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優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした  作者: ゆきのひ
5章 帰還

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81 あなたでよかった

 王宮でメロビングの国王陛下、フレデリク王太子殿下列席のもとに行われた会談は、互いの国に利益をもたらす形で無事に終わった。これには、自国ランブイユのみならず、メロビングをはじめとする隣国の情勢に詳しいアルの知見が存分に発揮された結果に思えた。


 一国の国王自らが、これだけ世事に明るいことは珍しい。しかしアルは、自由傭兵を気取って、何年も隣国を渡り歩いていたのだから、当然すぎる結果と言える。


 会談の会場を後にした私とノルマンを、アルが追いかけてきた。


「また会うことができて、よかったよ」

「はい、アルシオン陛下。お会いできて光栄です」


 他国の王族への正式な挨拶としてカーテシーした私に、アルが眉をしかめた。


「やめてよ、ロッテ嬢……いや、ディアロッテ嬢。僕たち、そんな仲じゃないだろう?」

「いや、そんな仲だからな、ディアは俺の婚約者だ」


 割って入ったノルマンに、アルは頭を掻いた。


「それは聞いたけど……それはそうと、公爵は、僕に対してもう少し礼をとってよ。一応、他国の国王なんだからさ」

「そうだったな。じゃあ、正式な挨拶でもしようか?」

「いや……調子が狂うから、それはやめてくれ。もう、いいよ……」


 古い友人である二人のやり取りが微笑ましい。


「ふふっ……では、陛下のお言葉に甘えて、堅苦しい物言いは控えさせていただきますね。ねっ? ノルマン様も」

「ありがとう……じゃあ、少し歩かないか? この王宮の庭園、懐かしいよ」

「そうだな。アルとは何度か、ここで過ごしたよな……」


 温かな日差しが花壇に振り注ぎ、庭師が水やりしたばかりなのか、花弁に残った水滴が日差しに煌めいている。


 私たちが去った後のランブイユのこと、ヴァンホーテ侯爵家で過ごしている三人のこと……そよ風が頬を撫でる心地いい空の下、アルの話が途切れた時、私は胸につかえていた疑問を口にする。


「ずっと不思議に思っていることがあるんです。どうして、魔法師たちは虎の姿の精霊を創ったのかなあって。高位精霊なら他にも、ペガサスやユニコーン、銀狼や白鹿、大鷲や雪豹、獅子、白蛇だっているじゃない? なのに、どうしてよりによって、ルオンだったのかなと……」


 私の呈した疑問に、ノルマンも同調した。


「それは俺も考えていたところだ。そちらの調査で、何かわかっているのか?」

「ああ、それね……理由は簡単だよ。だって今、君があげた高位精霊は皆、メロビング王室で以前から所在を把握していたし、そのことを知っている者も多いだろう? その一方、公式な記録に残っているのに、なぜかここ百年近く所在が確認されていない高位精霊が唯一、銀毛の虎だった、ということ」

「あ……そういうことね」

「なるほどな」


 これには、私もノルマンも納得だ。

 確かに、同じ姿の精霊が二体、同じ時代に存在するとしたら、精霊界の理に反する。すぐに偽物だとばれるだろう。 


「もっとも、理由を知る魔法師たちが皆、この世から消えてしまったから、僕の推測にすぎないんだけど」


 永遠に近い時を生きる精霊は、その血をたどって主を決める。ルオンもそうだ。

 精霊の主となった者が婚姻や養子縁組などで別の家門に移れば、その血も移動する。そして、その血がサルグミン家に移ったこの百年余り、ルオンもその主である精霊師も世間から隠されたのだ。


「そう考えると、もとはと言えば、サルグミン家がここ何代かの精霊師を隠していたことが元凶なのよね……」


 自嘲気味に呟いた私に、ノルマンが真剣な目を向けた。


「それは、精霊師を護るためだったんだろ? 家門を護るための、それも一つの策だったのだから、ディアが責任を感じることはない。王室に把握されている高位精霊の家門でも、精霊師が誰なのかまでは報告を拒んでいることがほとんどだ」

「そうね……」

「それに俺は、ディアの家族が危惧しているようなことは、絶対に起こらないと誓える。ディアを魔物討伐の前線に立たせるつもりは毛頭ない。モントロー領では、精霊師がいなくても魔物討伐に支障はなかった。これからもそうだ」


