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第一話

「本当にあのお方と会わして頂けるのですか?」

黒い髪に清潔感のある髪型。

中世的な顔立ちをした賢そうな青年、伊崎 亨(いざき とおる)は自分の背丈を遥かに上回る上司、深美 悠(ふかみ はるか)を見上げていた。


「ああ、俺がそいつに用があってな。」

車に乗り込みながら無表情に言う。

時刻は15時30分を回っていた。


伊崎はパッと笑顔になり

「ありがとうございます!とても楽しみです。」

と、思ったままの言葉をうれしそうに言った


そんな伊崎とは正反対に深美の表情は硬い。

「会わしてやるが、お前の期待するようなすごい人間ではない。」


深美の言葉を聞いても伊崎の笑顔は変わらず。

「どんな人でも、先生のご友人を紹介して頂けるんです。お噂通りとはいかずともきっと素晴らしい方なんだと思います。」


相変わらず上手い言葉を返してくると感心しつつも、ハードルを上げすぎたなと、赤信号でブレーキを踏んだとき、ちらりと隣に座る伊崎に目をやる。

伊崎はこれから会える“天才”に期待を膨らませ、おそらくもう何を言っても聞く耳を持たない様子だ。

まあ、会えばわかるだろうと、やや投げやり状態となった。



しばらく車を走らせるときれいな街並みは一変し古い民家が並ぶ砂利道になる。そのさらに奥に一軒だけ古い家がある。とても和風な。


「…ここだ」

車から降りながら深美は言う。


「ここ…ですか?」

伊崎も遅れをとるまいと車から降り家を見上げる。見上げるといっても、二階などないその家は傍から見れば空き家にさえ見える。車でかれこれ小一時間、本当にここに“あの天才”はいるのか伊崎は疑問に思う。


深美はツタの絡まった門を無視して直接に庭に入る。


「あ、先生。いんですか?」

焦る伊崎をよそに深美はついて来いと言わんばかりに足を進める。正面からは見えなかったが、奥行きのあるそれなりに大きな家だ。その横に広がる大きな庭の一か所だけ綺麗に手入れされている場所を見つけた。

…ハーブ?

畑のように列を作り、規則正しく植えられえている苗は、伊崎にとって見たことのないものだった。そんな植物に興味をひかれていると、突然深美が声を発した。


「いたか。…せら。」


深美の言葉についに会えると伊崎は背筋を伸ばした。こんな変わった所に住む天才は我が強く気難しい人と相場が決まっている。そう構える伊崎をよそに返ってきた言葉は…


「あれ、ふかみんじゃないですかー。」


思わず耳を疑った。しかし少し前に立っている深美は冷静に返事をする

「深美だ。変な呼び方をするな。」


「どうしたんですか?今日は平日ですよ?」

そう言いながら少し癖のある綺麗な薄緑色の長髪をサイドで結んだ青年は、満面の笑みでこちらに歩いてくる。

モデルのような体形とその美しさは、思わず女性と見間違えるほどだ。


「ちょうど仕事が片付いたからな。お前に会いたがっていたやつがいたから連れてきた。」

深美が手で伊崎を指す。


「は、初めまして。伊崎亨と申します。去年大学を卒業し、先月から深美先生のパートナーとなりました。」

伊崎は言い終えると綺麗に深く一礼をした。


「初めまして、世羅と言います。ふかみんがお世話になってるみたいですね。」

そういい、微笑むとせらの長いまつ毛が頬に影を作った。


「とんでもないです。いつも先生には迷惑をかけてばかりで…。」

焦り返事を返す伊崎だが、見れば見るほど男とは思えない美しさに、本当に男の人なんだろうかと、伊崎の中に疑問がわいた。


「男ですよ。よく間違われるんです。」


心の中でつぶやいた疑問に答えられ戸惑う伊崎は言葉に詰まってしまった。


「顔に書いてありましたから。」


終始満面の笑みで話す世羅、怒ってはいないようだ。

「そう…ですか、すみません。」

伊崎は戸惑いから一歩後ろに下がった。


世羅は深美を見上げ、

「それにしてもふかみん、年が二つしか違わない部下にいつから先生なんて呼ばす趣味が?」


ため息をつきながら深美が言う。

「違う、こいつが勝手に呼んでくるんだ。」


*  *  *



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