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鬼と猫又と私  作者: 悠里
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第一話 はじめまして

初めまして皆さん。

私は鏑木美琴(かぶらぎみこと)と言います。私立立春(りっしゅん)高等学校に通う二年生です。


自分で言うのも何ですが、三つ編みに眼鏡と地味です。胸だって……その……。

と、とにかく、そんな地味な私ですから、学校生活だって地味一辺倒でした。



あの人と、出会うまではーー。




『鬼と猫又と私』




十月も半ばを過ぎ、冬の気配がしんしんとやってくるそんな時期。

私達のクラスに、転校生がやってきました。


「……島塚家久(しまづかいえひさ)です。宜しくお願いします」


灰銀の髪を項で一括りにし、眠たそうな瞳の色は緑色ーー。ただでさえ転校生は珍しいのに、その目立つ容姿に、クラスメイト達がざわつきます。


「席は……鏑木の隣が空いてるか」

「はっ、はいっ」


正直、私は目立つのが嫌いなので出来ればお近付きにはなりたくなかったのですが、何故か島塚君は私の隣の席へ……。


「あ、あの……鏑木美琴です。宜しくお願いします」


一応の自己紹介をすると、何故か島塚君は私の顔をじーっと見つめて来ます。


「あ、あの、何か……?」

「…………」


島塚君は何も言わず、私の首筋に顔を近付けてくんくんと犬のように匂いを嗅ぎました。

そして、一言。


「お前、いい匂いするな」

「……ひ……

ひいいいいいいい!!」


あまりの衝撃的な出来事に、思わず私は教室に響き渡る悲鳴を上げました……。





「……はあ」


文芸部での活動を終え、帰宅する頃には辺りはすっかり暗くなっていました。


とぼとぼと帰り道を歩きます。考えているのは島塚君のこと。

あの後、特に謝罪も無いまま平然と授業を受けていた彼。

……正直、明日からが憂鬱なんですが……。


「…………?」


その時の感覚をなんと言っていいのか分かりません。

ただ、凄く、『嫌な感じ』がしたのです。

その嫌な感じは、今通り過ぎようとしている公園からしているようでした。

早く通り過ぎてしまおう。と早足になったその時でした。


「ーーっ!?」


ぐにゃり、と空間が曲がった……歪んだ?かと思えば、そこから2メートルはありそうな、牛の顔をして、棍棒を持った、二足歩行の、化物としかいいようのない、ものがーー。


『オマエ、オレガミエテルナ?』

「……ひっ!」


化物と私の視線が合います。しゃ、喋った!?


『オレガミエル、オマエ、コロス』

「……!」


逃げなければ殺される。それが分かっていたのに、私の身体は恐怖で動いてはくれませんでした。

化物は持っていた棍棒を振り下ろしました。私は思わず目を瞑ります。



ーー誰か、助けてーー






がきぃん!


そんな音がして、恐る恐る目を開けると、棍棒を両腕で受け止めている島塚君の、姿が。


「大丈夫?」

「は、はい!」

『ヌウウ、オマエ、タイマシ?コロス!』

「逃げろ美琴」


化物が再び棍棒を振り上げます。島塚君は私にそう言うと再び棍棒を受け止めます。


私はその隙に距離をとりました。島塚君は化物の攻撃にひらりひらりと身をかわしています。


「ど、どうしよう……?」

『お前の力が必要じゃ。神子(みこ)よ』

「え……?」


どうしようとオロオロしていると、何処からか声が聞こえて来ました。下の方から聞こえてきます。

私が下を向くと、そこには一匹の猫。

猫が喋った!?


『儂は猫又の又三郎(またさぶろう)。家久のお目付け役と言ったところじゃ』

「は、はあ……。

そうだ!あの化物は?それにタイマシって……」

『あの化物は、闇より生まれし妖魔(ようま)。それを退治するのが退魔師(たいまし)じゃ』

「それじゃあ、島塚君はその退魔師なんですね……」

『うむ。じゃが、家久一人だけでは本来の力が発揮出来ん。神子の血が必要なのじゃ』


神子?そう言えば私のことをそう呼んでいたような……。


「神子というのは?」

『妖魔が見える程の強い霊力を持った人間のことじゃ。つまりお前のことじゃな。退魔師は神子の血がなければ普通の人間と同じ』

「じゃ、じゃあ。私が島塚君に血をあげれば良いんですか……?」

『そういうことじゃ』


その時、

島塚君が化物に吹き飛ばされて来ました。かなりの傷を負っています。


「島塚君!」

「あー……やっぱり良い匂いがする」

「そんなこと言ってる場合ですか!早く私の血を吸って下さい!」

「……良いのか?」


私が頷くと、島塚君は私の首筋に顔を近付けてーー。


「いたっ……」


歯が食いこむ痛み。血を吸われている何とも言えない感触。


「……ありがとな。これで『契約成立』だ」

「え……?」


立ち上がった島塚君の額には二本の角が生え、緑だった瞳は金色に輝き、口には牙が。まるでーー。

鬼。


『ガアアッ!』


化物が棍棒を振り回す。島塚君はそれをジャンプしてかわすと、化物の顔に拳を叩き込みます。

そこから、青色の炎が現れ、化物の身体を包んでいきます。


『ギャアアア!!……オノ、レエ……!!』


化物は断末魔の叫び声を上げながら、消えていきましたーー。




「……立てるか?」

「あ、は、はい」


島塚君が差し出した手を握り、立ち上がります。正直色々なことがあり過ぎて頭が追い付いていません。


「あ、あの、そう言えば、契約成立って何のことですか?」

「……又三郎から聞いてないのか?」

「は、はい……」

『退魔師に血を与えた神子は退魔師のパートナーとして、死ぬまで共に戦うのじゃ』

「え」


言ってなかったかのう。と又三郎さんは首を傾げます。と、とぼけてますか……?

というか死ぬまで!?あの化物達と!?


「……心配するな」


島塚君にポンポンと頭を軽く叩かれます。


「お前は俺が、一生守るから」


笑顔でそう言った島塚君。

私は自分の頬が赤くなるのを感じていました。




こうして、私と島塚君の、退魔師としての戦いが始まったのですーー。





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