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現代の怪談―The Contemporary Kaidan―  作者: 坂本小見山
08.''The End of Kaidan, Part I'' 「最終決戦 前編」
23/42

第八話・後半

(九)

 園と閨川の激戦が繰り広げられているとき、扉の向こうでは、坂口と道明寺が儀式の準備を着々と進めていた。

 局長始め、何人かの裏方が人質として囚われており、番組の放送は別のスタジオで行われていた。


 道明寺は、桃色のローブに身を包んでいる。

 スタジオの中央には、三本の木と、木製の板で組まれた、机ほどの大きさの祭壇が鎮座し、その淵に、紫色の液体の入った器やら、群青色の柊の実やら、カットされていない紫水晶やらが円く並べられていた。

 坂口は道明寺に言った。

「太陰怪獣は、どうやら思念だけの存在になってるみたいなの。幽霊兵団のように、目玉シールに霊魂を吸着させて実体化させることで、復活させましょう。」

「いいアイデアです。では、大魔王様と同じ金のシールを使いましょう。」

 道明寺は金色の目玉シールを道明寺に渡した。

「太陰怪獣の霊が現れたら、それを投げ込んで下さい。」

 彼は、「ねくろのみこに」を祭壇の中央に置いた。


 彼は本に手を翳して、念を込めた。本は震え始めた。



(一〇)

 一方、ドアの外の激戦は、未だ何れの利も見ていなかった。


 園は、ローブの懐から銅色の目玉シールを取り出した。

「卑怯だぞ。幽霊兵団を使う気か!」

 閨川は叫んだ。

「違うわ。」

 園はシールを刀身に滑らせた。すると、目玉シールが植物の蔓に変わり、刀身の周りを、螺旋を描いて飛び回り始めた。

「私が本気を出すのだから、あなたも超能力で掛かってきなさい!」

「そういうことなら!」

 閨川は刀を青眼に構え、言った。

「空気中の水分子よ、この刀に力を貸してくれ!」

 すると、閨川の刀が瞬く間に水玉に包まれた。


「目玉シール・蔦斬り!」

「超能力・飛沫(しぶき)斬り!」

 二人は、同時に飛び上がった。園の刀は、猛烈な速さで回転する蔓を纏い、緑色に見えた。

閨川の刀は、敵に向かって凄まじい勢いで水飛沫を迸らせた。

 二つの刀は、植物と水の力をそれぞれ帯びて迫り合った。



(十一)

 太陰怪獣復活の儀式が行われているスタジオは、一階と二階が吹き抜けになっており、二階に出入り口があった。


 突如として、この入り口が外から突き破られ、人間が飛び込んできて、一階の床に叩きつけられた。彼と一緒に、閨川が呼んだ大量の水も降ってきたが、儀式の行われている祭壇の周辺には、バリアーに防がれて水が入らなかった。

 人質にされている裏方たちが驚いて見守る中、床に叩きつけられた閨川守は蹌踉めきながらも何とか立ち上がった。


 二階の入り口から、園が入ってきて、一階に飛び降りた。彼女もまた全身に傷を負い、ふらつきながら刀を構えた。閨川も、満身創痍のまま刀を構えた。彼の足が、水を踏んでバシャバシャと音を立てた。

 そのとき、園の意識は、水の音に奪われた。彼女の脳裏に、海の情景が浮かんだ。断崖絶壁。その下に広がる青い海。漣の音。そして、彼女の体に絡まり付く藻の感触・・・。


 その隙を見逃さず、閨川は一気に間合いを詰め、「やあっ!」と叫んで園に斬り掛かった。園が我に返ったときには、既に閨川の剣先が彼女の頭上に来ていた。彼女は、終焉を覚悟した。



