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黒猫が前を横切ると、不吉な事が起こる

作者: 矢光翼

ツイッターお題シリーズです!

お題「路地裏の猫」

私は猫が嫌いです。理由なんて挙げるのも憚られるほど私の本心は猫を嫌っています。

見る触れるはもちろん、聞くのすら私は嫌いです。

ですから、この目の前に佇む黒猫も、例外なく嫌いなんです。

仕事終わり、訳あって朝の帰宅となった私は自宅へ帰るため路地裏を歩いていました。

普段なら歩いていません。だって夜は暗いし。今は朝ですから、気兼ねなく歩けるのです。

しかし歩いてみたが最後。眼前に嫌悪の象徴が現れてしまいました。

その黒猫は毛並みによってか日差しを反射しキラキラと輝き、そのくせ両目は鋭く鈍く私を見つめており、それに光など感じません。尻尾はパタパタとはためき、たまに前足で顔を掻くだけでそれ以外行動を起こそうとしません。

前足を動かすならいっそのことそのままどこかへ去ってしまえばいいのに。そう思っても黒猫は去りません。

「にゃあお」

初めて鳴いたかと思えば一歩、こちらへ近づいてきます。よしてください、私は猫が嫌いなんです。

第一、見つけても寄り付かないこととか、浴びせかける私からの視線で猫は自分が忌み嫌われているということがわからないのでしょうか。まさかとは思いますがこの猫、私の嫌悪に気付いてわざと近づいてきてるのでは?

なんといやらしい。私は「しっ、しっ」と両手を振りました。決して黒猫に触れないように。

しかし黒猫は動じません。また顔を掻いて、「にゃあお」。一歩前進。

私は一歩後退するも、前進しないと家に帰れないのです。黒猫がどいてくれないと・・・

別にいつもの帰り道で帰っても良かったんですが、あそこはあそこで朝は小学生が多い。一々挨拶をするのが面倒くさいんです。ですからいつも出勤はこの路地裏、帰宅は大通りと決めていました。

胸の奥で苦虫が擂り潰される音。苦渋の決断でした。

心の奥から毛嫌いしている黒猫を押し通るか、億劫な小学生からの挨拶に返事をするか。

第一、私は疲れているのです。朝まで対応に追われていたのです。この期に及んでいらない言葉を発する理由が私にはありませんでした。

消去法です。消去法でやむなく私は黒猫を見据えました。

まるで「ここは通さんが?」とでも言うような挑戦的な目玉。いらつく。

そして黒猫はまた顔を掻きました。鳴いて一歩前進してきます。しかしそこで私は抵抗して見せました。

「待て」

まるで私の愛してやまない犬に対する言葉のようで、非常に苦しかったです。ごめんね全国に住まう犬。いやしき猫にこんな言葉を使うだなんて。

しかしその言葉は効果覿面でした。黒猫は前足を下ろし、じっと私を見つめ直しました。足を下ろすだけで見つめなくてもいいのですが。

私は調子づいて「しっ、しっ」と再び黒猫を追い払おうとしましたが、これには黒猫も反応しません。何の恨みがあってか黒猫は私から離れようとしないのです。

「黒猫が前を横切ると、不吉な事が起こる」

私はよく言う迷信を告げてやりました。お前はそれほど嫌われているんだ。だから姿を消せ。そう思ったからです。

しかし黒猫は立ち退きません。強情ここに極まれり、です。

そしてここで予想外が起こりました。

「にゃあお」

突然黒猫が歩を進めてきたのです。顔を掻くことなく。浮いた前足は顔ではなく一歩前の地面に着地しました。

私は驚きのあまり二、三歩後退してしまい・・・


瞬間、私の目と鼻の先を、大型トラックが通過した。


ぷす、ぷす・・・と奇妙な音が聞こえ、それと同時に大きな音が耳を劈く。時が粘土のように粘りついたようだった。目の前からは黒猫は消えた。それと同時に近くに植えてあった樹木も消えた。

もし私がさっきので後退していなかったら私も轢かれていた。私『も』・・・?

「あ、黒猫・・・」

私は黒猫が消えたと同時に轢かれたのだという事実を忘れていました。今の今まで。ですから黒猫を心配するまでに時間がかかったのです。心配・・・?

異常でした。私の心に数え切れないほどの「感謝」が浮かんでいました。これは異常です。だってこの「感謝」、全てが黒猫へ向けたものなんです。

黒猫が知ってか知らずか私を救ってくれたのだ、そうなのだ。だからこそ私はすぐさまぷすぷすになったトラックの目の前に行ったのです。

・・・もう、手遅れでした。

私は言い表せないほどの黒猫の惨状を目の当たりにしました。

ああ、黒猫。私をこのトラックから退けてくれた恩人。

グロテスクな塊になってしまった黒猫。しかしその姿に私は従来の嫌悪を向けることが出来ませんでした。


「黒猫が前を横切ると、不吉なことが起こる」というのは私が猫を嫌い始めてからずっと信じていることなので一片の曇りなくこれからも信じることが出来ます。

じゃあこの場合は?黒猫は私を救ってくれた。

私は思い出します。黒猫は私の前を横切っていないと。むしろ私が来る前からそこに居て、私はそれを目撃しただけなんだと。

だから私は猫嫌いなら猫嫌いなりに、こういう迷信を提言しようと思います。


「黒猫が前を横切ると不吉なことが起こるが、黒猫が目の前に佇んでいると、不吉なことが横切る。だから逃げろ」


と。

如何でしたか?

私は黒猫を飼っていますが不吉を連れてきたことは一度もありません。むしろその猫のお陰で日々幸せです。

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