第三十話 ――郡山の奥向きに沈む影、やよい“心の医”として歩む道
第三十話
――郡山の奥向きに沈む影、やよい“心の医”として歩む道
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郡山への旅立ち
郡山から届いた一通の文は、やよいの胸に重く沈んでいた。
> 「大坂の女人医者・曲直瀬やよい殿
> その働き、郡山にも届いております」
(……郡山の奥向が……
わたしを呼んでる……
忠明公の城で……
誰かが苦しんでるんや……)
城代・内藤信正の呼び出しを受け、
やよいは執務室で正式に命じられた。
「——郡山へ向かえ。
そなたの医は、大坂だけに留めておくには惜しい」
やよいは深く頭を下げた。
(……行かなあかん……
命を救うために……)
奥向きの女中たちが涙ぐみながら見送る中、
やよいは裏門から静かに旅立った。
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郡山城到着
郡山の城下は大坂とは違う静けさに包まれていた。
(……空気が柔らかい……
でも……
どこか緊張が漂ってる……)
郡山城に入ると、
かつて大坂で忠明公に仕えていた御年寄・千代が
震える声で迎えた。
「やよい殿……
郡山の奥向きは今、とても危ういのです……
どうか……力を貸してくださいませ……」
奥向きの女中たちは不安に沈み、
やよいはすぐに“異変”を感じ取った。
「御台所様が……
お倒れになってから……
奥向き全体が揺れております……」
(……御台所様……
心の病……?)
千代に案内され、
やよいは御台所の部屋へ向かった。
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御台所の沈黙
部屋は薄暗く、
御台所は背を向けたまま動かなかった。
千代が囁く。
「もう三日、
ほとんど言葉を発しておりません……」
やよいは脈に触れた。
(……沈んでる……
これは“心の脈”……
深い悲しみが身体を閉ざしてる……)
やがて、
御台所はかすかに呟いた。
「……忠明様が大坂へ移られてから……
わたしは……ずっと独りでした……
“外様”と呼ばれ……
誰も心を寄せてくれぬ……」
(……孤独の病……
心が凍えてしまってる……)
やよいは静かに薬草を選び、
“心を温める膳”を整えた。
- 百合根の粥
- 大根と芹の汁
- 干し柿
- 温かい白湯
御台所は震える手で粥を口に運び、
ぽろりと涙をこぼした。
「……温かい……
こんなに温かいものを……
口にしたのは……いつ以来でしょう……」
やよいはそっと言った。
「御台所様。
あなたは……独りやありません」
御台所は涙を流しながら、小さく頷いた。
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郡山奥向きの“新たな異変”
やよいが部屋を出ると、
千代が深く頭を下げた。
「御台所様が涙を流されたのは……初めてです……」
だがその直後、
奥から女中が駆けてきた。
「千代様!
やよい殿!
“奥向き全体”で……
新たな異変が……!」
やよいは息を呑んだ。
(……郡山の奥向き……
まだ何かが動いてる……
御台所様の悲しみだけやない……
もっと深い“影”がある……)
胸の奥で、
静かに火が灯った。
(……わたしは……
この城の命を救うために来たんや……
逃げへん……
心の闇も……
必ず照らす……)
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郡山の夜に誓う
郡山の夜風が、
やよいの頬を静かに撫でた。
(……忠明公の城……
ここにも……
救わなあかん命がある……)
やよいはそっと胸に手を当てた。
(……誓いを守るために……
わたしはこの道を歩く……
どれだけ心の闇が深くても……
必ず光を届ける……)
——こうして、
わたくしは郡山奥向きの“核心”へ踏み込み、
新たな試練の幕が上がったのである。