 暫し後、園は閉じた瞼をゆっくりと開けた。閨川の刀は、彼女の頭上で止まっていた。

「斬りなさいよ。」

 しかし閨川は、刀を納めた。

「学生の頃、あんたを尊敬していた。それは今でも変わらない。あんたの名は、鈴木緑だ。」

「黙りなさい!」

 園の拳が、閨川の下腹部を打った。閨川は呻いて倒れ込んだ。学生の兵隊が、閨川を取り囲み、殴る蹴るの暴行を加えた。



 祭壇に乗っている本の上には、人型に固まった、紫色の湯気のようなものが現れていた。

「もうすぐです。いよいよ、我らの最終兵器・太陰怪獣が降臨します!」

 閨川は、蹲ったまま、道明寺の言葉を聞いて驚いた。

「それが狙いか・・・!」



 そのとき、人質の一人が声を発した。

「三十数年前と同じだね。」

 すぐさま、兵隊が「私語は許さん!」と言って彼を足蹴にした。


 だが、園里香は彼のその発言を聞き漏らさなかった。

 三十数年前?この放送局で、何があった?聞いた話では、たしか、さる過激派グループによってクーデター計画のために占拠されたとか・・・。

 園は、午前中に学校の屋上で、坂口にされた話の内容も思い出した。

(組織を離反した学生捜査官。彼が死んだのは、確か、この場所ではなかったかしら?

 そして、もしあのとき、私が「彼への敬意を選ぶ」と答えていたらどうなっただろう?

 坂口は私を、裏切りにいざなったのではないかしら?)



 そうしている内に、祭壇の上の湯気は、よりはっきりと人型に固まっていた。

 道明寺は叫んだ。

「大統領閣下、今です!目玉シールを投げ込んでください!」

 園は、道明寺を制止した。

「だめよ!坂口の真の目的は、組織への反逆よ!儀式を中止して!」

 しかし、時既に遅く、目玉シールは投げ込まれた。



 祭壇の上に、真っ黒な煙が立ち込めた。照明は消え、冷房も止まった。だが、黒い煙から、凄まじい妖気が発せられ、気温は冬のように寒くなった。黒い煙は、窓から差し込む日光を遮り、部屋は夜のように暗くなった。


 そこに、麻咲イチロウが駆け付け、閨川を助け起こした。

「どういうことだ。」

「ここで太陰怪獣の復活の儀式が執り行われようとしていた。だが、その裏で坂口が、何か陰謀を巡らせていたようだ。」


 やがて照明が戻り、黒い煙が薄れ、壊れた祭壇の上に、人影が認められた。それは明らかに怪獣などではなく、人間であった。

 坂口はひれ伏した。

「暗黒学生刑事様。」

 道明寺が呆気に取られる中、合衆国の兵隊たちにもどよめきがおこり、彼らもまた人影にひれ伏した。

「坂口!これはどういうことですか!」

 道明寺は怒鳴った。


 やがて煙が完全に退くと、人影の容姿が露になった。黒い詰襟の軍服を着込み、紫色の長髪を具え、額に金の目玉シールが貼られた美青年であった。やがて青年は瞼を開け、邪悪漲る紫の瞳を露にした。

 青年は重い口を開いた。

「私は蘇った・・・、いや、生まれたというべきだろうな。」


 道明寺は、青年に殴りかかった。青年は、道明寺をちらりとも見ずに、腕だけ振るって弾き飛ばした。

 道明寺はごみか何かのごとく床に叩きつけられ、痛みに呻き苦しんだ。

 やがて青年は壊れた祭壇から足を踏み出した。すると、青年は急に苦しみ始めた。

 二種類の顔が、パチパチと入れ替わって現れた。服装も、黒の戦闘服になったり、学生服になったり、軍服に戻ったりした。


 坂口が駆け寄った。

「どうなさいました?」

「案ずるな。『他我』がまだ安定しないだけだ。お前は私のしもべか。」

「あなたを崇拝する『学生合衆国』の大統領にございます。」

「おお、そうか。遂に私の時代が来たのだな。」


 そのとき、青年の前に、赤いペンを構えた麻咲が立ちはだかった。

「お前の時代など来ない。」

「あれは何者だ?」

 青年は坂口に訊いた。

「あれは確か、ペンスピナーとかいう奴でございます。」

「ほう、ペン回しか。」

 言われて、麻咲はペンを回し、放った。

 ギン!

