第三話 退魔師としての生活
目覚まし代わりのスマホのアラームで、目が覚めます。
昨日一日で色々なことがあり過ぎて、疲れが取れないのか少し身体がだるいです。でも学校には行かないと……。
「……はよ」
「お、おはようございます」
学校に行くと、島塚君はもう来ていて眠そうに欠伸をしていました。
『おはよう神子よ。昨日は良く眠れたかのう?』
「!!?」
島塚君の膝に、又三郎さんが乗っています。こ、こんなところ見られたら大騒ぎに……!
『安心せい。普通の人間には儂は見えぬし声も聞こえぬ』
「そ、そうなんですか?びっくりさせないで下さい」
私が小声でそう言うと、又三郎さんはすまぬすまぬと笑いました。
「行方不明?」
お昼休み。
本来ならば屋上は立ち入り禁止で鍵がかかっているのですが、又三郎さんが話があるとのことでどうやってか鍵を開けて、こうして私と島塚君と又三郎さんは屋上にいます。
『にゅーす。とやらでもやっていたと思うが、この近くにあるトンネルで深夜に行方不明になった者がもう五人目になるらしい』
「ああ。そういえば先生も言ってましたね。深夜には立ち入らないように……って」
『妖魔の可能性が高いのう。……これ、家久!聞いておるのか?』
「んー……」
島塚君は目を閉じたまま、もぐもぐと自分のお弁当を食べています。重箱五段重ねとかどれだけ食べるんですか……。
「そのトンネルに夜中に調べに行きゃいいんだろ?」
『うむ。これがお前の本格的な退魔師としての戦いになるやも知れぬのだから気合いを入れてーー』
「……おやすみ」
お弁当を食べ終えた島塚君は、ぱたりと横になりました。……私の膝を枕にして。
「ひゃああああ」
『全く、困った奴よのう』
そう言った又三郎さんの顔が、ニヤニヤとしていたのは私の気のせいじゃないはずです……。
深夜。
私達は例のトンネルを訪れました。
入口付近にいるだけなのに、あの嫌な感じがします。
「います……ね」
「ああ。間違いないな」
島塚君が私の方を向き、肩を掴みます。
「……いいか?」
「は、はい……」
島塚君の顔が私の首に近付きます。思わずギュッと目を閉じました。
「きゃっ……」
痛みの後、ぺろりと傷口を舌で舐められます。目を開けると、鬼の姿になった島塚君が笑っていました。
「痛かっただろうから、お詫び」
「ーーっ」
顔が熱いです。
そんな私を尻目に、島塚君はトンネルの奥へと進んで行きます。
やがて島塚君は立ち止まります。
空間が歪み、そこから現れたのは、巨大な蛇でした。
『シャアアアアア!!』
蛇が大きな口を開けて尻尾を鞭のように振るいます。
島塚君はそれを後ろに飛んで避け、反動を付けて蛇に近づくと、青い炎を纏った右の拳を叩き込みます。
「!」
ですが蛇は全く効いていない様子です。
『うむ……どうやら外側からの攻撃は効かぬようじゃ』
「そんな……」
攻撃が効かないなんてどうすれば……。
…………!もしかしたら!
「島塚君!『中』ですっ!」
「……中……?そうか!」
私の言葉を分かってくれた島塚君は、蛇の攻撃を避け続けます。そのチャンスが来るまで。
やがてーー。
『シャアアアアア!!』
蛇が大きな口を開けて、島塚君を飲み込もうとします。
「ーー待ってたぜ、その瞬間を!」
島塚君は右手に炎を纏わせると、それを弾のように放出しました。
ーー蛇の、口目掛けて。
『ギャアアアアア!!』
やっぱり、中への攻撃は効果抜群のようで、蛇は苦しみ悶えています。
「これで……終わりだ!」
島塚君は開いたままの口の中に入り、上顎を思い切り蹴りました。
蛇は青い炎に包まれ、やがて消えて行きましたーー。
「島塚君!やりましたね!」
『うむ。上出来じゃ』
ふう。と息を吐いた島塚君に駆け寄ります。
「ありがとな美琴。美琴の助言があったから勝てた」
「いえ……それくらいしか出来ませんし……」
そう。私は見ていることしか出来ません。……それで、本当に良いのでしょうか?守られているだけで……。
「美琴?」
黙ってしまった私の顔を、島塚君がじっと見つめています。
「あ、な、なんでもないです!帰りましょう」
「……ああ」
こうして、私達がパートナーになって初めての戦いが終わったのです……。