。

「やかましい!黙りやがれーっ!」

 麻咲はペン回しを、投げつけるように放った。だが、太陰怪獣は姿を消してしまった。

 太陰怪獣の声だけが、どこからともなく聞こえてきた。

「『太陽聖鳥・ライフ』となって、我に挑むがよい。そのときまで、汝の命は預けておく。」



 麻咲は、フッと力を失って倒れこんだ。二人は慌てて助け起こした。


 麻咲は、閨川の肩に掴まり、再び立ち上がった。そして言った。

「俺には何も残っちゃいない。プライドも、美意識も、アイデンティティも。今の俺がすべきことはただ一つだ。」


 麻咲は、自力で立ち、片足を引き摺って歩き出した。そのとき、雨は俄かに止み、雲間から光が漏れた。

 麻咲は、閨川の方を振り向き、言った。

「太陰怪獣をぶち殺す・・・。」



(十五)

 麻咲は、寝屋川市の、例の神社のある雑木林に来た。そのとき、雨は俄かに止んだ。


 閨川と園も、一言も喋らずに付いてきた。

 参道と拝殿とを区切る注連縄の下に、例の神主が立っていた。

「決心が付いた。」

「あなたは最初から、ライフと一体化する運命だったのです。」

「運命なんぞどうだっていい。俺は奴を倒したいんだ。」


 そのとき、閨川が始めて声を発した。

「誰と話しているんだ?」

「誰って、この男だ。」

 麻咲は、そう言って再び神主の方を見た。そこには誰もいなかった。


 麻咲はすぐに、全てを悟った。

「そうか。あの男は、ライフの魂だったんだ。」

「そのライフというのは何者なんだ?」

「太陰怪獣と対を成す怪獣だ。古代、二者が戦ったそうだ。お前たちの身の回りに起こった数々の奇跡も、すべてライフの力だ。」

 二人はそれを聞いて驚いた。



 麻咲は本殿へと進み、扉を開いた。そこには、儀式の装束が揃えられていた。


 麻咲は、早速儀式の準備を始めた。



(十六)

 儀式の準備が整ったとき、日は既に暮れていた。

 麻咲は、銀色の衣を纏い、赤い勾玉の首飾りを掛け、銀色の簡素な冠を被っていた。


 閨川が、声を掛けた。

「念のため、特殊課の課員たちを警護に付けた。いつでも始められるぞ。」

「ありがとう。では、儀式を始める。林の外に出ていてくれ。」

 言われて、閨川は去って行った。



 麻咲は、ライフの石像と対峙し、ペンを取り出した。

 そして、ペンを回し始めた。ペンは、複雑な軌道を描きながら、右手と左手の指を縦横無尽に回った。それは、ペンと人とが一体となって舞う神楽のようであった。


 彼は古代語の呪文を唱え始めた。それは、まるで知っていたかのように、口から自然に出てきたのだ。



 ・・・

Kakë maku mö kasikoki, Inötinusi mikötö tö ipi tatëmaturu sirokane nö akëpiziritöri.

Wötötu yö ni namudi ga apisi, Musubinusi usuakëirö nö magakamï nö samasarë t‘aru wo utarë taku, a ga kiyoki tupamönö nare ba, tama yori mönö ni nari tamapi, tuki tamapu bëku, ikupe nimö kasikomi tutu mö mawosi samorapu.

 ・・・



 麻咲の額に、赤い目玉シールが現れた。それは、他の目玉シールとは「気配」が全く違った。

 これまでのシールは、邪悪な気配を常に纏っていた。しかし、この赤いシールは清らかさを帯びていたのだ。


 やがて、石像は白銀の光を放った。そして、麻咲の体も、同じく光り輝き始めた。


 麻咲は、ペンを石像に突き出し、親指の上で高速で回転させた。

「太陽・・・変身!」

 石像と麻咲の放つ光は融け合い、二者は一体化し始めた。



 そのときだった。

 外から喧騒音が聞こえてきた。銃弾さえ聞こえた。


 閨川の声が飛んで来た。

「イチロウ、一旦中止しろ!幽霊兵団が責めて来たぞ!」



(十七)