 音を立てて、ペンは跳ね返された。

 麻咲は驚いた。

 青年の手にもまた、漆黒のペンが握られていたのだ!

 光沢のある黒一色のペンには、金色の旭日章があしらわれていた。

「私の他にペン回しの戦士がいたとは、面白い。」

 青年はそう言ってペンを回そうとした。しかし、回らずに、手から滑り落ちた。

「どういうことだ。」

「ペン回しのデータが未入力なのです。一旦、退却しましょう。」

 坂口は青年に触れ、転送装置を作動させ、兵隊と共に消えた。



 園は、本を拾い、道明寺を助け起こした。

「転送装置を持ち逃げされたわ。大魔王様のところまで走るわよ。」

「ええ。何とお詫びしたらいいやら。」

 園と道明寺は、一階の扉から出て行った。

「待て!」

 閨川は麻咲と共に二人の後を追った。



(十二)

 閨川と麻咲は、園と道明寺を追って、放送局を飛び出した。外は既に夕暮れ時であった。

 閨川たちはやがて、近くの荒廃した洋館に入った。


 閨川たちは、二階に上がった。すると、左右から二つの人影が飛び出してきた。和服姿の女と、燕尾服の青年。二人とも、青白い顔に銅色の目玉シールを貼られた「幽霊兵団」であった。麻咲はペンを回し、閨川は刀を抜いて幽霊兵団を倒した。


 その奥には、大きな扉があった。二人は扉を開けた。

「よく来たわね、閨川さん。ここがあなたの墓場よ。」

 そう言って出てきた者の顔を見て、閨川は絶句した。そして、やっとのことで事態を把握し、裏返った悲痛な声で叫んだ。

「お前は・・・、お前という奴は、敵方だったのか!」


 その若い女は、誰であったか?スーツ姿のその女は、閨川守の股肱の相棒であったのだ。

 それは、あろうことか、あの竹中邦子だったのである!



 竹中の左右に、園と道明寺が並んだ。

「言ったでしょ?大きな戦いが迫ってるから、今夜デートしましょうって。」

「竹中!お前がスパイだったとはな。見損なったぞ!」

「あら、私がスパイですって?おーっほっほっほ!」

 竹中は、弾けたように嗤った。

「何が可笑しい!」


 竹中は、不敵な笑みを浮かべた。

「私はスパイなんかじゃないわよ。」

 そう言って、自分の額に、金色の目玉シールを貼った。スーツを脱ぎ捨てると、黒い鎧が曝け出された。

「恐怖変身。」

 彼女の肌はみるみる赤くなり、男性の体格に変わっていった。目は金色になり、やがて彼女・・・いや彼の体は三メートル程にまで巨大化した。そして、空中から白いマントが現れ、その巨体に纏わり付くと、目玉シールから、金色の、牛のような角が左右に生えた。


 そうである。竹中邦子こそは、おばけ会議の首領、恐怖大魔王だったのである!

「フハハハハア!私は首領怪人・恐怖大魔王様であるぞよ!」



 遂に正体を現した恐怖大魔王に、閨川は、麻咲は、勝つことができるのか!そして、暗黒学生刑事は何を狙うのか?

 危うし、閨川守!危うし、麻咲イチロウ!日本に、明日はあるのか!



 つづく

2016/08/15起筆

2023/05/20本文手直し(セリフ以外)




 ―――次話PR―――

 園VS坂口、麻咲VS暗黒刑事、そして閨川VS恐怖大魔王。

 宿命の対決の行方や如何に?

 複雑に絡み合う謎が、全て解き明かされたとき、

 それぞれの思いはどこへ向かうのか!

 心霊戦争が遂に完結する、

 感動必至の第九話「最終決戦 後編」に御期待あれ!!

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