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現代の怪談―The Contemporary Kaidan―  作者: 坂本小見山
01.''The Horrible Spiral'' 「通り魔の怪」
3/42

解説 〔第一回〕

メイキング オブ 「現代の怪談」〔1〕

~シリーズの方向性を決する、記念すべき第一話~



 「現代の怪談」の計画を練り始めたのは、二〇一五年の春、前作「メーソンの野望」が完成した直後である。

つまり、構想に丸一年掛かった訳だ。

丸一年かけて、シリーズ全体の計画を隅々まで完成させ、満を持して執筆したこの第一話には、シリーズのエッセンスが不断に盛り込まれている。



☆シリーズのコンセプト☆

 私が目指したのは、「スーパーヒーローの出てくる怪談」である。

それも、「王道ヒーロー」と「本格的な怪談」だ。


 近年、妖怪や幽霊とは名ばかりのキャラクターが多く見られる。

それはそれで、「妖怪や幽霊をモチーフとした別物」として割り切ればよいのかもしれないが、私が表現したかったものはそれではない。

「本格的な怪談」を目指す以上、あくまで生粋の「怪奇現象」を描いていねばならないのだ。


 そしてそれは、「得体の知り得ない恐怖」である。

「万物は神の理性の許に解明され得る」と信じている西洋諸国と違い、絶対的な神を立てない我々日本の民は、こういう「得体の知れなさ」を感じ取るセンスを伝統的に発展させてきたのではないか。

だからこそ、この国に「怪談」という独特のホラーが根付いたのだと私は考えている。



☆英題"The Contemporary Kaidan"について☆

 なぜmodernではなく、contemporaryなのか。

modernという語は、「古代」や「中世」のような、特定の時代としての「現代」を指す。

それに対しcontemporaryは、語っている時点での現代を指す語である。

「過去のものとなってしまいつつある怪談を、我々と同時代の、生きている怪談として復活させる」という願いを込めて、敢えて後者を選んだのだ。


 次に、kaidanについて。

私は、怪談の定義を「人間の『念』をセンシティヴに描くホラー」と考えている。

そこで当初、怪談の訳語として"spiritual episode"を想定した。

spiritには、「精神」と「亡霊」の二つの意味があるので、ぴったりだと思ったのだ。

ところが、試しに"The Contemporary Spiritual Episodes"としてみたところ、冗長すぎて、肝心のメイン・タイトル「現代の怪談」が目立たなくなってしまった。

そこで、已む無くkaidanにしたのだ。


 とにかく、"Horror"という言葉だけは避けたかった。

この言葉は網羅的過ぎるのだ。

早い話が、ゾンビやパニック映画だってホラーである。

だから、日本でも、怪談以外のホラーを作ろうと思えば作れるのだ。

(それなのに少ないのは、怪談好きの日本人の性ゆえか。)

逆に、海外にも怪談はある。

イギリスの小説をアメリカで映画化した「P.S.アイラヴユー」は、完全に怪談の類型に当て嵌まると思っている。

更に、敬愛する稲川淳二氏の「数学書のあとがき」という話も、ドイツが舞台でありながら、列記とした「怪談」である。

(まったく関係ない上に個人的な話だが、私はその話に出てくる、主人公の母親が大嫌いだ。戦後の困窮期だということを考えても、あの仕打ちはあんまりだ。)



☆現代アレンジ版『通り悪魔の怪異』☆

 第一話の原作は、知る人ぞ知る、江戸時代後期のエッセイ集「世事百談」(山崎美成)の四巻に収録されている「通り悪魔の怪異」である。

現在では、「日本随筆大成」(吉川弘文館)などで読むことができる。

このほか、便利な時代になったもので、インターネットでも読めるようだ。(これに関しては末尾に詳述する。)


 内容は、ある武士の前に、人を発狂させて殺人鬼に変える妖怪「通り悪魔」が現れたが、武士は平常心を保つことでこれを撃退した、というものだ。

この話の教訓は、「心の乱れが身を滅ぼす」ということである。


 現代アレンジにあたり、私はこの妖怪の正体を「通り悪魔に憑依された人間に殺された人の霊」と設定した。そうすることで、原作のテーマがよりクッキリとするのだ。

「心の乱れが身を滅ぼし、更に次の通り悪魔を生み出し、次の人の身を滅ぼし・・・」という、心の乱れの連鎖を生み出すという訳だ。

(だから、英題が"The Horrible Spiral"なのである。)


 今回の主役の中嶋は、過去の夢に囚われ、前を向くことが出来ず、自分の首を絞めている男である。

ここにも、「心の乱れの連鎖」というテーマを反映させたのだ。


 かくて、私は原作に類例のない解釈を加えて新生させた。

原作はエッセイだから、ともすればこれが「初の」小説化であるかも知れない。



☆麻咲イチロウについて☆

 さて、このシリーズの多くの話に登場するヒーロー・「麻咲イチロウ」について解説しよう。


 私が描きたかったのは、「黄金バット」や「月光仮面」のような、「とにかく強いヒーロー」である。

出て来ただけで、それまでの怖さが吹き飛び、代わってカタルシスがもたらされるような、デウス・エクス・マキナ的なヒーローを作りたかった。


 私は、麻咲から、人間臭さを殺ぎ落とした。

強さと優しさだけを具えた「超人」として描きたかったからだ。

それと同時に、彼を高飛車で尊大な性格に設定した。

普通、私を含めて弱い人間にとって、不遜は欠点である。

しかし、麻咲は完璧な人間だから、これでいいのだ。


 戦闘スタイルも、「武道ペン回し」以外は、飛び上がったり、敵の攻撃をひらりとかわしたりはするだけで、パンチやキックといった「人間臭い」攻撃はさせないようにし、麻咲が「浮世離れしたヒーロー」に見えるように工夫した。


 これらの演出が成功しているかどうかは、読者それぞれの好みによって分かれるかもしれない。

だが、少なくとも私が読者の立場なら、このスーパーヒーローを好んでいるだろう。

そう言う意味で、私は麻咲というキャラクターを「成功」と見做している。



☆麻咲イチロウの弱点☆

 麻咲イチロウは、「弱点のない人間」として設定されている。

だが、見方を変えれば「弱点がないこと」が弱点だとも言えるだろう。

このことが後の物語に深く関わることになることを予告して、記念すべき第一回目の解説の結びとしよう。



参考:【世事百談】

http://base1.nijl.ac.jp/iview/Frame.jsp?DB_ID=G0003917KTM&C_CODE=0056-15001&IMG_SIZE=&PROC_TYPE=null&SHOMEI=%E3%80%90%E4%B8%96%E4%BA%8B%E7%99%BE%E8%AB%87%E3%80%91&REQUEST_MARK=null&OWNER=null&IMG_NO=139

「通り悪魔の怪異」は一三九頁から。

(活字がお好みの読者諸兄には、図書館などで「日本随筆大成 第1期 第18巻」で読まれることをお勧めする。)

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