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優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした  作者: ゆきのひ
4章 ランブイユ編

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66 意外な秘密?

 ドレスを着つけてくれたメイドたちが部屋を出ていくと、猫のルオンが姿を見せた。背中に毛玉を載せている。


「ディア、それ、見慣れないドレスだね?」

「ああ、これはランブイユのドレスだからね。この国のドレスは、羽根のように軽い着心地で、動きやすいほうがいいとされているようだから」


 私が着ているドレスは、軽くて薄い生地を何枚も重ね、そこに繊細な刺繍がされている。以前、王宮のパーティーで見かけた、ランブイユからの使節として来ていた高官の夫人が着ていたものと同じスタイルだ。伝統的なスタイルを基本としているメロビングでのドレスとは、かなり趣が異なっている。


「ふうん……ま、意外とデイアに似合ってるからいいけど」


 そう言えば、これは誰のドレスだろう?


「ルオンはもう、このお屋敷の中をこっそり見て回って来たんでしょ? 侯爵夫人や、アルのごきょうだいがいる気配はあった?」

「いや、ここには侯爵しかいないようだよ。他はみんな、使用人」

「そう……」


 だとしたら、これだけの屋敷を持つ高位貴族なら、ここで大きなパーティーが開催されることもあるだろう。そんな時に、何らかのアクシデントでドレスを汚してしまう夫人や令嬢はいるものだ。そんな彼女たちのために、替えのドレスがいくつか備えられていて不思議はない。


 カサカサ。

 コソッ……。


 その小さな音に振り向くと、テーブルの上に飛び乗った毛玉が、夢中になってお菓子を食べている。

 メイドがティーセットと一緒に、たくさんの甘い菓子やフルーツを載せたケーキスタンドを置いていってくれたのだ。


 そう言えば、少し前から急に毛玉が無口になった。よくよく思い返せば、アンテ城で様子がおかしくなった時からだ。


 初めは元気がないのかと思って心配していたけれど、食欲がないわけではない。口数は減ったけれど、好物の甘いものをよく食べるのは相変わらずだ。

 いや、前よりもたくさん欲しがるようになったと言ったほうが正しい。


(やっぱり毛玉ちゃん、どこかおかしいのかな……?)


「ねえ、ルオン」


 ルオンなら何か知っているかもしれないと呼びかけてみたら、ベッドの上に丸くなって目を閉じてしまっている。


(アルはいつ帰ってくるのかな……)


 気持ちよさそうに眠るルオンを眺めていたら、私もうとうとしてきて、いつの間にか椅子に座ったまま眠り込んでしまっていた。


 ◆◆◆


「ロッテ嬢、いる? 僕だよ、入ってもいい?」


 扉をノックする音とアルの声に、私は眠りから覚めた。


「あっ! はい。どうぞ……」


 慌てて立ち上がった私を見て、扉を開けたアルが目を見張った。


「ロッテ嬢、そのドレス……」

「えっ……?」

「そのドレスは僕の母が着ていたものなんだけど、よく似合っていて驚いたよ」

「アルのお母様……?」

「うん。以前はよく、ここに僕を訪ねてきていたからね。母が来た時に困らないように侯爵が用意してくれていたんだ」


 あれ? 今、さらっと「侯爵」って言った?


 侯爵様はアルのお父様ではないのだろうか? でも、執事はアルのことを、確かに「坊ちゃま」と呼んでいた。

 それに、お母様が訪ねてきた時、ということは……?


 アルのお母様と侯爵様はあまり仲がよろしくないのだろうか。それでお母様だけ領地の屋敷にいるということも、貴族には珍しい話ではない。

 とにかく、これ以上、深堀するのはよくない話題だ。


 私の戸惑いに気づいたのか、今度はアルが慌てて言った。


「あ、僕の母は今も元気でいるよ。これについては追々……。それより今は、肝心の話」


 真顔になったアルは、長椅子に座った。そして座るなり、テーブルの上のケーキスタンドにひょいと手を伸ばして、クリームたっぷりのいかにも毛玉好みな甘いプチケーキをトングで挟んだ。


「ちょっと、魔力補給のため、食べながら話すのでいいかな? 行儀が悪くて申し訳ないけど、今日は移動魔法を繰り返したから、魔力が尽きそうなんだ」

「かまわないけど……アルって、あんまり甘くないものが好きじゃなかった? なのに、それ……」

「ああ……」


 アルはトングに挟んだケーキを小皿に取ると、フォークを差して口に運んだ。


「あー、生き返る気がするよ……。消費した魔力は、時間が経てば自然と戻ってくるものだけれど、どういうわけか甘みの強いものを食べると、その回復スピードが速くなるんだよね。それに、普段はどんなに甘いものが苦手でも、魔力を消費した後は、欲しくなるんだよね。同じようなことを言う魔法師は多いよ」

「そうなの……」


 言われてみれば、ギルドの魔法師のエミールも、一仕事終えた後はいつも甘いものを頬張っていたっけ。それを見て、単にエミールはスイーツ好きなんだと思っていたけれど、そんな実利的な理由があったとは。


 唇の端についたクリームを舌でぺろりと舐めたアルに、何だか既視感……?

 そうだ、毛玉がお菓子を食べている時に似ているのだ。

 当の毛玉はといえば、ベッドの上で静かに眠っている。その姿につい、くすりとしてしまった。


「ひどいなあ、笑うなんて……」

「ごめん、アル。笑ったのはそういうわけじゃなくて……あの、追加でもっともらおうか? 厨房に行って頼んでくるけど」

「いや、もうこれくらいで大丈夫」


 決まり悪げに苦笑いしたアルだったけれど、すぐに真顔になった。


「一週間後に王城で夜会が開かれる。その夜会に一緒に行こう」


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