第十三話 やよい、味と匂いで真実を追い、
第十三話
やよい、味と匂いで真実を追い、二つの道の狭間で揺れながらも前へ進む
——これは、わたくし曲直瀬やよいが、
“料理の技で真実を暴き”、
“産科と御膳所の両立に苦しみ”、
それでも前へ進んだ日の記である。
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◆ 上様の膳に起きた異変——御膳所の空気が変わる
上様が倒れたという急報が御膳所に走り込んだ。
毒ではない。しかし“何かがおかしい”。
玄朔は言った。
「やよい。おまえの舌と鼻で、膳を調べてくれ」
御膳所中が凍りつく中、やよいは膳の匂いを読み、味を舐めた。
(……これは毒やない……
“体質に合わない組み合わせ”……)
玄朔は深く頷いた。
「やよい。正解や」
だがその瞬間、御膳所に重い沈黙が落ちた。
(誰かが……
わざと……?)
千代は静かに言った。
「やよいさん。“味の癖”で探すわよ」
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◆ 味と匂いで犯人を追う——料理は嘘をつかない
やよいと千代は御膳所を歩き、
火床の温度、素材の匂い、残った汁の味を確かめた。
(……この火……
昨日の膳の“熱の強さ”に似てる……)
(……この薬味……
香りが重い……)
しかし決め手にはならない。
千代は三人の料理人を呼び、
やよいは一人ずつ味を確かめた。
(……違う……
この三人ではない……)
千代は御膳所の隅を指した。
「やよいさん。
“もう一人”いるわ」
そこには、雑用係の若い男がいた。
やよいはその料理を口にした瞬間、
胸が震えた。
(……この味……
昨日の膳と“同じ”……)
「……あなたです」
男は崩れ落ちた。
「毒なんて入れてません……!
ただ……
上様に気に入られたくて……
味を濃くしただけで……!」
玄朔は静かに言った。
「その“濃さ”が、上様には毒になる」
料理の責任の重さが、
やよいの胸に深く刻まれた。
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◆ 二つの道の狭間で——やよいの限界
翌朝、やよいは御膳所に立ったが、
火床の火は重く、
包丁を握る手は震えていた。
千代が言った。
「やよいさん。
“二つの道”を歩く者は、
心が乱れやすいのよ」
昼は産科の稽古、
夜は往診、
朝は御膳所。
やよいの体は限界に近づいていた。
味が決まらず、
火が迷い、
やよいは唇を噛んだ。
「……わたし……
両方できるんでしょうか……」
玄朔は静かに言った。
「迷いは悪やない。
迷いは“成長の前触れ”や」
千代も言った。
「やよいさん。
あなたは今、
料理と産科の“境界”に立ってるのよ」
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◆ やよい、迷いを越えて火床へ戻る
やよいは深く息を吸い、
火床の前に座り直した。
(火よ……
わたしの迷いを受け止めて……
静かに……)
火は穏やかに揺れた。
やよいは大根を煮直し、
鶏肉を細かくし、
葛でとろみをつけ、
生姜をほんの少しだけ落とした。
味見をすると——
(……優しい……
体に染みる……)
千代は一口飲んで言った。
「やよいさん。
これは……
“迷いを越えた味”よ」
玄朔も頷いた。
「やよい。
おまえは……
両立できる子や」
やよいの目に涙が滲んだ。
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◆ 老いたやよいの一行
——あの日、
わたくしは“味の癖”で真実を暴き、
“二つの道の迷い”を越えた。
料理は嘘をつかず、
火は心を映し、
迷いは成長の前触れである。
料理と産科。
二つの道は、
わたくしの中で一本の“命の道”へと繋がり始めたのである。




