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優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした  作者: ゆきのひ
3章 スイユ編

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58 あなたを追って

「アンテ城、って言ったらわかるかい?」


 フレデリク王太子が口にした名に、ノルマンは怪訝そうに頷いた。


「幽霊城、と呼ばれることもある廃城だろ? 統治者不在の地だったな」

「ああ。罪人がついに口を割ってね、そこに魔物を何度も運び込んだそうだ。その魔物は死骸がほとんどだったが、時には生きたまま、拘束魔法をかけて運び込んだこともあったそうだよ」

「で……俺にそこを調べろと言いたいんだろ?」


 そうしてフレデリクの命を受けたノルマンは、副官のステファンをはじめとした数人の騎士を伴い、アンテ城の中に足を踏み入れた。

 この長年放棄され、朽ちかけた古城にまつわる伝承はよく知られている。濃い瘴気に満ちていたのは、はるか昔のこと。

 だがこれは……。


「公爵様、これは聞いていた話と異なるようですね」


 最初にその疑念を口にしたのは、フレデリクが伴としてつけてくれた王宮魔法師だ。


「魔法師殿は、どう思ったんだ?」

「ええ……」


 ノルマンに聞かれて、その魔法師は眼鏡のフレームを中指で軽く押し上げた。


「ここには確かに、魔法の痕跡があります。しかもあの石にかけられていたのと同種の禁制魔法の。ですが……妙ですね……というより、素晴らしいです!」

「素晴らしい?」


 魔法師の予想外の答えに、ステファンがつい声を上げる。

 ノルマンもその思いもしない一言に、目を丸くした。

 魔法師はまた、眼鏡のフレームに触れた。


「ああ……誤解なきよう。私が素晴らしいと言ったのは、その禁制魔法の効力を完全に失わせるほどの浄化が精霊力によって行われた気配を感じ取れるからです。それを素晴らしいと表現したのです」


 ノルマンも不思議に思ったのは、ここに足を踏み入れて真っ先に感じた、気の乱れと残響。

 それはルキュレ鉱山で感じたのと同じだと気づいた。けれど、それとは決定的な違いも感じたのだ。一帯の空気が完全に浄化され、見えない光の粒を浴びたかのようなこの感覚――これには覚えがある。


「これほどの完璧な浄化は、並の精霊と精霊師では行えません。高位精霊と上級精霊師以外ではありえません。ですが、王室で把握している上級精霊師の方々がここの浄化にあたったという報告は聞いておりませんね」


 ノルマンにはその言葉で十分だった。

 届いた手紙に認められていた、短い謝罪と「探さないでほしい」の無情すぎる一文。


 だが、その彼女に近づいている――。


 確信を得て、胸に希望が灯った瞬間だった。


 ◆◆◆


 ベレニスがドレスを用意してくれると聞いて、少し嫌な予感はしていたのだけれど……。


「ねえ、本当にこれを着て行かないといけない?」


 大きく胸元が開き、体のラインがはっきりとわかるドレス。加えてふんだんに使われている高価なレースが、華やかさを際立たせている。

 でも、こんなドレスを今まで着たことはないし、自分で選ぶなら、絶対にありえないものだ。


「私には派手すぎると思うんだけど……それに、これでは探るどころか、目立ってしまわない?」

「何言ってるのさ。ロッテはこれから、自分がどこに行くと思ってる? 地下遊技場だよ。ここぞとばかりに毒々しく着飾ったレディばかりだから、それくらいじゃ目立たないよ。むしろ、派手じゃないほうが目立つって」


 慣れない姿の気恥ずかしさに、置かれた姿見をちらりと見ただけで顔が赤くなった。


「ベレニス、ロッテ、支度は済んだ?」


 そこへノックの音がして、アルの声がした。


「ロッテもできてるよ。さあ、エスコート、よろしくなっ!」


 ベレニスに背中を押されて、扉の外へ押し出された私は、そこに立っていたアルの姿に、目を見張った。


「アル……すごいわ、童話の中の貴公子みたい!」


 もともと端正な容姿なのは知っていたが、華やかな衣装に身を包んだアルは、生まれながらにそれを着慣れているかのような違和感のなさだ。


「ははは……ロッテにそう言ってもらえると嬉しいよ。だけど、ロッテも別人だね。すごくきれいだよ」

「え……そんな冗談言わないでよ……初めて着たから、恥ずかしいしかなくて」

「ひどいなあ、正直に言っただけなのに。自信持っていいと思うけどな」


 アルの屈託のない笑顔に、少しだけ緊張が解けた。

 そう、これはお仕事なんだから、と気分を切り替えた。



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