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現代の怪談―The Contemporary Kaidan―  作者: 坂本小見山
06.''A Slash of Tears'' 「目玉シールの殺人鬼」
18/42

解説 〔第六回〕

メイキング オブ 「現代の怪談」〔6〕

~人の心の弱さ~



☆今回は閨川がメイン☆

 完成されたヒーローである麻咲と違い、閨川は、不完全で、人間らしいヒーローだ。

年齢的にも、麻咲が三十三才なのに対し、閨川は二十六才と、まだ若い。

悩みもすれば、失敗もする。


 今回は、義憤と優しさとの葛藤を描きたかったので、麻咲ではなく、閨川をメインに据えることにした。

麻咲なら、中林の殺人欲求の浄化を試み、それが駄目なら、躊躇わずに倒してしまっていただろう。



☆人間の暗黒面☆

 人間の性質は、全てが善とは限らない。

誰の心にも邪悪な側面がある。

そして、それが表に出ていないなら、尚更危険なのかもしれない。

自覚がない分、意識的な制御ができないからだ。

悪に染まってしまう可能性は、誰にでも平等にあるのだ。

だからと言って犯罪者の弁護はできないが、そういう謙虚さも重要なのではないかと思うのだ。


 だが、それもまた簡単ではない。

無辜の市民が凶悪な犯罪に巻き込まれた事件の報道などに接すると、つい、自分の内なる闇を棚に上げて、義憤に駆られてしまうのもまた人間の性だ。


 こうした、人間の持つ弱さが、閨川を苦しみに引き摺り込んでいったのだ。



☆殺人鬼という妖怪☆

 今回の怪獣のモチーフは殺人鬼である。

それも、都市伝説に出てくるような殺人鬼だ。

口避け女といい、ヒキコさんといい、彼女たちは、単なる犯罪者というよりも、「人知を超越した存在」といった調子で語り継がれている。

前回(第五話)のテーマにも関わるが、神の定義を「人間を超越した存在全般」とするなら、都市伝説の殺人鬼もまた「神」と言える。それも「邪神」である。

だから、これもまた、怪談の類型に含めることができると考えている。



☆現実味のある恐怖☆

 この話に限らず、「現代の怪談」はリアリズムを追求している。

もちろんフィクションなのだが、それなりに実話怪談テイストにしたかったのだ。

そのため、大勢の証人がいるシチュエーションや、架空の事件が全国で報道されるような描写などは極力避けている。


 あくまで私個人の感想だが、「ほんとにあった怖い話 夏の特別編2013」の一編「女子高大パニック」は、リアリズムに反するばかりか、全く「恐怖」というエンターテイメントを与えてくれなかった。

詳しい内容はネタばらしになるので書かないが、昼の日中に、全校生徒の前で怪奇現象が起こり、大パニックになる、といったものだった。

これはもはや、人間の知覚の外からやってくる恐怖ではなく、怪獣映画と変わらなくなってしまっていると思う。

それに、こんな大々的なパニックが起こったにも拘らず、全国的に騒動にならないことへの説明もない。


 私は、こういった不自然さを解消するために、この話にいくつかのアイデアを盛り込んだ。

例えば、個人の失踪よりも、一家失踪の方が騒動になりにくいであろうこと。

捜索願が出ず、事態の露見が遅れるだろうし、露見しても、夜逃げや、遺体の見つからない心中として片付けられてしまうかもしれない。

それから、遺体や血痕の処理については、水の力を操る能力という設定で対処した。

これなら、たとえ警察が動き出しても、手がかりが見つからず迷宮入りになってしまうだろう。

そうなれば、人々の心には余計に「怪事件」として印象付けられ、波及していくことだろう。

これこそ「現代の怪談」である。



☆恐怖大魔王登場☆

 さて、今回の最後の場面で、遂に、敵の首領・恐怖大魔王が全貌を現した。


 彼のデザインは、なるべくステレオタイプな「怪物の首領」を目指した。

その結果、洋風になってしまったが、「現代の怪談」なので、全く問題ないと思っている。

赤い肌や、二本の角などには、日本人が抱く西洋のsatan(悪魔)のイメージを反映させた。

服装は、knight(騎士)とking(王)を混ぜたものにして、「武力」と「君臨」を表現した。

身長は、不気味に見えるのに適度な大きさとして、三メートルと設定した。


 ネーミングもまた、ステレオタイプを期した。

聞く者に、怪談のイメージをいの一番に与えるべく、頭に「恐怖」を持ってきた。

続いて、「大いなる」「魔の」「王」で大魔王である。

「恐怖大魔王」。これほどダイレクトに、「怪談の帝王」のイメージを表したネーミングがあるだろうか?

私はこのネーミングが大変気に入っている。

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