第三話
「そろそろ本題に入ってもいいか?」
先ほど出てきたお茶を飲み干した深美が話を切り出した。
「ああ、そうでした。どうぞ」
「その前に、伊崎、悪いが席をはずしてもらっていいか」
断る理由のない伊崎はおとなしく部屋から出ていく。
「退屈なところですが庭でしたらどうぞご自由に」
世羅が気遣いの言葉をかけ、二人になったところで深美が話し出す。
「…三か月前の話なんだが、本州からだいぶ離れた島国を我が国のものにしようと長年温めてきた奇襲計画を“上”が実行した。そこにはエトル族と呼ばれる先住民がいてな、今ではほとんど殺された。…そこで一人の子供を保護したとのことでいま秘密裏に隔離されている。名前もわからないし、言葉も通じない。そしてまだ謎が多いがエトル族特有の力を持っている可能性がある。エトルの力が危険なのは噂で位聞いたことあるだろう?…非人道的な話だが、今は檻に入れられ拘束されている。俺としてはそれをどうにかしてやりたい。だが、俺はエトルの言葉を話せない…。」
淡々と話しているようだが、優しい考えをする深美に、相変わらずだな、と世羅は目を細める。
「だから、私に話してほしいと」
ああ、と言い切る深美に世羅は、
「私もエトルの言葉は挨拶程度しか知りません。それでも良ければ」
頼む、と短く言うと深美は立ち上がった。
「さっそく、今日会いに行く。いいか?」
世羅は肯定しながら立ち上がり、準備を急いだ。
玄関を出ると伊崎が待っていた。三人で車に乗り小一時間ほどで深美達の署へ戻ると、伊崎を降ろし二人はそのまま監禁施設へと向かった。その車中、助手席で揺られている世羅に深美は質問した。
「…また…痩せたか」
その質問に世羅は一瞬戸惑ったが、とぼけるように答えた。
「私がですか?」
その答えに深美はため息をこぼしながら、他に誰がいるんだ、とつぶやいた。
「体重なんて量りませんけど、最近忙しかったのでそうかもしれないですね」
ゆっくり笑顔で答える世羅に深美はますます呆れた。
「あまり、無理はするなよ」
言い捨てるようにつぶやいた深美の言葉に世羅はわざとらしく感動した。
それを鬱陶しく思った深美は軽く声を荒げる。
「お前の心配をしてるわけじゃないからな。少しは樹のことも考えろと言うことだ。大体、お前は昔から自分を過信しているところがある。謙遜しとけば何でも許されると思ってる。謙虚にふるまいながら実は自信過剰って言う一番タチの悪い奴だ。………お前の頭がもう少し悪かったら、あの時だって……」
「ほら、ふかみん。あんまり話してると事故っちゃいますよ」
反撃のつもりで言っていた深美の言葉を遮る世羅に、それがお前か、と大きなため息と一緒につぶやいた。