 特殊刑事たちは、拝殿の近くで、攻め込んでくる無数の幽霊兵団を食い止めていた。


 そこに、新たに多くの特殊刑事たちが加勢した。彼らの顔を見て、閨川は驚いた。

「君たちは!」

「お久し振りです。新交野署から来ました。」

「こっちは東京の特殊課です。」

 園が、敵どもと戦いながら訊いた。

「管轄はどうしたの。」

「川添署長の計らいです。」

「有り難いわ!」


 こうして形勢は逆転し、幽霊兵団は撃退された。



 閨川は、本殿に駆けつけた。麻咲を呼んだが、返事は返って来なかった。


 彼は扉を開けた。そして、言葉を失った。



 ・・・ライフの石像が、木っ端微塵に砕けていたのだ。

 太陰怪獣に対抗する、究極の手段が失われたのだ!



 閨川は、ハッと気付いた。

 麻咲がいない。


 閨川は本殿から出ると、月明かりを頼りに、麻咲を探した。

「イチロウ!どこだ、イチロウ!」



 彼は振り返った。するとそこに、傷だらけの麻咲が立っていた。

 閨川はそれを見て、ほっと胸を撫で下ろした。

「心配したぞ。てっきり・・・」



 麻咲は、口を開けた。

 閨川は、麻咲が何か言うものと思っていた。しかし、それは裏切られた。


 麻咲の口から、血液が溢れ出た。

 そして、倒れた。


 麻咲の背後には、太陰怪獣が立っていた。

 太陰怪獣は、嗤いながら、麻咲の体を蹴飛ばした。

 その拍子に、麻咲が握り締めていたペンが、閨川の足元に転がり出た。それは、あの罅のところから、真っ二つに折れていた。



 麻咲の体は、人形のように動かず、目は、開いたまま閉じなかった。


 そうである。我らの英雄、ペンスピナー・麻咲イチロウは・・・殺されたのだ。



 太陰怪獣は言った。

「ハアッハッハッハアッ!我が本気で敵に猶予を与えるとでも思ったか!」



 閨川は、手刀を構えて、太陰怪獣に飛び掛った。

「風よ、奴を切り裂け!」

 彼の手が竜巻を帯びた。太陰怪獣は跳び上がってそれをかわし、閨川に蹴りを放った。


 閨川は地に叩き落された。駆け付けた園里香が、閨川を助け起こした。


 太陰怪獣は言った。

「希望を持たせて、それを踏みにじる。これぞ陵辱!これぞ、史上最低の怪奇現象!我はこの力で、完全復活を遂げるのだ!」

 すると、額の桃色のシールが、光を発した。

「太陰変身!」

 太陰怪獣の背から無数の触手が飛び出、自身の全身を包み込み、巨大化し始めた。


 園は、手負いの閨川に代わって麻咲の遺体を背負い、共に退却した。太陰怪獣が巨大化するにつれ、周囲の草木は邪気に毒されて枯れた。



 園たちが雑木林を抜け出し、振り向くと、三日月に照らされた、巨大な肌色の立方体の姿が見えた。


 これこそは、完全なる復活を遂げた太陰怪獣の姿なのだ!



 ライフが破壊され、麻咲が敗北した今、日本の未来は、特殊課の双肩に掛かっていた。


 以後永く続くことになる、地獄の戦争の幕開けであった。



 第十三話・完

2016/10/23公開(起筆日不詳)

2024/01/27文章手直し(セリフ以外)




 ―――次話PR―――

 麻咲の死から三年後。人類は、太陰怪獣に完敗した。


 「平和なものね」

 ――園は言った。


 「人間はこの原罪によって産み落とされ、

 やがて自らの内にも同じ原罪を育てるのだ」

 ――変わり果てた閨川は言った。


 「ちょっと、お巡りさん、気をつけて下さいよ」

 ――ある通行人は言った。


 果たして人類は、死中に活を得られるのか?

 悲劇が完結する、最終話「破滅の果てに」。

 園よ、川添よ、閨川よ・・・。もういい。立ち上がるな!

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