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優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした  作者: ゆきのひ
4章 ランブイユ編

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69 魔法は解ける

 使用人に案内された王太子宮の賓客室で、私はほっと胸を撫で下ろした。


『魔法で姿を変えるのは簡単だけど、そんな魔法は王宮魔法師たちには見抜かれてしまう。僕もそうだけど、魔法師というのは大抵が魔法を過信していて、魔力の気配には敏感だ。でも、魔力を帯びないものには案外鈍感で、騙されやすいものなんだよ』


 そう言ってアルは、私に男装して入城することを提案したのだ。

 王族が、他国の友人を自分の宮殿に招くことは珍しくない。それに他国の人間ということにしておけば、ランブイユ独自のマナーに疎くても怪しまれることはない。


(王太子の友人が女性だったら、かえって注目されてしまうだろうけど、男友達ということなら平気よね)


 私はクラヴァットの結び目に留めたブローチ代わりの髪飾りに、そっと手で触れた。

「せっかくのロルフェの品なんだから、着けたらどう?」とアルに言われて、着けてきたのだ。

 ここにいる間は男性の姿で過ごさなければならなくて、少し不安もある。けれど、なぜかこの髪飾りといつも共に在ると思うと、気持ちが落ち着いてくるのだ。


「ルオン、もう見つけた?」


 ――うん。魔力と瘴気の混じった、とびきり不穏な感じのする場所があったよ。


 姿を消したままのルオンが、私の頭の中にその声を流す。

 毛玉は私の上着のポケットで大人しくしている。


「アルが言った通りね」


 私の周囲の空気がわずかに揺れたのは、ルオンが頷いたからだ。


 まもなく部屋を訪れたアルと共に、私たちは王城内の散策を装って、その場所を覗き見てみることにした。



 視界の先に入ってきたその宮殿は、他の城内にある建物の中でひときわ古めかしさが際立っている。

 今は現国王によって、王宮魔法師たちに与えられているこの宮殿は、かつて地下の瘴気の濃度が急に濃くなったことがあり、以来、長らく打ち捨てられ、使われていなかった。


 ある時、魔法師たちの不審な挙動にきな臭さを感じたアルは、その目をかいくぐって魔法師たちの宮殿に忍び込み、地下の大広間の床に描かれていた魔法陣を目にしていたのだ。しかも、たびたび生死の知れぬ魔物が運び込まれていることも突き止めた。


 その後、この宮殿の地下への立ち入りは、国王によって固く禁じられる。理由は、再び瘴気が湧き出してきたからという、いかにも最もなもの。


「まあ、嘘だろうね……だって、危険なほどの瘴気が湧いているなら、その気配は僕に容易にわかるはずだけど、そんな様子はちっともないからね」


 そこに立ち入りを許されるのは、限られた数人の魔法師のみ。その一人が、バレリーだと。


「あそこにあった魔法陣は、決して瘴気を抑えるためのものなんかじゃない。破壊しないといけないんだ」


 あの魔法陣は、偽の精霊を作り出す禁制魔法のもの。禁制魔法には代償がつきものだ。それが魔物だけで済んでいる訳がない。


 私たちは宮殿を警備する魔法師の目に留まらない絶妙な位置で、足を止めた。


「ロッテ嬢、その先には一歩も踏み出しちゃだめだよ。その一歩先は、あの宮殿の魔法師たちが設置している一番外側の魔法結界だからね」


 声を潜めたアルに、私はびくっとして後ずさりした。ポケットの中の毛玉も、ぴくっと動いたのが感じられた。

 同時に、私の周りの空気がさざ波のように揺れる。これはルオンがくすくす笑っている気配。


 私が驚きすぎたのが、そんなにおかしいの?


「……って、脅かしすぎちゃったね。この結界は何重かに分かれているようで、外側に行くほど効力が弱くなっている。その先に一歩踏み出した程度なら、変身魔法の類が解けるくらいだよ」


 そういうことなら、少なくとも私は魔法で姿を変えているわけではないので、問題ない。


「なら、姿を消しているルオンの姿が現れてしまったりは?」

「それも心配ないよ。高位精霊に、この程度の魔法なんて無効だからね」


 ほっとした私に、アルは言う。


「とはいえ、宮殿に近づくほど結界の効力は強くなるし、警備の魔法師もいる。正面突破は楽じゃなさそうだね。やはり城内すべての宮殿をつないでいる地下道から侵入したほうがいいだろうね。あそこは夜会当日に警備が手薄になるし、警備しているのは、魔法師ではない兵士たちだ」

「そうね。なら、地下道の様子も見にいかないと」


 そして踵を返して元来た道を戻ろうとした時、毛玉がポケットから顔を出した。そこへ不意に吹いてきた風に、あっという間に毛玉の体がさらわれる。


「あ……毛玉ちゃん!」


 掴もうと手を伸ばしたけれど、毛玉の綿ほどしか重さのない体は軽々と風に流され、さっき聞いた結界の中へ、ふんわりと着地した。


 ――ポンッ!


「「えっ?」」


 私とアルがそろえたように声を上げた。

 なぜなら、そこには降って湧いたように現れた黒髪の少女が、決まり悪そうに地面に尻餅をついていたから。


 すると、私たちの姿に気づいた警備の魔法師たちが、こちらに向かってくる。


(逃げないと――!)


 そう思った瞬間、地面からひょいと体を起こした少女が、何事か唱えるのが聞こえた。


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