 私はもう、精霊師だということを隠さないことにした。

 それを隠さなければならなかった理由が、無暗に魔物との戦闘に駆り出され、命の危険に晒されるからということなら、精霊がいなくても問題なく魔物を退けてきた公爵家に嫁ぐことになったのは僥倖だ。

 だって、精霊師である私をわざわざ前線に立たせる必要なんてないのだから。


 とはいえ、どうしても必要な時には、もちろん私もルオンと一緒に浄化しに行くつもりではある。あるいは、精霊力で傷や毒を治癒するという後方支援で役立つこともできる。


 そう考えると、私がノルマンと婚約することになったのは、神の采配なのか……。

 モントロー領の人々は、これまで精霊に馴染みがなかったというだけで、ルオンを好意的に捉えてくれている。


「でもさ、僕と同じことをあの子――ミニョンも言っていたから、間違ってないと思う」


 ミニョン? ずっと姿が見えないと思って心配していたら……。


「あの子、ランブイユにいるの?」

「そう。もしかして、知らなかったの? 僕もさ、最初は気づかなかったんだけど、王宮の僕の部屋のお菓子が、頻繁に消えるんだよ。だからおかしいと思っていたら……」


 あれからランブイユで忙しく政務をこなしていたアルは、どうしても魔法を使う機会も増えていた。

 頻繁に魔法を使うことで大量に失われた魔力を早く回復させるため、甘いものを常に切らさず、自室や執務室のテープルに山のように用意していたアル。


 するといつからか、食べた覚えがないのに、あった場所からほとんどなくなっていることが立て続く。それである時、わざと山と積んだお菓子をそのままに部屋から出て魔法で監視していたら、ミニョンが姿を現して、美味しそうにぱくぱく食べ尽くしていた、という話。


「ミニョンには、お菓子なんて言えばいつでも欲しいだけあげるから、ここにいて時々、魔法で僕を手伝ってよ、って頼んだんだ」


 以来、ミニョンは機嫌よく、魔法を使ってアルを助けてくれているのだと言う。

 助けた後にはちゃっかり、その時に食べたいお菓子を遠慮なくリクエストしているとのこと。


「たまには、私のところにも顔を見せてね、って伝えてもらえる?」

「わかった。モントロー城でも、美味しいお菓子を用意してくれるってさ、って伝えておくよ」

「ふふっ……そうね。お願い」


 並んで歩いていたノルマンが、足を止めた。

 目の前には、オルテンシアの生垣。


「ここ、覚えているか?」

「うん。懐かしいね……」


 この生垣の先には、私も知る池があるはずだ。

 ここであった出来事が思い出されて、私の胸がチクリとした。


「じゃあ、公爵は、ここでずぶ濡れになったことも覚えている?」

「ははっ、そんなこともあったよな。あの時、アルが人を呼びに行ってくれて……あの時の女の子、どうなったかな?」

「ああ、公爵が池に飛び込んで助けた女の子ね。あれ? そう言えば……」


 えっ? 池で助けた……?

 私はノルマンをじっと見つめた。


「あの……その時、ノルマン様が助けた女の子って……」

「うん。僕もね、なんかそんな気がしてたんだけど」

「ああ、ディアと同じ髪色をしていたな、って思い出したよ」


 私は開きっぱなしの口を手のひらで覆った。


 ずっと勘違いしていたんだ……。


「ありがとう、ノルマン様……。あなたはいつでも私を救ってくれる人なんですね……」


 そう思ったら、夢中で彼の胸に飛び込んでいた。

 私を受け止めてくれたノルマンの温かさが、じんわりと胸にしみてくる。


「あのさー、見せつけないでよね……」とアルが呆れたように呟いたのが聞こえたけれど、それにかまわずノルマンは私を抱えた腕に力を込める。そして耳元でそっと囁いてくれた。


「あなたでよかった……」


 私もです……そう返そうとしたが、言葉にならない。


 高い空から私たちを見下ろすかのように、小鳥が軽やかに囀る声が聞こえた。

 たぶん、きっと……ノルマンとなら幸せになれる。


 そんな確信めいたものを感じながら、私はまた彼の胸に頬を寄せた。


【完】


当初の想定より、だいぶ長いお話となってしまいました…

最後までお付き合いくださった方、ありがとうございました!

心より感謝申し上げます。


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