酒のつまみ
人に愛し愛され、生きたいと思うのは多くの人にとって至極当然なことだろうと、恋愛煩悩な私は考える。それにしても妄想ってなんでこんなに幸せな世界線であるのだろうか。目を覚ましたくないと常々思う。
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昔、数十年前。青臭さが抜けない小学生の頃。
一目惚れなるものを私はしたことがある。小説を読み漁った時期だ。
この時ハマっていた小説があり、それは友人がおすすめしてくれたもので、某魔法小説とは違う面白さがあって面白かった記憶がある。それはそれは面白い小説でかなり冊数のあるシリーズものでのめり込んで読んでいた。その小説は恋愛要素があり過ぎて、ページを捲る度に心臓が拍動を強めていた。
同年のことだ。
運動会といえば、もちろん応援団だろう。声を張り上げて、一生懸命に応援歌を歌う。
教室で本を読む人間に一番遠い存在である。
本の虫ではあるが、運動の記録はいつもクラスの真ん中前後に位置する私は何故か、本当にどうしたのか、応援団やりたいと言った。音楽隊の練習をして忙しい友人に後生だから!と頼み込んだのはいい思い出だ。
運動会には開会式や閉会式、紅組、白組の応援等々、運動の他にセレモニーの練習がある。開会式練習のときに初めて応援団のメンバーが集まるのだ。最初は全く知らない人同士なものだから挨拶と自己紹介から始まり、全校生徒で隊列をつくる。忙しなく動いて、知らない人と応援団かーと思っていた。若干後悔したのは言うまでもない。ただ、当時は非常に真面目of真面目で通っていたのでそんなことは勿論言うはずがない。
何度か先生が声を張り上げて話しながら、隊列が完了した。キョロキョロすると一学年年上の先輩がいた。そう、ここだ。このなんも知らない。なんかかっこいい姿を見たとか、話したとかでもない人をしっかり認識した時、私は恋に落ちたらしい。気づいたら、目で追ってるし馬鹿みたいだった。宿題を解きながら、先輩を思い出すので本当に阿保になったかと思った。
寝る時に手を繋いでる妄想したり、告白したりなんて、随分と熱を上げていた。あの人の隣に立ってみたい、なんて考えたものだ。
恋愛に関してうずうずしていた私は口軽なもので音楽隊の練習で忙しい友人と習い事も同じなため、習い事の友人たちを含め、恋愛相談をした。それほど誰かを好きになることが無かったものだから、かなり聞き込まれた。今思えば、事情聴取かという程だった。
一目惚れ事件から、幾日か経って、応援団のみのお昼休み練習というものが存在した。まぁ、恋愛奥手な恋愛煩悩なため、全然話しかけることはできなかった。
ある日、友人と「今日は応援団の練習で集まる日だよね」と話しながら、特別教室の扉を開けると誰もいなくて困惑していると、後ろから一目惚れした先輩がやってきていた。誰もいないという会話をしていたが、目を見て離せないとはまさにこのことというレベルで血の巡りが良かった。
想いは募る一方で、応援団の練習もよくでき、運動会kskも無事終了し、告白も恋愛奥手には非常に壁が高く、小説もまもなく終わりを迎えようとしていた。
小説では男主人公の片思いから女主人公と相思相愛になり、一緒に地を踏みしめながら歩いていく最後で胸が熱くなる思いだった。
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運動会が終わってから、教室が違うため関わりがなくなった。
このまま気持ちのほとぼりが冷めれば、ただ、恋が終わったはずだった。
ある時、その一目惚れした先輩と同じ縦割り班の同級生でそれなりに仲の良い友人が普通の爆弾ではなくダイナマイトを落とした。
「〇〇先輩は好きな人がいるんだって!」
このフレーズは私に恋の強制終了と共に心に大穴を開けた。
今思えば、その片思いは誰なのかを聞けばいいものの、あまりに傷ついた当時の私にはできなかった。
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「って言うことなんだよ。若干省いたとこあるけど。」
「省いたんかい。えっ、でもめっちゃ恋してたね。想像できん。」
幼稚園からの友人とは旧知の仲であるため、もう内容は過去の栄光すぎて、この子じゃ無かったら、痛いばばあになる。
「まだ人を好きになったことがない。」
「あんたが恋したら、悲しいけど、嬉しい。」
「どっちやねん。片思いばっか。酒のつまみが大体片思い話ってやめたら?」
「ひっぱられるだよお。」
「別にめっちゃ好きだったけど、今好きじゃないじゃん。過去の好きな人たち、まじで大体、年上なんだね。」
「わるいか。」
「文句言う元気あるなら、はよう帰ろう。タクシーで聞くから。ほら婚活頑張りや。」
物語だけに偏った、恋愛奥手煩悩は気持ちを前に出すのが難しいことを幼稚園からの友人は知っているようだ。あぁ、過去に戻れるなら戻りたいことよ。




